第十七話 閉じ込められた?
前回はお礼参りの怖い人たちを執事さんと倒して、砂浜のトレーニングが始まる所でした。
昼間、上級生が地元のチンピラに絡まれたのを追い払ったとか、自慢してた。上級生男子の周りには取り巻きの女の子がいっぱい居て、凄い凄いって騒いでいた。ぼくだって、チンピラを追い払うくらいできるんだよー。
後で苛めてやる。
そうだ、食堂の人に言って料理に雑巾の水を入れさせよう。それが良い。ボクはこのホテルの経営者の息子なんだから簡単なんだよー。
それは、明日のお楽しみだ。
ぼくは暗い中をアイツの部屋へ向かっている。
このホテルへは、何度も来ているから部屋の場所くらい良く分かってるよー。
昼間の騒動で就寝時間になっても、なかなかみんなが寝ないので深夜をだいぶ回ってしまった。
あいつを苛めるために準備もしてある。
支配人に言って物置に案内させたし天井から覗ける様に穴も開けさせた。
だから、さっきボイラー室の天井裏から物置まで移動して、覗いてみたのに、電気を点けていないのか真っ暗だった。
せっかくあいつの、だらけている所を撮影しようとして天井裏まで来たのに。くやしいんだよー。
屋根裏を這い出すと埃だらけだった。
でもここは我慢して、ボイラー室から音を立てないように、非常灯の明りと廊下の薄暗い明りに照らされながら物置までやって来た。埃だらけの服を着替えて、お風呂に入りたいけど、あいつの泣き顔を思って我慢する。
事務所から持ってきた鍵をポケットから取り出す。
そーっと鍵穴に差込、ゆっくり回した。
小さく、カチャっと音がした。
「やっ……。」
思わず声を出しそうになったのを口を押さえて我慢した。
何回か飛び跳ねる。
鍵を抜こうとして、ドアノブを見ると、ドアノブの小窓が『開』と表示されている。
「えっ。」
今鍵を閉めたはずだ。それなのに『開』と表示されてるなんて何がどうなってる。
あ、そうか。ぼくより先に誰か鍵を閉めておいたんだ。支配人が気を利かせてやったのかもしれない。
それとも誰か上級生か。あいつ嫌われてるからそれも有りだな。
ぼくはゆっくり鍵を回す。
小さく、カチャっと音がした
ドアノブの表示は『閉』に変わった。
これでよし。
声が出そうになるのを口を押さえて我慢しながら、ぼくは部屋へ帰った。
その後で入ったお風呂は楽しくて仕方が無かった。
夜物置で寝ていると天井から人の気配がしたが、気配だけだったので、そのままにしておいた。
その後入り口で人の気配がしたけど、そのままにしておいた。上手くいけば問題ないし、駄目ならドアを壊せば問題ない。
日が昇る頃に起きて、トレーニング用の服に着替え、砂浜までやって来た。ぼく担当の執事は、もう砂浜で待っていた。今日から厳しいトレーニングが始まるのだ。
執事にドライバーは持ってきたかを聞かれて思い出した。
カギ掛かって無かったって事だよね。
上手くいったってことだ。
昨日カギを外して、ロックの部分をずらしておいた。開けると、閉めるの表示だけ逆にしておいた。それだけの事なんだけどね。
もしカギを閉めても表示に気が付けば『閉』表示側に、カギを開けてもらえるってことだからね。
僕の世界に在った(この世界にもあるかも)閂だと、一目見て分かるけどね。
もっとも朝ごはんの時間になれば、カギが閉まっていても、小説家の息子が騒いで開けてくれると思う。
でも早朝のトレーニングが有ったのでカギが閉まっていなかったのは良かった。
鬼のトレーニングを何とかこなし、部屋に戻って着替え終わった頃、小説家の息子がやって来た。予想通りだ。
後でカギの表示を戻しておこう。
簡単な話でした。カギの向きを変えただけでした。
実際にカギのロックが調子悪くて、交換までズラシテ使っていた事が有ります。