第十六話 お礼は簡単な方がいい
前回は補習をサボった先輩生徒が、不良に絡まれていたお話でした。
帰ったときには、心此処に在らずだった先輩達が、晩御飯の時間には、不良を退治したんだと、同級生や下級生の女の子達に自慢げに話していた。
「退治はしてないよなぁ。」と
ほおばったトンカツをモグモグしながら、作家の息子が、ぶつぶつ言っていた。
退治はしてないから、後で仲間を大勢連れて戻ってくると思う。お姉ちゃんと見たドラマはそうだった。
僕はこの後、執事さんとトレーニングするので、どうでも良い。と思っていると、ホテルの人が執事さんからのメモを持ってきた。部屋でトレーニング用の服に着替えて待っていたんだけど。
『今晩ちょっとした用事がございます。トレーニングは明日の朝から行いますので、寝坊なさらないようお気お付け下さい。』
仕方が無いので、夜も屋上でストレッチと素振りを繰り返していたら、結構な殺気が漂ってきた。
魔力を使って意識を集中すると、執事さんの気配もある。昼間の不良たちが、オジサンみたいな年齢の不良を沢山連れてやってきたみたいだ。ホテルから少し離れた広い道の車道で、執事さん一人と大勢が向かい合ってるみたいだ。
そっちの方へ移動して目を凝らすと、不良たちは長い棒や短い棒を手に手に持っている。執事さんは、木の剣の倍以上有る棒を持っている。棍だろうか、それとも薙刀っていう武器かもしれない。
執事さん多分強いけど、実際に戦った所は見てないし、ちょっと人数が多し。慌てて、屋上から隣の屋根に飛び移る。その時干してあるタオルを一本借りた。
昼間は投げるだけで、自分が行けなかったから、もし緊急に行く場合にどんなルートが有るか景色を見ながら考えておいたのだ。えらいだろ。
屋根に飛び移りながら、顔にタオルを巻く。
行くのは良いけど武器が無い。途中不良たちの様子を伺うと、ちょっと離れた場所で棒をもって様子を伺ってるやつが居たので、その横に飛び降りてお腹にドンと拳を当てたら気絶してしまった。そんなに強くやってない。緊張してて、びっくりしたんだともう。
持ってた木の棒を拾って、執事さんのところへ駆けつける。
「え、えっと。」「儀によって、助太刀いたす。」
確か、これで合ってると思う。
「あ、ぼっ、」「どこのどなたか存じませんが、かたじけない。でござる。」
何となく気が付いてるかも知れないけどまあ、大丈夫だろう。
「……無理しないようにしてください。」と小さい声で言ってくる。
「はい。」と返事して向かい合わせになる。
「背中はお任せいたしますよ。」
「はい。」
途端に不良たちがこちらへ襲い掛かってくる。
執事さんの持っているのは棍だった。襲ってくる相手の武器を絡めて飛ばしたり、横へ払ったりしている。僕も真似して武器を払ったり、飛ばしたりした。
武器の中には柔らかい木で出来ているのか、刀に意識を集中して払うと真っ二つになって飛んでいく木の棒も合った。
今のところ二人とも不良に大きな怪我をさせる様な攻撃はしていない。武器が折れたり屋根の上に乗ったりして手持ちの武器が無くなると、不良がなんだん減って来た。
「助太刀のかた、お強いですな。」
「貴方も、強いです。僕の助太刀なんて要らなかったんじゃないですか。」
「いえいえこの位の戦力差が無いと、相手に大きな怪我もさせず倒すなんて無理ですからな。ははは。」
不良はドンドン減ってきて、黒い服の学生の不良と、怖い顔の大人の不良だけになった。
大人の不良が何か取り出して、こっちへ何か向けた。
「下がって。」
執事さんが僕を自分の後ろへと押しやった。
「おやじ、さすがにそれはやばいよぉ」
「うるさい、こんだけコケにされてるんだぞ。一発オミマイシテヤル。」
向けられた拳銃に、さすがの執事さんからも恐怖の意識が伝わってくる。
僕はホケットに補充しておいたドングリをはじいた。
この距離なら投げるまでも無い。
ドングリは拳銃めがけて飛んでいって、拳銃をはじかず、穴にスッポリとはまった。
大人の不良が引き金を引くと大きな音がして不良たちが飛ばされた。腕からは血が流れ肉片も飛び散っている様だった。
そこへ大きな音を聞いて飛び出してきた近所の人と警察官がいた。そんな近くにいるならもっと早く出て来て欲しかった。後には棍棒を持った執事さんと血だらけの不良二人だけが残った。僕は大勢の人が集まる前に屋根の上からホテルへ戻った。
屋上へ戻るまで、持ったままだった木の棒は幾つかに折って、ポケットに入れておいた。
次の日執事さんに大変だったと話を聞かされた。
姉さん達に襲撃を仕掛けようとしているのを、町で聞いた執事さんが警察が来るまではと、食い止めるつもりだったのだそうだ。
事情聴取というのを色々されたらしいが、持っていたのは昼間買った物干し竿だったし、相手が変な木の棒(バットと言うらしい)や鉄の棒(鉄パイプというらしい)や拳銃まで持っていたので直ぐ返されたそうだ。
警察が来なかったのは。
新人警官で、怖かったんだって。
そして今朝のトレーニングのために、執事さんと僕は、砂浜にいるのだ。
「ところでですな、昨日助太刀に現れた方がいらっしゃったのですが。坊ちゃま位の背格好でしてな。まさか坊ちゃまという事は無いですよね。色々ご主人様に報告しないといけないので。」
「そんなわけないじゃないですかぁ。ははは。」
「そうでしょうとも。はっはっは。」
それから、朝の鬼の特訓が始まるのだった。
鍵の話は多分次です。
続きが気になる方はブクマしていただくと嬉しいです
異世界勇者は帰り道を探す URL: https://ncode.syosetu.com/n0092fe/