第十五話 補習をエスケープする学生
前回は合宿で泊まるホテルの部屋が、物置だったというお話でした。
昼近くなって、食堂を探そうとしたら作家の息子が迎えに来た。食堂も勉強する場所も同じ場所なのだそうだ。食堂に入ると、自習を始めている生徒も何人かいた。食べ物の匂いの中でよく勉強出来るものだと思う。勉強に使う予定だったホールは経営者の子供達専用の勉強ルームになるのだそうだ。
作家の息子と一緒に、お盆に食事を順に乗せていく。料理の種類は選べないが、ご飯とスープはお代わり自由なのだそうだ。彼はもっと種類が欲しいと言っていたが、沢山食べられるだけで十分だ。ただ、夜のトレーニングがあるから、少し加減しておこう。
窓際の席が空いていたので、そこに座って食事をした。半分ほど屋根で景色が隠れていたが。細く長く続く砂浜と、太陽に照らされた海が遠くまで広がっているのが見えた。
景色がもっと良く見える場所は、上級生と下の姉達が楽しそうに食事していた。
「もっと上等なコース料理とか、フランス料理は無いのか。」
「あの、生意気な下級生の親が経営しているホテルらしいですよ。少しシメときますか。」
「ほっとけ、あとで外の甘味どころへでも行けば良いさ。君達も行くかい?」
「「「わーぁ。」」」
三度の食事が食べられるだけでも贅沢なのに、気に入らないとは。贅沢すぎると思う。更に食事も食べきらずに沢山残している。
作家の息子は
「食材はともかく、味付けとか結構上手いよな。ドレッシングも多分自家製だな。すりゴマの香りが良い感じだ。おれもお代わりしようかな。」
などと、食レポみたいな事を言いながら、おかわりの窓口に付いて来た。
「おや、お代わりかい、お兄ちゃん達。若い子は食欲があって良いねえ。」
僕に妹は居ないので、お兄さんでは無いのだが、食堂の女性達が楽しそうなので。
「料理が美味しいので。」
というと、お茶碗の上にどうやったらこうなるんだというくらい、ご飯を山盛りにしてくれた。
これで、お代わりしに来る回数が一回減りそうだ。
食事の後、勉強開始までは時間が有るので作家の息子の部屋に行くと、隣のクラスの男子が、ベッドに並んで何か読んでいた。ドアが開いた瞬間びくっとしたようだが、こっちを確認した後また読み始めた。
ベッド四つでいっぱいになっている部屋の窓際のベッドに座ると、海が少しと、市街地の町並みが見えた。
「これでも、海が見える部屋。なんだってよ。」
そんな窓から、上級生と下の姉が街中へ出かけて行くのが見えた。本当に甘味所へ行ったらしい。
「あいつら、午後の補習はさぼりかぁ。もっともあいつらは補習は無しでも何とかなる点数だったらしいから。遊び気分なんだろうなぁ。」
「相変わらず、情報が凄いね。」
「おまえだって、砂浜を走りたくて来たって言ってたじゃないか。」
そういえばそうだったか。
その後、午後の勉強時間までは僕が泊まる部屋で、過ごした。長椅子に並んで座って、彼は同室の子に借りた漫画というのを、読みながら僕に話しかけてくる。読みながら話すって器用だ。
午後の補習授業、歴史は何事も無く終わった。
いや、僕が質問され答えた内容が、それドラマの内容で、歴史の事実ではないですから。と注意されたくらいだ。
授業が終わって夕方になっても上級生達は帰らなかった、夕方になって晩御飯まで時間が有ったので、ホテルの屋上で、軽くストレッチをしていた。
遠くで姉の声が聞こえた気がしたので、屋上に干してある洗濯物をかき分けて、声がした方向を覗く。
かなり離れた所、肉眼でやっと見える程度の距離に姉達がいた。目に集中して魔力を使うと。同じ黒い服を着た四、五人の男性と向かい合っているのが見えた。体格のいい男子上級生はうずくまっている。
絵が動く板で見た事がある。地元の不良のかつあげに違いない。本物だ本物。
リーダーか、一番強いやつを初めに叩けばグループは崩壊するから、マッチョの上級生が初めにやられたんだろう。
さぁ、どうしようか。
上級生が殴られたくらいでは心は痛まないが、大怪我したり、姉が怪我をしては困る。小さい女の子に手を出すとは思えないけれど、巻き添えで大怪我するドラマを見た事があるし、執事さんが怒られても困る。
あそこまで行くには走っても何分も掛かるし、何て言って顔を見せるかも悩む。
頭を抱えた後、ポケットにあれが有るのを思い出した。ドングリだ。
思い切り投げても頭に大怪我をすることは無いだろう。
狙いを定めて、思い切り投げる。大体合っているが、魔力で微調整する。
ポケットに手をつっこんで、何か持ってるんだぞアピールをしている男の肩に当たった。肩を抑えてキョロキョロしている。頭を狙ったんだけど。
「うーん、以外に難しい。」
もう一個持って、今度はリーダーらしい男の頭を狙う真横だから、目に当たって大怪我することも無いだろう。
さっきより多めに魔力を使って軌道修正すると、頭に当たってキョロキョロしている。でもどんぐり沢山持ってきて無いから終わっちゃったし。そんな中、何時ものように僕を攻撃してくるやつらが現れた。
羽の端に黒い線が入った何匹もの鳥の群れが上を旋回した後、糞を降らせてきた。攻撃って言うより嫌がらせだよね。
何回か避けた後、糞を魔力を使って不良たちの方角へ飛ばした。狙いもだいの方角にしたし、軽いから思ったより魔力も使わない。
鳥達の攻撃が終わった頃、不良たちの方向を見ると、黒い服に白い斑が出来た状態で走って行ってしまった。上級生達はボーっと立っていた。速い所逃げちゃえば良かったのに。
鳥も去っていった。さすがにそれほど沢山ウンチ出無いだろう。
しばらくして上級生達は帰って来た、作家の息子情報によると、マッチョの上級生が殴られたが、イケメン男子の迫力で、地元の不良は退散したという事になっているらしい。まぁどうでも良いことだ。
あれ、前回の鍵の話が進まない。
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