第九話
家庭教師のバイトを初めて一ヶ月が経った。
信じられない事だが、彼女の成績が伸びている。彼女が通っているのは、週一回テストがあるとかいう、進学校らしいのだが、そのテストで学年の5位以上をキープしているとか……。
「前は20位前後だったんですよ〜」
とか言ってた……それでも凄いと思うが、伸びた理由を彼女に聞くと、
「背中合わせ効果です!」
という事らしい。あれからいつも家庭教師の時間になると、約2時間くらい背中合わせで好きな事を勝手にやるという決まりになった。好きな事と言っても彼女は勉強、俺は彼女の部屋にある本をダラダラと読むだけ、そろそろ全部読み終わりそうだった。
彼女の家に入ると、いつも通り彼女が出迎えてくれた。最近思うが親ってどうしてるんだ?
部屋に着いた。彼女の向かい側に座る。気になった事を聞いてみる。
「山下さんの親って何やってるの?」
「親ですか?」
「そう」
「いません」
「え?」
「まあ、いるけど、いません」
「そっか」
彼女の頭をぽんぽんと撫でる。暗くなっていた顔が笑顔になった。
俺は特に何も言わず、背中合わせに座り直す。最初のうちは緊張もするし抵抗もあったのだが、最近は自然に出来るようになった。それが不安でもあるのだけど……。
「イオリ?」
ぼ〜としていたら、終わり時間になったらしい。今日は、ほとんど漫画を読んでいない。彼女が心配そうに見ていた。
「あ〜悪いぼ〜としてた」
「はい、今日の分です」
彼女が少し悲しそうに見えるのは気のせいだろうか。俺は特に何も言わずに受け取る。そして帰る事にした。
「じゃまた。次は明後日か?」
「はい。そうです。お疲れさまです」
「おう、お疲れ」
家に向かって歩きながら思う。何で俺は金を貰って、こんな事してんだ?
なんだか俺たちの距離がズレ始めていた……。