第八話
今日で家庭教師3回目だ。
前回は何もしてない、いや最初から何もしてないよな。今日も大学があったが、特に事件はなかった。けど、俺と工藤の噂がまだ色々流れている。鬱陶しいな。
大学から彼女の家へ歩く。だいぶ慣れてきたかも。家が見えてきた、いつも思うデカイ! 今日も家に入ると彼女が出迎えてくれた。前より服装に気を遣っている? 全体的にいつもと違うような。
俺は服を見ながら言ってみる。
「いつもと雰囲気が違うんじゃない?」
彼女は何もいわず、ただ嬉しそうに笑った。
彼女の部屋に通される。何となく入りずらい。俺が躊躇していると彼女が言った。
「もう襲わないので、入って下さい」
普通逆じゃないそれ? いつも通りテーブルを挟んで向かい合うように座る。
「イオリは何も聞かないんですね」
「ん? 聞いて欲しいのか?」
「わからないです」
「じゃあ気にするな」
俺は気を取り直して言う。
「今日は何する?」
「一応、英語と国語やる予定です」
俺は何しようかな? と思っていると彼女に聞かれた。
「イオリは何します?」
「そうだな。いつも漫画読んでてもしょうがないから、何か手伝う事あるならやるよ」
彼女は少し考えてから言った。
「漫画読んでいていいですから、私の側にいて下さい」
「え?」
「だから近くに居て……じゃなくて、前回みたいに目の前でゴロゴロ漫画読まれると気が散るんです」
彼女の声が途中からどんどん小さくなっていく。それに比例して顔が赤くなる。
「ん〜」
どうしよう。俺が考えていると。彼女が呟く。
「やっぱり嫌ですよね」
まあいいや。前回のお詫びだ。俺は自分に嘘を吐いているのかもしれないな……。
俺は立ち上がると、本棚から何冊か漫画を持ち出して、彼女の後ろに背中合わせで座った。背中越しに相手の体温を感じる。
「こんな感じでどうでしょうか?お嬢様?」
「……」
後ろを少し見ると彼女の耳が赤い、俺は気にせず漫画を読む事にした。その後、二時間ほど、彼女がノートに書き込む音と俺の漫画のページをめくる音だけが部屋に響いていた。
終わりの時間になった。今日の分の給料を受け取り、挨拶して帰った。