穴の中で一晩
急いで向かった煙の出所、アルムの村が凄惨な光景が広がっていた。
家が燃えていた。家畜小屋が燃えていた。村の全てが燃え上がり、あちこちからモクモクと煙が上がっている。パチパチと燃える炎の音がやけにゆっくりと燃えろ燃えろと言っているように聞こえた。
「ウソ!そんなむらが」
「待て!今、入ったら危ないぞ」
「タカシおにいちゃんはなしてよ。パパとママが」
「アルムのパパとママはどこかに逃げたかもしれないだろ?今、アルムが燃えている村に入って怪我でもしたらパパとママが悲しむぞ」
「ムゥ」
村に入ろうとするアルムの腕を掴んで止めて落ち着かせる。
すでに夜になったというのに大火事のせいで昼間と変わらず辺りが明るい。
「パパ!ママ!どこにいるの?アルムはここだよ!帰ってきたから出てきてよ」
「アルムちゃんはここにいます。アルムちゃんのことを知っている人がいたらこちらに来てください」
必死に両親を探すアルムが痛ましく悲しみに溢れた表情をして村の入り口の前で叫っているんでる。その隣でミリがアルムのことを村に向かって叫んでいる。
「おーい。誰かいないのか」
俺も生存者を呼び掛けてみるが返事が帰ってこない。
燃える音が聞こえる以外、何も聞こえない。村人全員安全な川の方にでも逃げたのか、それとも火事に巻き込まれたのか。
このままではらちが開かない。村に入って確認するしかない。こんなに燃えてるんだから魔物は近ずかないだろう。
ミリたちにはここで安全に待ってもらう。
「アルムとミリはここで待っていろ。今から俺が村に入ってどうなっているか確認してくる」
「でもタカシさんも一人では危ないんじゃ。私も付いていきます」
「いや、アルムもいっしょにいく」
「ダメだ。二人はここで待っていてほしいんだ」
「でも」
「ミリ、心配するな俺は大丈夫だ。村の中を一回りしたらすぐにここに戻ってくる。ミリは少しの間アルムを頼んだ」
「わ、わかりました」
「いい子だ」
と言ってミリの頭を撫でた後俺は燃え盛る村へ入った。
村は周囲から油の油臭さがモウモウとたちこめる中どの家も燃えて半壊しており、ミリが住んでいた廃村よりも村の中はひどい有り様だった。
燃えているのは油を誰かがまいて火をつけたような跡がある。
アルムを誘拐した犯人なのかそうじゃないのか火事の原因は人のようだ。
「おーい。誰かいないか!」
燃え盛る中、再度呼び掛けても誰も返事がない。残った者が家のなったで動けなくなった者の救援活動ぐらいはやっていると思っていたのだが、本当に誰もいない。
さらに呼び掛けながら捜索を続ける。
「ん?これは拳銃の薬莢だ」
複数の場所の地面に大量の空薬莢が落ちているのを発見した。ここで激しい銃撃があったとわかった。
近くの燃えていない壁を見て回るとどこも弾痕と血痕があり、薬莢が落ちていた場所から一斉に撃たれている。
一方的な攻撃だったように見える。
血痕の量からして撃たれた人は重症のようだ。死体が見当たらないから無事だと信じたい。
アルムを誘拐した犯人たちの仕業だろうか?犯人は現場に戻ると言うし、アルムの身代金がいっまで経っても支払いに来ないから痺れを切らした犯人たちが村を襲った線が濃厚だ。
落ちている薬莢を取ってよく見ると大きさや形が若干違うのがわかる。何種類の銃を持つ犯人たちはテロリストか何かだろうか。軍隊だったら同じ武器を装備するはず、なのでバラバラな装備している犯人たちはテロリストや傭兵なのかもしれない。
この場所はミリたちには見せないほうがいいだろう。とりあえず、血痕があるところを隠さないと。
ミリたちの目に入らないように自然な感じで念力で家を壊したり、土で被せたりして血痕を隠した。
ついでに念力で空薬莢を目立たない隅に集めてその上に崩れた壁をのせる。
これでミリたちが見ることはないだろう。
「ン?雨か」
さらに探索を続けていると雨が降ってきたので探索はここはまでにして、続きはまた明日する。
明日になったらミリとアルムをつれて探索するか。時間が経てば雨が先程の被せた土をうまく馴染んでくれるだろうし。
今、思ったが血痕を土に埋めたり、凶器の証拠を隠したりした俺って現場荒らしてる?
警察官に公務執行妨害で捕まっちゃうかもしれんな。別に犯人を匿ったりしているわけではないからいいか。
今日は随分と村を探索したが、まだ村の半分も見ていない。とりあえずもう遅いし、村の探索はそのままにしてミリたちが心配だったから戻った。
「大丈夫だったか?」
「はい、アルムちゃんを抑えるのはすごく大変でしたが特には何もありませんでした。」
アルムは俺が村に入った後も隙を見て村に入ろうとしたらしいがミリが目を離さず見ていたおかげで阻止できたようだ。
「タカシおにいちゃん!パパとママは?」
「ある程度は見てきたけど村には人は誰もいなかった。この火は人がつけたみたいだ」
「もしかしてアルムちゃんを誘拐した人たちですか?」
「まだ、確証はないが可能性は大きいだろう。それに腹いせとか金目の物を奪うとか動機はいくらでもあるから考えても分からない」
誘拐したアルムをおいて逃げるわ。アルムの村を燃やして何をしていたかわからない。
犯人の行動が意味不明過ぎる。名探偵ワトソンでも解けない謎だ。名探偵はホームズの方だったかな?
気づけば雨が少し強く降り、俺たちはもうびしょびしょになっていた。
このままいけば、明日には本当に火が消えそうだ。
「雨がだんだん強くなってきましたから寝る場所を探しましょう」
「そうだな。このまま野宿するにもミリとアルムが風邪ひいては困る。村がこの状態じゃあ泊まれない。今日の所は雨宿りできる所を探すしかないな。このまま雨が降り続ければ、明日には火が消えるだろうから三人で村を回ろう」
「あしたになればタカシおにいちゃんと一緒にパパとママをさがせるの?」
「あぁ。そのためにも今は雨をしのげる場所を探さないとな」
「アルムしってるよ。あそこのおおきなきがあってね。あながあいてるの。そこならあめをしのげるよ」
アルムが指を差した先に一本大きな木があった。
その木のところまで行くとアルムが言った通り穴が空いており、丁度俺たち三人が入れる大きさだ。丁度いい感じで雨に当たらなくて、俺が届く範囲で太い枝があり、そこで濡れた服を干そう。
パンイチになり脱いだ血まみれの患者服を絞って枝に干す。
「クッシュン」
重大なことに気付いた。後ろのずぶ濡れの幼女たち の服を干さないと幼女たちが風邪を引いてしまう。その為にはミリとアルムに服を脱いで貰わないと干せない。
しかし、彼女たちにも服が乾くまでパンイチにさせる気か。しかも冷える雨の夜に。
「タカシさん、私たちの服も一緒に干してくれませんか?アルムちゃんも脱いで」
「はーい」
ミリとアルムが服を脱ぎ始める。
「なんで裸!?」
幼女たちの生まれたままの姿が目に焼き付く。
そう、二人は服の下に何も着ていなかった。
柔らかそうな彼女らの裸体はとても幼く小さい、そしてスベスベのやわ肌がやけに輝いていた。
「と、言われましても濡れたままの服を着たくはないので。風邪をひきますし」
ごもっともであった。
それにしてもこのままでいいのだろうか?幼女たちと一緒に木の穴で一晩過ごしてロリコン罪で捕まらないのかな?
いやいや、不純ではない。これは仕方ないことだ。
一緒に穴に入らないと風邪をひかせてしまう。
仕方ないのだ。本当に仕方がないことでミリたちは純粋に服を干してほしいのだ。俺も下心があるわけではない。
しぶしぶ、ミリとアルムの服を搾って枝に干した。
「タカシさん、何してるのですか?早く入りますよ」
「タカシおにいちゃん、はやくしないとおかぜひいちゃうよ」
「おっ、おう」
当の幼女たちは一緒に入る気満々だ。
荷物を木の前に置き、俺が最初に恐る恐る穴に入るとミリとアルムが穴に入ってくる。
「あったかーい」
「少し狭いですけど落ち着きますね」
ぎゅうぎゅうと体を押し付けるミリとアルムは気にした様子もなく、俺の太ももに座り体を寄せあってできるだけ暖かくして一晩を過ごそうとしている。
ミリもアルムも、温かく柔らかくていいにおいがする。
「明日、パパとママ見つかるかな?」
「きっと見つかりますよ。アルムちゃんのご両親は安全な場所で隠れてるだけですよね。タカシさん」
「そうだな。明日にはアルムのパパもママも見つかるさ」
「うん、わかった。アルムはあした、パパとママをみつける」
無理やり納得した様子のアルムも何かを諦めた様子だ。当の本人はパパとママが見つからないと思っているのかもしれない。
ミリ(左)とアルム(右)は抱き合うように(俺も含め)身を寄せあって寝た(俺は寝ない)。
二人の天使のような寝顔だったが狭い穴の中だと寝ずらいらしく、時々、寝苦しい声を出す。
俺は今夜は寝ないつもりだ。魔物が近づいた時に追い払うなり、始末するなりする為に起きている。
魔物はやるになると活動が活発になるらしく、ゴブリンや狼の他に昼間全然見なかった虫のような魔物や角が生えた兎などの夜行性の魔物が活動していた。
一度、俺たちの目の前まで近づいたそれらの魔物が大量だった。
ミリたちが起きないように静かに魔物を始末するのは大変だった。
魔物の呼吸音や羽音で近づいていることはわかるが、なにせ近づく魔物が鳴き声も出すからできるだけ離れた場所で念力を使い魔物を始末したかった。
見ないで呼吸音と足音だけで魔物を倒すのはとても難しく力加減の調整を含めて大変だった。
力の加減を何匹もぺしゃんこに潰してしまった。
倒した魔物の魔石だけを念力で回収してリュックサックモドキを入れた。
魔物の死骸は森の奥へ念力を使い高なりに投げ、血溜りを見たミリたちが怖がらないように念力でぬかるんだ場所から泥を持ってきて血溜りの上に被せて馴染ませた。
(大分始末したが、ここら辺にもう魔物はいないな)
気付けばもう太陽が登っており、もう朝である。
(朝か。服が乾いているか見てみたいし、一回外の様子を見てみるか)
穴から出ようとするが。
フニ。
あっ、ああぁ!!
出ようと左手で穴の縁を掴むと左肘がミリの幼い胸に触れている。
今の体勢では出ることは無理だ。これはヤバい状況だ。ミリが起きたら終わりだ。
ミリが起きないように静かに左手を戻そうと右手でミリの体を支えると今度は右肘がアルムの幼くい胸にフニっと触れ、柔らかい感触が右肘から脳に伝わる。
「ふわぁ、タカシさん?何をしているんですか?」
右手でミリの体を支えている触れている部分がミリの胸だった。完全に右手でミリの胸にタッチしていた。
あ!!終わった。
「これにはふかーい訳があるんだ」
「ふぇ?どうしたのですか。はっ、また魔物が出たのですか!?」
あれ?この状態を見て何も反応がないな。
女の子は男に胸を触られている状況だと(何触ってるのですか。タカシさんのエッチ)と言われると物好きな研究所の人に教えてもらったのだがこれも嘘?騙された?
それともミリはまだ幼いからわからないのかもしれないのかな。
「今は魔物は出てないから安心して」
「じゃあどうして慌ているのですか?」
「ドウシテカナー。フシギダネ」
「なんで棒読みなのですか?」
可愛らしくコテンと首を傾げるミリ、マジで可愛い。
ここら辺の魔物は全て倒したから魔物がいないのわかってもらえたがこういう状況の説明をどう話そうかわからなくて困る。
「おはよー。どうしたの?」
「アルムちゃん、おはようございます。聞いてくださいよ。タカシさんの様子がおかしいんです」
「タカシおにいちゃん、おかしいの?」
寝ぼけた眼で見つめてくるアルムが可愛い。
いや、違った。
「俺はどこもおかしくないよ。昨日と変わらないよ。別にミリやアルムの胸に触れて喜んでいるわけじゃないんだから」
と必死にごまかそうとペラペラと話したが最終的に全てしゃべって自爆してしまった。
最後のツンデレは気持ち悪くて最悪だ。
今思ったがこれって全裸の幼女に対してセクハラというやつじゃあないか?この子たちの教育に悪いんじゃないだろうか?
あー教育って難しい。
「フフ、今日のおかしなタカシさんですね」
「そーか?」
「はい、とてもおかしいです」
「タカシおにいちゃん、おかしー」
鼻で笑われてしまったがなんとかのりきれたみたいだ。アルムは何のことだかわかっていないようだ。
「それで朝早く何をしていたのですか?」
「少し外の様子を見に行こうとミリたちを起こさないように穴から出ようとしたら出られなくて」
自分でも理解不能な説明をミリに説明した。
可愛い顔のミリは自分なりに頑張って理解しようとしているところが微笑ましく思いながら誤魔化せないかなと願う。
ちなみにアルムは説明を聞いてキョトンとしている。
「じゃあ、私が外の様子をタカシさんの代わりに見に行きます」
ミリに見に行かせるのは問題ない。周りには小鳥の囀ずりと小動物の音しか聞こえない。
小さな女の子一人行かせても危なくないだろう。
「ミリおねえちゃん、むらをみにいくの?みにいくのならアルムもつれてって。おねがい」
拝むポーズでお願いするアルムにミリが困り顔で俺の方を見る。
木の周りをぐるりと危険な魔物がいないか確認するだけだったらしく。今から村の方に行くつもりなんてまったくなかったようだ。
村はまだ燃えているかもしれないのでミリ一人だけでは危ないから行かせない。アルムも同じくダメだ。
もしかしたらミリが村の方に行くかもしれない。
残る選択肢は
「今から三人で行くか?」
「いいの?」
「行きたいのだろう?早く両親を見つけたくてしょうがないって顔をしてるからわかる」
「ほんとうにいまからいくの?」
「あぁ、昨日言った通りみんなでアルムのパパとママを探しに行こう」
「やったー!」
アルムは村にたどり着いてからずっと両親のことが気になっていることは説明しなくてもわかるだろう。
「その前に朝ごはんですよ。二人とも、昨日の夜から何も食べていないのですから朝はちゃんと食べなちゃダメです」
「そうだね。夜はいろいろとどたばたしていたからすっかり忘れてた」
「アルムはお腹すいてないからいらない」
「アルムちゃんお腹すいてなくても少しは食べてください。これからパパとママを探すのですから元気出さないと」
「ムゥ、わかった。ミリお姉ちゃんの言う通り食べるよ」
ミリは穴から出て朝ごはんの例の木の実と来る途中で取った木の実をリュックサックモドキから三人分取り出し、皮を切っているのを横でアルムが眺めてる。
俺は昨夜干した服を乾いているか確かめている。若干湿っていたがミリたちが裸でいられるよりはましなので着てもらう。
「ミリ、ナイフを置いて服を着てくれ。アルムもだ。裸でいられるのはいろいろ困るからお願いだ」
「まだ、湿っているじゃないですか。本当に着るんですか?」
「うぇー、くっついて気持ち悪い」
「我慢してくれ。ミリたちが服を着ないと困るんだ」
裸でいられるのはほんと目のやり場に困る。
ずっとパンイチでいた俺も幼女たちの教育に悪いホラーチックな血で汚れた患者服を着る。
「ごはんできましたよ」
朝ごはんの主食は変わらず例の木の実で途中で取った木の実はおかずの位置で木皿に盛ってある。
「これ苦くて美味しくない」
アルム例の木の実を一口齧り、不満を口にする。
俺だってこの木の実はお世辞で美味しいとは言えない。これを食べた時はこれしか食べる物がなかったから仕方がなかったから我慢して食べたが、今回はおかずの木の実がある。この木の実は例の木の実と比べほんのり甘くて結構いける。
アルムは例の木の実を残してほんのり甘い木の実だけを食べている。
「アルムちゃん、好き嫌いはダメですよ。それでは大きくなりませよ」
「だってこれ、にがいだもん。こんなのたべるならアルムはちいさいままでもいいもん」
例の木の実をすごく毛嫌いしたアルムは本当にダメみたいだ。苦い物が苦手のようで一口目はなんとか飲み込めたみたいだがそれ以降は手をつけていない。
最初から我慢して食べた俺もこの木の実はできればあまり食べたくない。
最終的にアルムが残した木の実は俺が残さず綺麗に食べました。
「朝ごはん 食べたから早く村に行こうか」
リュックサックモドキを背負う。
「あー雨で濡れちゃいましたね。あれ?荷物が昨日に比べて軽くなってます」
「えっ?」
重くなっているのではなくて?軽くなっている?
一晩、ここら辺の魔物を一掃したから3倍くらいの量の魔石があるはずだ。それなのに軽くなるのはおかしい。
「キャァァ!」
ミリが突然叫び出した。
すると液体のようなものがリュックサックモドキからプルンと這い出てきた。