猫耳少女との出会い
「みんな、ここでお別れだ。自由になれることを願う。生き残ったらまた会おう」
俺たちの中でも一番年上の彼がそう告げ、颯爽と走り去っていた。先ほど、自分が最年長と言うことで皆をまとめていたようだ。
そして、いつの間にかリサといったテレポートの少女がいなくなっていたので何も告げずに持ち前のテレポートで逃げたみたいだ。
気が付けばちらほらいなくなっていた。
残った少年少女たちは暗闇の中でバラバラに逃げ始めた。誰かと同じ方向に逃げる者、行動を共にして逃げる者、誰にも構わず一人で一目散に逃げる者がいたり、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「アンジェリカにユ・ジュン。二人はこれからどうする?一緒に逃げるか?」
「タカシ。それぞれバラけて逃げよう。お互いその方が生き残りやすいだろ」
アンジェリカは森の暗闇へと姿を消した。
「アンの言う通り。私も一人で逃げるわ。でもタカシが心細いって言うのなら一緒に逃げてもいいのよ。別に私が心細いわけじゃないから」
「心細くわないが、ユ・ジュン!護身用の為にこれを持ってけ」
監視員から奪った拳銃をユ・ジュンに渡す。
「お前がもし捕まりそうになったら使え」
「じっ、銃!」
なにやら怯えた表情で拳銃を受け取って、アンジェリカとはまた別方向に走っていった。あたりを見渡すと誰も残っていなかった。
最後に残った俺は自然と誰にも構わず、一人で誰も行かなかった方向に逃げた。
「この方向に行けば、誰にも会わないだろう」
タカシは他人を信じられないのではない。それは自分が人の迷惑となると思い、自ら単独行動を選んだからだ。
森の中一人で走るタカシは息を上げて走り続ける研究施設がないどこか穏やかなる安心を求めて走る。
やっと自由だ。これから先何して暮らそう。まず家が欲しい。大きさは何でもいいとにかく穏やかに平穏に暮らせればそれでいい。仕事は楽しくてやりがいがある仕事がいい。あとは、あとは……..。あとは……..。
自由になれた喜びと裏腹に幼い少年を思い出しては罪悪感を胸に秘め、空を見上げた。
生まれて初めて見た空はとても綺麗な星空だった。例えるなら「音が響いてしまいそうな絶景な星空」
昔、聞いた曲の歌詞みたいな例えになってしまったがそれほど初めて見た空がきれいだった。
自分を落ち着かせるために草むらの上に転がり満点な星空を数時間眺めた。
「あ、そうだ!写真を取ろう。このタブレットの写真機能はどのアイコンだったけな」
色々考えて無理やり答えを見つけ出そうとした結果メガティブなことしか出なかったが胸の重りが軽くなった気がする。
起き上がると急に森の空気が変わった。あたりにいる生き物たちが静まり返ったように何も感じなくなった。
ドスンドスンと巨大な足音が地面を揺らしながらこちらに近づく気配を感じる。
「研究所の新兵器かこの森の主と言ったところか」
足音の方に視線を向けると巨大な影が人型の小さな影を追う光景が見えた。
俺は見えた瞬間とっさに森の中を駆け抜けた。
人型の小さな影がユ・ジュンに見えた。いくら治癒の能力が使えるからといっても小さな体で巨大な化物に襲われれば、簡単に食い殺せれてしまうだろう。
ユ・ジュンを一人にしたことに後悔した。無理を言ってアンジェリカと一緒にさせるべきだった。
また、友達を失うのか。
いや、まだだ。ユ・ジュンまだ、生きている。幼い少年の様に死なせない。きっと間に合うはずだ。
俺は駆け出した。友達を助ける為に。
「ヒャ?!」
俺は巨大な化物とユ・ジュンとの間に割り込み、ユ・ジュンを背で庇い、巨大な化物睨み上げる。
「ユ・ジュン!大丈夫かぁ!」
「ヒッゥゥ」
巨大な化物にビビって声が出ないユ・ジュンは返事代わりに俺の赤く汚れた患者服を強く握り締めている。
「大丈夫。俺がついている」
患者服を握っているユ・ジュンの手を宥めながら握り、巨大な化物を見上げる。その生き物は熊であった。三メートル以上ある巨体、ずんぐりむっくりとした体形、鋭い牙と爪。研究所にあった図鑑で見たことがなかった種類の大熊だった。
「がああああ!」と叫ぶように鳴く度に後ろのユ・ジュンが患者服を千切れるぐらい抱きしめてくる。それほど怖いのだろう。
襲いかかてくる大熊を念力で殴る様にぶつける。この方法だと必ず生き物は死ぬし、細かい力の調整がいらないから楽。しかも相手は人間ではないので手加減はしない。
大熊の肩から上が消し飛んだ。
「う、嘘、森の主がこんな簡単に」
それも中身をぶちまけながら肩から上が噴水様に血が噴き出している。大熊の傷口から野球ボールぐらいの大きさの赤い石が出ている。
グロいけど珍しいから石を傷口から取り出してポケットにいれる。
後ろのユ・ジュンが信じられないと驚いている。この光景は俺にとって5歳の時から見慣れているからそれほど凄い物でもない。
念力を何かにぶつけるのは研究所の実験で散々やってきた。機械にでも。動物にでも。それに人にでも。あと念力でいろんな実験をやらされたし。
そんな昔のことはどうでもいい。今は自由になったことを喜ぶべきだ。それに昔と違って念力で人の命を救った。そうだ小さな女の子を助けた。
「フニュ!」
救ったユ・ジュンの頭をなでるとそこにはフワフワな突起物が二つあった。
恐る恐る視線を向けるとそこには立派な猫耳があった。引っ張ってみたが取れない。
「フヒッ!痛い」
猫耳を調べたが頭から生えているようだ。数時間前まではユ・ジュンの頭になんか生えていなかったのに。これはどういう事だ。
「あの。痛いので耳を引っ張らないでください」
しかも声や口調も変わっている。数時間前の強い口調はどこへやら。
これじゃ。まるで別人ではないか。別人?
顔を覗き見ると知らない可愛い女の子の顔が泣き出しそうにこちらを見つめていた。
完全に別人だった。
そして女の子は今にも泣き出しそうだ。
「どうしたの?どこか怪我したの?」
「がとう」
風が吹けば消え去りそうな可愛い声で女の子は何かを言っているようだ。何を言っているのかイマイチ聞き取れない。
「たす、助けてくれてありがとうございます」
外の世界で初めて人と会った。透き通るような白い髪と猫耳に緑と灰色のオッドアイの瞳にユ・ジュンより背が低い女の子。辺りが暗くてよく見えないがボロい布を頑張って着られるようにした服を着ていて裸足だ。
「あっ、名前はミリと言います。あなたの名前はなんですか?」
ミリ。それがこの子の名前か、とても可愛らしい名前だ。
「俺の名前?タカシだ。よろしくミリ」
「はっ、はい、よろしくです」
もじもじと怯えた感じで返す。
「あの。もしよかったらお家に来ませんか?助けてもらったお礼もしたいですし」
こうして俺は、ミリの家に向かうことになった。
ミリの家に向かう道中、ミリは物音がする度に反応している。何かに怯えているみたいに辺りをチョロチョロ見ている。最初は研究所から逃げ出したから辺りを警戒していると思ったのだがそうではないらしい。
証拠にこの子の腕には発信器付きの腕輪がない。
タブレットのマップの反応には俺以外、誰も映っていないが、本当にミリは森に何かがいるみたいに怯えている。
「タカシさん、手を繋ぎませんか?」
大熊に襲われて怖い思いをしたから手を繋ぎたいのだろう。
「いいよ」
俺は特に考えもしないで即答で返しすとパア~とミリが少し嬉しそうに手を取った。手を繋いでも辺りを警戒をやめない。
「この森には先ほどのビッグベアーみたいな危険な魔物がいっぱい出るんですよ。特に夜だとレイスやゾンビなどのアンデット系の魔物がよく出るので気お付けてください」
えっ、魔物?レイスにゾンビ?
魔物って何?あのゲームや本に出てくるモンスターのことかな。よく漫画やラノベの勇者や冒険者物に登場しては主人公たちに倒されるあの。いやいや研究所の人たちが言っていたけど外の世界に危ない生き物(毒を持った生物だけ)はいるって聞いたけど魔物が存在するって聞いてないし、そもそも魔物はフィクションじゃないの。
魔物について少しは分かるが仕方ない。確かめる為にミリに聞くしかない。
「ごめん、魔物って何?」
「魔物と言うのは体内に魔石があります。魔素が濃い場所から生まれたり、動物が魔物の魔石を食べて魔物になったりします」
知らないの?って顔されたが説明してくれるみたい。
「例えば死体を放置するとゾンビやスケルトンになります。動物が魔素の濃い場所にいると体内に魔石ができます」
ゾンビとスケルトンって死んでるのに動くの?
「魔物を倒して魔物の素材や魔石をギルドに売るのが冒険者なんです」
ミリの家に着くまで魔物ことや冒険者について教えてもらったが研究所の人たちから教えてもらったことといろいろ違うみたいだ。
冒険者について説明するミリはまるで自分の夢について語っているみたいに目が輝いている。ミリは冒険者に憧れているみたいだ。
ミリに教えてもらったことはまるでRPGみたいな世界だなと思った。研究所内で聞いた外の世界の話と全然違う。
きっと研究所の人たちは俺に嘘を教えて遊んでたのだろう。
さっき大熊から取り出した赤い石についてミリに聞いたところ魔石だった。ミリに町に行ったら売るように進められた。これを売ったらどのくらいになるのかは知らないけど、今は金がないから売れるなら売りたいと思う。
誰かが「世の中は金がすべてだ」と言っていたし、金がないと必要な物とか買えないから売るしか選択肢がないけど。
「ここが私の家です」
ミリに案内された家が廃村の中の雨風がしのげるような家だった。ボロいまわりの家に比べ十分ましと言えた程度でも所々の壁にひび割れが入ってるし、すきま風が凄そうそうだ。
「汚いところですが入ってください」
ミリに催促されるままに家の中に入った。
中に入って見ると外の見た目よりかは壁や床はキレイだ。床には寝床に使うボロボロの毛布と無数に置かれた食料と思われる黄色い木の実以外は掃除されているようだ。
座れる場所がなかったので、念力を使いながら床に置かれた木の実を何個か手に取りと部屋の隅に置いてある籠に入れて座る場所を確保する。
それを見たミリが「やってしまった」と驚いた顔してそそくさと木の実を片付けてどこかへ持って行ってしまった。
どうしたんだろうと不思議がって数分後、しゃきしゃきと切る音が聞こえたので音の方へ行くと台所みたいな部屋でミリが木の実をナイフで食べやすいようにカットしていた。
一生懸命に切った木の実を二枚の木製の皿に二個ずつ盛り付けていた。
可愛らしく「できた」と言って俺と目が合って、ニカッと笑顔であった。
可愛い。
「サラダができたのでご飯にしましょう」
どこからどう見てもカットした木の実を皿に乗せた物にしか見えない。どう頑張ってこれがサラダに見えるのかがわからない。
食べやすいサイズにカットしただけの木の実の盛り合わせをキラキラした笑顔で「とても美味しいのができました」と言わんばかりに差し出してくる。
「あとこれもどうぞ」
そこに木でできたフォークをカットした木の実に刺した。
これで出来上がりらしいので先ほどの部屋に戻って二人で食べることとなった。
木の実の味はほろ苦くてあまり美味しくなかった。ドレッシングやマヨネーズあったら美味しく感じるだろう。
でもミリの現在の経営状態を考えるとドレッシングなど金のかかりそうのはとても難しい、ここら辺で、食べられる物はこの木の実しかないみたいでドレッシングやマヨネーズのわがままが言えない。探せば食べられる野草が見つかりそうだが食べられる物と食べられない物の区別がわからない。
ほろ苦い木の実をしゃきしゃきと頑張って食べた。食べなれているミリは何事もなく普通に食べていた。
「なんだ、この実は苦いな」
「この木の実は美味しくないですが、このあたりではよく取れるので我慢してください」
ミリはいつもこの木の実を食べているらしく、最初は苦くてあまり食べられなかったが簡単に確保できる食料がこれしかなかったらしく食べていくうちにだんだんとなれていったそうだ。
ガサガサ、ガタン
ミリの力作のサラダを食べ終えたところで外から物音が聞こえた。耳を澄ませるといくつも足音と息づかいが聞こえた。
外の様子を見に行こうとしたら、青い顔をしたミリが腕に抱きつくように握っている。
「タカシさん、外に何かいるようです」
どうしても離してくれないのでこのままミリと二人で外の様子を見に行くことにした。
一応、ミリに木の実を切るときに使っていたナイフを護身用に持たせている。
できれば、使わないと願いたい。
最初に音がした場所を確認したが特になかった。その後、家の周りを探索する。
家の周りを警戒しながら一周したがは何もいなかった。
「危ない!!」
気を抜いた瞬間、いきなりミリに押し倒された。
倒れながらもミリが怪我しないように優しく抱き止め、辺りを確認する。
いつの間にか俺たちは8頭の狼の群れに囲まれていた。その中の一頭が俺目掛けて襲いかかってきて、それでミリは庇うために押し倒したようだ。
家の周りを一周した時は、何もいなかったのに物影にでも潜んでいたのか?
そんなことはどうでもいい。それよりもなんの能力も持たないミリの安全と狼たちの排除だ。
ミリを守りながら念力で丁寧に狼たちの首をベッキベッキと音をたてながら折る。
狼たちはキャインと悲鳴じみた声で鳴くだけでなんの抵抗もしないで死んでいった。
「タカシさん待ってください。素材を回収しなくていいのですか?」
ミリを抱きながら家の中に戻ろうとした時、そんなことを聞かれた。
「素材?それ売れるの?」
「はい、この狼の牙や毛皮はあまり高くはないのですが売れますし、体内に魔石もありますが、売るには町に行かなければなりません。それに狼の肉は食べられるので」
ミリを下ろして、護身用に持たせたナイフを片手に狼の死体から素材を剥ぎ取ってもらう。
素材が売れるの嬉しいが素材の剥ぎ取りはミリだけに任せるのは少し悪い気がするのでミリが安全にできるように辺りを警戒しながら見守る。
ただミリが頑張っているを見守るだけなので凄く暇だ。これがニートの気持ちなのか?
「タカシさん、終わりました」
「そんなに沢山とれたのか?」
「はい!タカシさんが狼を倒したお陰で素材が沢山です。狼の肉は血抜きしといたので明日の朝食として食べられます」
十数分後、剥ぎ取りを終えたミリが両手いっぱいに素材と毛皮で包んだ肉を抱えて戻ってきた。
剥ぎ取ってもらった狼8頭分の素材を部屋にあった布袋に丁寧に詰めて、隅においた。
これらを売るには近くにある町まで行かなければならないので、ミリには悪いが町まで案内してもらうつもりだ。
肉の方はミリが台所に持って行った。
その後、疲れて眠そうなにしているミリと一緒に血で汚れた手を洗って寝かした。
俺もミリに毛布をかけてやった後あと、隣で横になりミリの寝顔を見ながら眠りについた。
翌日の朝、暖かな感触と柔らかな温もり抱きながら目が覚めた。
「んっ」
手のひらで感触を楽しんでいると胸の辺りで可愛い吐息が聞こえた。
それを両手いっぱいに抱き締める。
あー、凄く暖かくて気持ちいい。ずっとこうしていたい。
「んーんー」
また、胸の辺りから聞こえる。今度は苦しそうだ。
目を開けるとミリが苦しそうにもがいていた。
違った。俺に抱き締められたミリが苦しそうにもがいているた。
そっか、ミリを抱きしめていたから気持ちよかったのか。なるほどなるほど。Zzz...
って!待て待て、なんで俺はミリを抱いているんだ。
昨日はミリの近くで寝たが、ミリを抱きながら寝た覚えがない。
あ~。柔らかい。もっと抱いていたい。
そうじゃない。まず、一回起きよう。ん?
起き上がるとハラリと身体に被さっていた物がずり落ちた。
それは昨夜、ミリに掛けたはずの毛布だった。
なんでミリが掛けたはずの毛布が俺に掛かっていた理由は、俺がミリを抱いていたことを考えると。
夜中に目覚めたミリが寝ている俺に毛布を掛けた後、潜り込んだと推測した。
可愛い寝息をたてるミリの頭を優しく撫でた。
「可愛いな」
あまりにも可愛いかったのでつい、タブレットでミリの寝顔をとってしまった。
「んっ、タカシさん、おはようございます」
「おはよう、ミリ」
念のため、昨日の狼みたいな生き物がいないか家の周りを確認ついでに枝や枯れ葉などの燃えそうなもの集めて戻って来たら、丁度ミリが起きたみたいだ。
「また、外に何か出たんですか」
俺が外から戻ってきたことを理解すると不安そうに言う。
大熊のトラウマなのか駆け寄ってきたミリを抱き上げ、安心させる為に頭を撫でて、「何もいなかったよ」と優しく告げる。
その後、ミリと一緒に朝ご飯の準備をした。
何年か前に研究所の人達に石と石をぶつけて火をおこす方法を教えてもらっていたのでそれを再現させて狼の肉を焼こうと思ったが、思っていたよりも難しくなかなか火が出なかった。
狼ステーキは諦めて、あの木の実をミリの指導の下、ナイフで食べやすいサイズにカットした。
その後、二人仲良く木の実を食べた。