洞窟
「みんなついてきて来てほしい」
せっかく洞窟に来たので冒険がてら探検することにした。
アルムと出会った洞窟はそんなに中を見ていなかったので新しい発見が見つかるかもしれない。
視界を先行させて、洞窟の中を調べ上げた。
洞窟の中は意外と大きいものだった。下は十五メートルぐらい深く、俺達がいる場所から半径十メートルぐらい伸びていて何箇所か入出口を見つけた。奥深くにはゴブリンやコウモリの魔物がいた。
俺達が通った洞窟内の通路はは氷山の一角に過ぎなかったようで、洞窟内はまるで天然のダンジョンだ。
最下層にはミリやスフィアが喜びそうな物を発見したし、お金や宝石よりも喜びそうだ。ミリ達を驚かせよう。
しかし、こんなところにあんなものがあるなんて正直驚いた。灯台下暗しってヤツで誰も気づかずにあのまま放置されていたのだろう。
行きは疲れるかもしれないけど帰りはアルムの能力で帰れるからきっと大丈夫だろう。俺達の中で最年少であるアルムに頼るのは少し心が痛いけど。
「来てほしいって洞窟の探検ですか?」
「そう。夜まで時間があるし、洞窟の中を探検して宝部屋みたいな部屋があるかもしれないしさ、洞窟探検ってなんかワクワクしないか?」
探検について三人の少女達に語った。
俺が語るのを見てアルムやスフィアはクスクスと笑った。
少し子供ぽかったかなと少し恥ずかしい気持ちを隠して、俺は二人の頭を優しく撫でた。
俺だってまだ十数年しか生きていない少年なんだ。冒険へのあこがれくらいは持っているんだ。
操る視界の先に人影を見つけた。
そこはお宝部屋で盗賊ぽい人達がいた。視界でその人達の会話を聞いてみると彼らはここら辺を荒らす本物の盗賊だった。
俺達が来たときは全員で丁度どこかに行っており留守だったようだ。アジトに見張りを残さずに出かけるなんてマヌケな奴らだ。そのおかげで俺達は大金を得ることができたわけだがな。
数人が宝部屋にあいた穴を見て驚いた。
穴をあけた犯人は魔物になっていた。どうも近くにゴブリンやオーガを見かけたらしいことを言っていた。それと攫った子供がいない話になって、子供は魔物に食べられたとも話していた。
攫った子供はアルムのことだろう。
そういえばアルムはこの洞窟の奥で鎖に繋がれていた。そしてアルムが住んでいた村は焼け朽ちていた。
あの時は変な推測を立てていたが、思い返してみておそらく洞窟にいる人達はアルムの村を焼いた犯人なのだろう。アルムの両親はもしかすると死んでいる可能性が高い
それについてはアルムはどう思っているのだろうか。盗賊のことを話して敵討ちをと考えたが、アルムは俺達と再会したときは外で待っていた。
すでに村を見に行っていったのかもしれない。
アルムの両親を探す約束はいったいどうしたらいいのか分からない。
もしかしたらアルムの中ですでに解決したのかもしれない。それかアルムがいた未来で解決もしくはアルムが納得した形で終わったかもしれない。
聞くのはアルムの心の傷に塩を塗るような真似なので聞かないでおこう。
「でも私達が出てきた出口はさっきの場所ですけど」
「こっちにも洞窟の入口があるみたいだから、そこから洞窟に入ろう」
さっきの場所じゃなくて新しい方がいいだろう?と続けてミリ達に説明した。
出口の先には地下へ続く横穴や子供がギリギリ通れる通路があるけど盗賊っぽい人達がいるから避けた。
アルムもあの人達の顔を見るのは嫌だろうからな。
「この横穴から入ろう。先に入るからみんなは俺の後に入ってきて」
俺が洞窟に入れる横穴を見つけて、先に入って暗闇を照らす明かりの玉をイメージして生成した。
俺に続いてミリ、アルム、スフィアが順番に入ってきた。
「この暗い先に何があるの?お兄ちゃんは知っているのかな?」
「タカシさんは私達に何か見せたいのだと思いますよ?タカシさんが作ってくれた光のおかげで洞窟の中でも明るいですし、進みましょう」
疑問を口にしたアルムに対してミリが自分の考えを言う。
見せたいものがあるのは確かけども、ミリは俺の考えていることが分かるのだろうか?
「前から何か来ました。気をつけてください」
「なんか匂うってゴブリンだ!アルム初めて本物のゴブリンを見た」
洞窟の中を進み、五メートル潜ったところで三体のゴブリンとエンカウントした。
ゴブリンの気配に気づいたミリはアルムとスフィアに警告し始めた。
そういえば俺達が入った横穴や盗賊達がいた場所から近い入口の他に縦穴があってその近くに二十を超える数のゴブリン達がいた。目の前に現れたゴブリン達はその集団から逸れたゴブリンなのだろう。
ゴブリン達は急に現れた俺達にびっくりして、持っていた武器を足元に落としていた。
そして俺達の近くに浮かぶ光の玉が眩しいのか手を顔の前に出して光を遮っている。
暗い場所の中にいたのに急に光を見たら眩しいよね。
「隙だらけです!」
光に目が眩むゴブリンを容赦なく一刀両断するミリが能力を行使した。
狭い場所でゴブリンを真っ二つにしたため、べっとりと洞窟の壁にゴブリンの血がついて辺りにゴブリンの悪臭と血の匂いが充満した。
『タカシ臭い、戻ろう』
『俺が臭いみたいに言わないでくれよ。そうだね。道を引き返してさっきの分かれ道に行こう』
スフィアが自身の鼻をつまみ、反対の手で俺に触れて文句を言ってきた。
確かに臭いが我慢できるけど鼻がいいミリには辛いと思うから引き返すことにした。
一刀両断されたゴブリンの血がぽたぽたと滴り落ちる通路を見たが、服に臭いゴブリンの血や匂いが移ったら嫌だしね。
ミリとアルムに分かれ道のところまで引き返すようにと説明して回れ右して引き返した。
この惨状を作り出したミリも匂いに耐えきれなくてそそくさと引き返った。
「臭かったですー」
「ミリお姉ちゃんがあんなことをしなかったらこうはならなかったわよ」
「ごめんなさい」
「まあまあ、次はこっちの道を行こう」
プリプリ怒るアルムを宥めて、分かれ道の片方の通路を進む。
確かこの先は小部屋になっていて、天井が星空みたいに微かな光が見える部屋のはずだ。
天井に含まれる鉱物が空気と化学反応で光っているのだろう。なぜ小部屋全体ではなく天井だけなのかはわからないけども。
部屋に入ると同時に光を消した。
「タカシさん!?なんで明かりを消したのですか!?」
「急に消したらびっくりするじゃない!お兄ちゃんのバカ」
『急に暗くするのはダメよ。前が見えないわ』
急に明かりを消したせいで三人に怒られた。
「まあまあ、上を見てごらん」
「わあ!天井が光っていますよ」
「綺麗!お兄ちゃんはこれを見せたかったのね」
「見せたかったのはもっと下になるけどこれはこれで綺麗だよね。星空が手を伸ばせば届きそうだよね。あら?」
今にも届きそうな洞窟の中にできた星空に手を伸ばした。
伸ばした手に粘り気の強い生暖かい液体のようなものが張り付いたので、手を止めた。
洞窟内だから天井はゴツゴツとした感触のはずなのにネチャネチャした鼻水みたいな感触がするのはおかしい。
天井から液体が漏れて垂れているのか?もしかして体に害がある毒液か?
「あれ?光が動いているよ?」
『これって洞窟蛍の近縁種かしら?』
アルムとスフィアの声を聴いて、俺はすぐさま明かりを生成した。
生成した明かりで天井を照らした。
天井には無数の指サイズの芋虫がウニョウニョと動いていた。
「ぎゃ!」
芋虫の気持ち悪さにすぐに手をひっこめた。
よく見たら芋虫のお尻あたりが微かに光っている。まさか天井で微かな光を放っているのは全部この幼虫なのか?
それに天井から糸を引いた滴が垂れている。俺の手に付いた液体は垂れた滴に触れてしまったようだ。
「タカシさん!あれを見てください」
ミリが指した先を見ると俺の顔ぐらいのサイズのコウモリが天井からぶら下がっていたり、天井に張り付いている。それらに無数の芋虫が群がって一部骨だけになっていた。
垂れている滴は獲物を捕らえる為の芋虫の罠というわけか。
肉食の芋虫ってわけか。
俺はすぐさま氷を生成して、その中に水を入れて手に付いた滴を洗い落とした。
冷水だったから冷たかったが気持ち悪い粘液を落とすためなので我慢した。
手を洗いっている内に気づいたが、俺の足元には芋虫が食い荒らした亡骸が散乱してあった。
っげ、ゴブリンの頭蓋骨が転がっているぞ。アルムより少し大きいゴブリンまで捕食するのかよ。人の子供サイズくらいなら食べたちゃうのか。この幼虫は。
垂れている滴は獲物を絡めて動きを止めて食べる為に垂らしているのであっているようだ。それにしても指くらいの幼虫がゴブリンを捕食できたな。もしかしたら粘着力のある滴には毒があるのかもしれない。
手を冷水で洗った俺の判断は正しかったのかもしれない。
気づけば小部屋の先の通路にも芋虫がいて、滴も垂れている。
まだ背が小さいミリ達はギリギリ通れると思うが、俺は屈まないと通れそうにない。ミリ達もあれが髪についたらいやだろうからやっぱりゴブリンが二つになった通路を通った方がマシだ。
二つになったゴブリン達の先に幼虫がいないことを祈ろう。
「ゴブリンの道の方を通ろうか」
「はい」
「うん」
照らされた通路を見てミリとアルムは俺の意見に賛同してくれた。スフィアも頷いているし、全員一致でいいよね。
俺達はゴブリン達が真っ二つになっている通路に戻った。
「やっぱり臭いです」
「ミリお姉ちゃんだけまた虫のところに行く?」
「それは嫌です」
ミリとアルムの変なやり取りを見ながら、べっとりと壁や天井にこびりついたゴブリンの血をどうやって落とすか考えていた。
『タカシあれ見て』
『ゴブリンの死骸がどうした?』
何やらスフィアが何かに気づいたようだ。
俺達は少し離れた場所でゴブリンの死骸に明かりと視界を近づけて観察することにしてみた。
『ゴブリンの裏側に隠れた。ひっくり返して』
『わかった』
スフィアが見つけたものがゴブリンの死体に隠れたと言うので念力を使ってひっくり返してゴブリンの下にあるものを見た。
ゴブリンの背中やゴブリンの死骸が触れていた地面に黒い生き物がいた。
黒い生き物は光が苦手みたいで自分達を照らす明かりから逃げるようにゴブリンの下に隠れたり、地面の隙間に入り込んだ。
黒い生き物はゴブリンの死骸を食べていたのだろう。この洞窟内の掃除屋みたいな生き物なのかもしれない。
いや。
もう少しゴブリンの死骸見ていることにした。
ゴブリンの死骸には無数の小さな噛み傷が見られるが、齧った傷が見られない。
もしかするとヒルみたいに血を吸う生き物の可能性もあるな。もしかすると洞窟内の隙間に潜み生き物が通ったら、隙間から出てきて生き物の血を吸っているのかも。
「みんな後ろに下がって」
ミリ達を後ろに下がらせた俺は大量の水を生成してゴブリンの血がついた壁や天井、地面にバシャバシャとかけて洗い流した。
そして電気のイメージを浮かべて放った。
手からバチバチと電流が出た。
電気は水を通り、天井、地面、壁を撫でるように蹂躙した。
これで黒い生き物は感電して出てこないだろう。水をかけたおかげでゴブリンの匂いも和らいだし、匂いは化学臭ぽい匂いになったけど大丈夫なはずだ。
最初は炎で燃やそうと思ったが、ここは洞窟の中なので二酸化炭素中毒の言葉が頭によぎったのでやめといた。
いろいろあってやっと最下層に到着した。
「見せたいものってこれですか?」
「洞窟の奥に鉄の壁?ハンドルがついている」
『これってもしかして』
三者三様の様子を見せて奥にあった扉を見た。
そう扉だ。ドアノブの代わりに潜水艦にあるようなバルブのようなハンドルがついている。
「これを回せば中に入れるよ」
錆びついて固くなっているハンドルを念力を使って壊れないように回す。
一周ぐらいハンドルを回したらギギギと重たい音と共に扉が開いた。
「わあ!すごいです!アルムちゃん中に入りましょう」
「秘密基地みたいなものね。素敵ね。待ってミリお姉ちゃん」
『やっぱり漫画とかに出てくる潜水艦の扉みたいね』
ミリとアルムは目を輝かせて中へ入っていった。
スフィアは俺の手を握って俺の顔を見て中に入らない。
『スフィア?どうした?』
『ううん。なんでもない。私達も中に入りましょ』
テレパシーでスフィアに問いかけたが顔を赤くして誤魔化された。
まあ、話したくなったら自分から言うだろう。
俺もスフィアに手を引かれて中に入った。