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異能者は異世界に来て何をする  作者: 七刀 しろ
第六章 過去へのリスタート
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閑話「ミリムの大冒険3」

この時期の朝方は程よい暑さだな。

 飛んで移動して王都と呼ばれる場所に行きついた。

 行く道の途中で魔物に襲われている行商人の人を助けたお礼としてルルーンの街の方角を教えてもらった。


 その方角へ飛んでいったら大きな街に辿り着いた。それがルルーンの街だと思って舞い降りたけど、どうやらここはルルーンの街ではなく王都と呼ばれる都市らしい。ルルーンの街は東の方へ向かえばあるらしい。

 門番の人が言っていた。

 王都で丸一日かけてご主人さまを探してみたが、ご主人さまはいなかった。

 やはり、ご主人さまはルルーンの街にいるのだろう。


 お腹が空いたから美味しそうな匂いに誘われて、肉串の屋台で何本か買って空腹を満たした。

 自分は視線を感じた。

 ボロボロな姿の孤児が自分を見ていた。いや、自分の食いかけの肉串をジッと見ていた。

 その孤児は自分と同じくらいの年の子で尖がった耳と綺麗な黒い肌が特徴的だった。殴られた跡や傷が目立っていたけど綺麗な子だと思う。


「食べる?」


 自分はその子に近づいて食べかけの肉串を差し出した。

 その子は戸惑いながらも肉串を受け取り、食べた。その子が食べるの見て足りないだろうと思って追加で肉串を買ってその子にあげた。


「お水も飲む?」


 作り出したコップに作り出した水を入れてその子に渡した。

 最近、何かを作り出せることに気づいた。頭の中でその物を強く思い浮かべることで思い浮かべた物が出てきた。

 最初はご主人さまを浮かべて、目の前にご主人さまが出てきた。

 その時はものすごく嬉しくてびっくりした。

 でもそのご主人さまは冷たくて動くことは無かった。寝ているだけだと思ったけど、目覚ますことは無かった。

 ご主人さまを作った次の日、木の実を探しにご主人さまから離れた。しばらくして戻ったら、ご主人さまは魔物に食い荒らされていた。

 ご主人さまを食べていた魔物は殺した。すぐにご主人さまを治した。でもやっぱりご主人さまは起きてはくれない。

 また同じようにご主人さまを強く思い浮かべたら、目の前にご主人さまが出てきた。それも動いてはくれない。

 ご主人さまをいっぱい作ったけど全部動いてくれない。まるで寝ているかのようで冷たいままだった。

 動かないご主人さまをいっぱい作ってもあの優しい手で撫でてはくれない。

 次に作ったのはご主人さまが持っていたナイフを強く思い浮かべた。

 ダンジョンの武器屋で買った安物って言っていたけど、自分にとってはご主人さまが手に持つものすべて最強の武器に見えた。

 それを持ってルルーンの街へ向かう旅を続けて、気づいた。思い浮かべた物が目の前に現れるのはご主人さまから頂いた力の一つではないかと。


 それから必要な物は思い浮かべた物を使っている。

 言葉を話す木の人からもらった木の実も思い浮かべたら出てきた。これで旅の途中でも食べる物は困らなくなった。木の人からもらった木の実は苦くて食べられなかったけど。

 お店に売っている果物を強く思い浮かべたらいいのではないかと今気づいた。


 お腹いっぱいになったらしいその子の痛々しい傷を治してあげた。


「行くね」


 早速、市場に向かうことにした。

 果物を強く思い浮かべて、果物を作れるようになったらいっぱいほめてもらえるかな?きっとご主人さまはほめてくれるよね。


「じょうちゃんなんだい?今は腐りかけの果物なんてないよ」


 果物屋のオジサンに言われた。

 自分を孤児だと思ったみたい。

 オジサンに言われたことを気にせずに銀貨を見せた。


「これで買える分だけ買いたい」

「孤児なのに銀貨を持っているのかい。孤児にしてみれば金持ちだね。どういうのが欲しいだい?」


 オジサンは自分を孤児だと思ったみたい。


「自分は孤児じゃない奴隷。甘くておいしいの。何種類か。足りなければもっと出す」


 つたない言葉で果物を要求する。


「じょうちゃんは奴隷だったのかい?貴族様か大商人の使いか。じょうちゃんも大変だね。まあ、サービスしとくよ。これとこれ、これだな。いっぱい買ったけど持てるかい」

「おじさんありがとう。これくらい大丈夫。ご主人さまに教わったから」


 何種類かの果物を受け取って、ご主人さまから頂いた力、念力で浮かばせる。


「じょうちゃんすごいね。魔法使いになれるよ」

「あとこれもできる」


 今買った果物の一つを齧った。

 口の中に果肉の瑞々しい甘さが広がる。その果物を強く思い浮かべた。

 目の前に齧った果物と同じものが何個も作られた。


「この力をご主人さまに見せていっぱいほめてもらう」

「それはわかったからそれを止めてくれ。市場が埋め尽くされちまう」


 気が付けば足元が作った果物であふれていた。

 足元にある果物はオジサンに任せた。地面に落ちた果物は売り物じゃなくなったからきっと孤児達にわけてくれるだろう。


「おじょうちゃんは噂の不老族ってヤツかい?」

「わからない。でもご主人さまは不老族。この力もご主人さまにいただいた力の一つ」

「そうかい。人攫いに気をつけなよ」

「うん、ありがとう」


 市場から去って今日、眠る場所を探しているところだ。

 自分が子供だからという理由でいい宿には泊まれないから今日も廃墟に寝泊まりになりそうだ。


 空が暗くなり、夜となった。

 眠る場所を求めて貧民街にうろついていた。何人かの怖そうな大人の人とすれ違ったけど泊まれる場所があるか聞かなかった。

 貧民街に宿屋があるわけないし、知らない大人の人についていっちゃダメってご主人さまに言われたから一人で探している。


 グーとお腹がなった。

 王都の中をぐるりと歩き回ったから少しお腹が空いた。

 果物屋で買った果物は全部食べちゃったからもうないが、作れる。


 さっき食べた果物中の一つを強く思い浮かべた。

 青い粒の実が特徴だった果物が目の前に7個ほど出てきた。

 青い粒の果物を一つ一つ口に入れながら再び王都の貧民街を歩き出した。


「宿、見つからない」


 視界で家の中を覗いても、どの家も人がいた。

 大きな街で明るい時は人がいっぱいいたから空き家が無いのかもしれない。

 地べたで横たわる人もいるし、やっぱりそうなのかもしれない。

 王都は人がいっぱいいるから人が住む建物がたりないみたい。


「あ、あの」


 後ろから声を掛けられた。

 振り向くとさっきの子がいた。


「これさっきの」


 彼女は手に持った袋を差し出して来た。

 それは肉串のお礼なのだろう。

 それを受け取って中身を見た。中身は茶色い塊が入っていた。

 食べ物じゃないように見える。


「それはナッツ。食べ物」


 食べ物だった。

 彼女なりのお礼なのでありがたく受け取る。


「ありがと。あなたはどこで寝ているの?」

「こっち」


 案内してくれるみたいなのでついて行く。

 ついてきて言うのもなんだが、貧民街の奥に進んでいるみたい。

 着いた場所は王都の外壁の内側に廃材をただシンプルに組みたてた小屋のような物が見えるようになってきた。小屋とも呼べるようなものではない。ただ雨風を遮れるだけの目的の屋根と壁があるだけの廃所だ。

 少女はさらに奥へ進んだ。


「ここ」


 少女は屋根と壁を外壁に立てかけているだけの廃屋の中に四つん這いになりながら入っていった。

 ここが彼女の家らしい。

 自分も同じように入っていく。


 中は思ったより狭くて湿っぽくて臭かったが、自分がご主人さまに買われる前にいた奴隷商よりはマシであった。


「これは好きに食べていいから」


 果物を強く思い浮かべて、作り出して彼女の手元に置いた。

 自分は一日王都を歩いたから疲れて眠りについた。自分の住処に我が物顔で眠りにつくのはちょっと失礼だと思ったが、果物を私のだから文句は言われないはずだ。


 真夜中ふと目が覚めた。

 ご主人さまの夢を見ていた気がする。そうご主人さまと別れることとなった出来事の夢を。

 思い出したくなかったので目を開けた。

 この小屋の家主である少女が自分に抱き着くように眠っていた。

 起き上がると彼女を起こしてしまいそうだったのでこのままの状態でご主人さまのことについて考えていた。

 ご主人さまは今ごろ何をしているのだろう。ご飯を食べているのだろうか。お金で困っていないだろうかと。

 いろいろ考えている間、いつの間にか寝てしまった。


 起きるとあの子はいなかった。

 もぞもぞと小屋から出ると日が高くて上っており、だいぶ寝てしまったことが分かる。

 あの子は自分を起こさないように出ていったのだろう。あの子がいないのは仕事に行ったのだろう。

 自分も仕事に行くか。

 今晩もここに泊まる予定なので小屋の中に果物を作り出しておいて置く。

 少し寒いから傷みはしないだろう。


 自分の仕事はやっぱり治癒屋だ。あれが自分一人で一番稼げる。


 仕事場所はギルドだ。ギルドの場所は昨日のうちに把握済み。

 早速、ギルドに向かう。


 王都は人が多くて、行き来する人と身体がぶつかってしまう。


「ガキ!ちゃんと前を見て歩け!」


 今しがたぶつかった人に怒られた。それに別の人には足を踏まれた。

 痛い。

 痛いけど絶望の底で受けた拷問染みた仕打ちの方が倍に痛くて辛かった。足を踏まれた程度の痛みは痛みには入らない。


 足を踏まれたことは気にせずにギルドへ進む。

 到着して視界で中を覗くけど怪我をした人はいなさそう。だけどここは冒険者達のギルド。クエストに失敗した冒険者が運ばれるのは珍しくないはず。

 ここで待っていれば仕事ができるはずだ。

 ご主人さまも待つことも人生にはあると言っていたから待ていい。待つのと耐えるのは慣れているからそこまで苦じゃない。


 待っている間、ギルドの壁に背を預けて通り抜ける人々を見ていた。

 今まで通ってきた街と比べて王都はいろんな種族がいっぱいいる。

 ミミが尖った人から自分と同じ獣人に、身体に鱗や角がある人までいっぱいいる。

 多種多様な種族がいて見ていて飽きない。

 眺めているとギルドの中から話声が聞こえた。

 その話に耳を傾けた。


「昨日、奴隷が逃げったよ」

「奴隷の脱走なんて何も珍しくねえよ。今日やる仕事はいいの見つかったか?」


 壁一枚の向こう側で男達が話しているようだ。

 話の内容から察するに奴隷が逃げた話みたいだ。奴隷が逃げるなんて何も珍しくない。

 自分だって逃げ出したばかりだ。いや、自分は本当のご主人さまに帰るところだから逃げたというよりご主人さまのところに戻っている。


 奴隷の不当な身分から脱走する奴隷はいる。奴隷商のずさんな管理で隙を見て脱走をする奴隷がいるが、ほとんどの奴隷が首輪につけられた魔法によって死ぬ。なんらかの要因で稀に首輪が取れることがあるが、それは奇跡に近い。


「まあ、話を最後まで聞けって、逃げ出した奴隷は自力で首輪を外して逃げたってよ?どうよ?この話すごくね?」

「はいはい、凄い凄い。闇の仕事をしている友達から聞いた話か?そんな与太話より仕事は?」

「おいおい、ひどくね。もっと俺の話に興味をもってもよくないか?その奴隷は鬼と竜の奴隷ってどこ行くんだ?おいってば!」


 男達は話をやめていってしまった。

 自分には関係ない話だが、自分と同じように脱走する奴隷がいるのだなって思った。


 今日は仕事がなかった。

 ギルドに怪我人が来なかったからギルドの前を通る人達を眺めるだけで終わった。

 今はお金に困っているわけではないが、ご主人さまにいただいた力でこれだけ稼いだとご主人さまに見せてほめてもらいたい。

 ミリムは稼いだお金をタカシにあげるつもりでいるが、タカシはミリムが稼いだ分はミリムの為に使うだろう。


「帰ろう」


 帰ろうといってもあの子の家に勝手に泊まるのだが。

 お土産に果物を作り出して両手で抱えてあの子の小屋に向かう。


 あの子の家に来る途中、貧民街の片隅であの子が傷だらけで倒れていた。

 自分はすぐさま彼女に駆け寄って傷を治す。

 彼女の傷は頬の骨にひびが入って腫れていたり、胸と左足の骨が砕けていたりして酷いものだった。


 自分も同じ体験をしたことがある。自分の場合は両手の骨を折られて数日ほど放置した上でその時のご主人さまに散々殴られてご主人さまに雇われた治癒の魔法が使える治癒師に数ヶ月かけて治してもらった。その間もそのご主人さまに殴られるのは続いた。

 それに比べて今のご主人さまは自分を殴るどころか、怪我を欠損を治してくれた上に力を与えてくれた。

 あの優しいご主人さまが好き。だからご主人さまが私を殴ろうとも食べようともそれを受け入れる。自分の心を救ってくれたご主人さまが自分することはすべて受け入れる。


「大丈夫?気を失っている」


 彼女の怪我をすべて治したが、彼女は目覚めない。どうやら気を失っているみたい。

 彼女を家まで運ぶ。


 彼女に家に着いて寝床に彼女を寝かす。

 今朝(?)置いておいた果物がなくなっていた。彼女が食べてくれたのだろう。

 また彼女の頭の隣に果物を置いておく。起きたら食べられるように。

 眠り続ける彼女を見守るのは暇なので看病をすることにした。

 看病をすると言って何をしたらいいかわからない。ご主人さまの言葉を思い出してそれを実行する。


 彼女の家から手頃な布を発見して少し温めなお湯に浸して、それを彼女のおでこに乗せる。彼女の身体の汚れを拭いて落としていくが、彼女の黒い肌は強く擦っても黒さが増すばかりであった。

 擦りすぎて皮膚が破けて血が出てきたので急いで治した。


 どうして傷だらけで倒れていたのかは気にしないでおこう。自分もいっぱい殴られて寒空の下で柱に縛られたことがあるから人それぞれ事情がある物だ。だから自分は目覚めるまで彼女の看病をするだけ。


「ここだ。朝、ダークハーフのガキの家の中に市場で売られているような果実があったんだ。スゲーうまかった」

「その話ガセだったら、テメーの顔面を殴りつけてやるからな」

「そりゃないぜ。無かったらここに住むダークハーフのガキにどこで手に入れたか痛めつけながら吐かせようぜ」


 二人組の声が聞こえた。

 自分には関係ないだろうと思って気にしないで置いた。


「おや、ダークハーフの家の中に誰かいるみたいだぜ?」

「どうせ、ガキが戻ってきたんだろう。あのガキ早く死んでほしいよな。あのちっこい身体で貧民街を歩き回られると目障りでイライラするからよ。金髪?中にいるのはダークハーフのガキじゃないみたいだぞ?」


 二組の一人が自分達の入っている小屋の中を覗きこんだ。

 小屋は簡素なつくりだから外から丸見えだ。だから覗き込んだ人と目が合った。


「見たことがないガキが中にいるぞ。綺麗な金髪の獣人だ!これは奴隷商に売ったら良い値段になるぞ!」

「二人で山分けだな」


 二人組は自分を見て嬉しそうに言う。

 またあの目で自分を見る。ご主人さまにミリムの髪の毛は金髪で綺麗だねと褒められた時は凄く嬉しかった。

 だけど二人組に髪の毛が綺麗と言われても不快感しか感じない。今しがた食べた果物が口から出そうなほどだ。


 二人組は身体中けむくじゃらで人間の頭にオオカミの頭をつけたような獣人だ。

 オオカミの顔がさらに不快感を煽る。

 その不快感を拭いさるべく二人組をすぐさま排除した。


 この世界では獣の顔を持つ獣人は獣顔族と呼ばれ、迫害される。

 ある意味獣顔族の奴隷はいない。迫害の対処である獣顔族は殺しても罪にならないためか奴隷の価値がないからだ。

 もう一人迫害を受けている子がいる。

 ミリムが看病している子も迫害を受けている。

 そもそもミリムがいる場所は貧民街の中でも最下層な住民が住む地区、迫害を受ける種族が住む場所であった。

 そして黒曜石のような肌色の種族の血を引いているこの子は他の迫害を受けている者からにも暴力を振るわれている。

 生き物と言うのはストレスを感じる環境の中に自分より弱者がいると、その弱者に対して攻撃行動をする。

 人も生き物である限り、同じ行動をする。

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