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異能者は異世界に来て何をする  作者: 七刀 しろ
第六章 過去へのリスタート
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閑話「ミリムの大冒険2」

最近、暑くなってきたな。6月になれば冷えると思うけど。

 絶望の底から抜け出して治癒屋を初めて五日が経過した。

 最初の一日はギルドに入ってもすぐに追い出されて、ギルドの前に居座ったけど誰も自分に見向きもされなくてその日は稼ぐこともなく終わろうと思った時、大けがをした冒険者がギルドに運びこまれた。

 これはチャンスと思ってギルドに忍び込んだ。

 その冒険者は意識がない。魔物に食いちぎられたと思われる右腕の先がなく痛々しさを感じる。怪我をした冒険者の仲間達は治癒の魔法を使える者がいないかギルド内で呼びかけている。

 自分はその冒険者に近づいて治療を始めた。このくらいの怪我はご主人さまから頂いた力ですぐに治せた。

 治療をしていて気づいたのが一つ。

 治療が終わって、自分が怪我をした冒険者の仲間に掴まれた。

 勝手にしたから怒られると覚悟したが、仲間の冒険者の怪我を治ったことを見て感謝された。

 お礼として金貨一枚をもらった。手持ちがこれしかないと言われたが多い気がするけど受け取った。そして治療した冒険者のことを仲間の冒険者に伝えた。お腹の中に赤ちゃんがいると話した。そう治療した冒険者は女の人でお腹の中に赤ちゃんがいたのだ。それを仲間の冒険者に話したのだ。仲間の冒険者は何とも言えない表情をしていたけどその後のことは自分には関係ないから今日の稼ぎを握ってギルドを後にした。

 そのお金で食べる物買って昨晩泊めてもらった孤児達の小屋に向かった。

 今晩も孤児達のところでお世話になった。今晩も泊めてもらうお礼として孤児達に自分の買った食べ物を分けてお腹を満たした。こんなご馳走は久しぶりだと言われて喜ばれた。

 次の日もギルドで治癒屋として仕事をする為に向かう。

 ギルドに着いたら怪我をした人、病気の人がいた。その人達がギルドの中に入らずに誰かを探している風に見えた。

 昨日、冒険者の怪我を治したおかげで自分を探しているだろうか。まあ、昨日みたいに相手にされないのはないだろう。


 ご主人さまに教えてもらった通りに一人づつ治療した。ギルドの前で治療しているから通りがかる人達の注目を集めていた。

 通りがかる人の中には自分の能力が本物かどうか確かめる為に自分で体を傷つけて治してもらう人がいたけどお金を払ってくれるならどうでもいい。二十人くらい治療した。

 その日の稼いだ分でまた食べる物を買って孤児達の下へ帰る。二日目に稼いだ分で宿に泊まれたと思うけど何故か自分は気づけば孤児達の下へ帰っていた。

 その次の日も同じくらい稼いだ。ただ自分を絶望の底へ連れ戻そうとする人達が現れた。

 自分は奴隷だから主人の下へ戻れと言っていた。けれど自分のご主人さまはご主人さま、ただ一人。自分を絶望の底へ連れ戻そうとする人達じゃない。

 なので追い払った。ご主人さまみたいに切ってはつけての追い払い方は今の自分には難しいけどお腹に剣を刺しては治しての繰り返しをしたら、連れ戻す人達は素直に帰ってくれた。


 今日も孤児達の下へ帰ってきたら、小屋の中に誰もいなかった。違う、小屋が荒らされていた。ボロボロだった小屋の扉は破壊されて中は血の匂いが充満していた。

 自分はもしかしてと思って視界を絶望の底へ飛ばした。

 思った通り絶望の底に孤児達がいた。孤児達は自分を痛みつけていた人達に殴られて、剣で腹を引き裂かれて、いっぱい血を流していた。

 初めての感覚になった。息ができないほど胸が苦しくなって自分は急いで絶望の底へ戻った。もう戻ることは無いと思っていた絶望の底は天井が奇麗に開いていたから簡単に戻ることができた。


 孤児達を痛みつけていた人達は自分が戻ってきたことに気づいて、飽きたおもちゃを壊すみたいに腰に差していた剣を抜いて孤児達を殺した。

 奴隷風情が主人から抜け出すんじゃねとか罵倒が飛んできた。けどそんな言葉なんて自分には届かない。

 そして隠れていた私兵もぞろぞろと出てきて。自分は囲まれてしまった。

 ただ囲まれただけで自分は止めれない。


 私兵の人達が自分に近づくよりも先に痛みつけていた人達はもう殺した。

 そう痛みつけていた人達はご主人さまに与えられた力で首と身体を物理的に離して、死んでいった。

 もう用は済んだ自分は再び絶望の底を後にした。私兵の人達は絶望の底から抜け出す自分を追おうとしたが、私兵の一部が痛みつけていた人達が死んでいることに気づいて自分を追うことはしなかった。

 マヌケな話、私兵達は自分の他に侵入者がいて、その人が痛みつけていた人達を殺したと思っているみたい。


 初めて人を殺したけどなんにも感じない。すっきりした気分も、どんよりした気持ちも何も感じない。今の頭の中はただ死んでしまった孤児達のことしか考えられない。ご主人さまもお友達を殺されて、その仇を殺したらどんな気持ちだったのだろうか。

 何も感じない。虚無は気持ち。胸がぽっかりと空いてしまったようで自分はどうしたら、どうすればいいかは、空いてしまった心の穴は埋めることはできなさそう。

 ああ、そうか。自分はあの孤児達のことを友達と思っていた。初めてできた友達が死んだ。この気持ちがそうなんだ。自分にはご主人さましかいないと思っていたのに自然と友達を作っていた。孤児達といた時間は微かだったけど安らかで楽しかった。

 こうなるなら孤児達から名前を教えてもらえばよかった。


 もうこの街にはいられない。

 大分お金も貯まったからもうそろそろご主人さまを探しに外に行ってもいいよね。


 ミリムは人知れず街から去った。

 ミリムが去ったことにより街や貴族の屋敷でちょっとした騒動になった。治癒屋と名乗る不思議な獣人の少女より不治の病や大怪我を治療してもらった冒険者や街の人達の中の一部は神の使いと拝めたり、彼女は不老族だと言う声もあったりする。それと孤児達や商人の間に他者に不思議な力を与える不老族の存在が噂になっている。その不老族が獣人の少女そうなのではないか。

 変な憶測が横行している中で貴族の屋敷は息子達が地下で死んでいることを部下から聞いた領主は犯人を捜すように部下の騎士に命令していた。

 息子達の犯罪行為、いたずらに孤児や奴隷を遊びの一環で殺しを楽しんでいた。

 街の娘を攫って犯しているのも知っていて、すべての犯罪行為を黙認していた。

 殺されて当然のことを息子達はしていて、当然恨みを持つ人間の犯行だと目星をつけて捜査してたが、息子の歯止め役を頼んでいた騎士からあることを聞いた。

 息子達はある獣人の奴隷を逃がして、探していたという。

 ただの奴隷が逃げたのなら補充が聞く道具を無くした程度の感じでほっとくのだが、その奴隷は不思議な力を持っていたという。

 その騎士から詳しい話を聞いてみた。

 息子達はいつものように屋敷の地下でその獣人をイジメていたら、その獣人が天井を破り、飛んで逃げていった。そして冒険者ギルドに居座って治癒屋とかいう癒し師の真似事を始めたという。

 そして始めは貧民街の冒険者連中すら相手にされなかったのだが、あるとき大怪我した冒険者がギルドに運ばれて、その獣人の奴隷が軽く触れただけで怪我が治ったという眉唾物の噂を話してくれた。

 その噂を聞いた息子達も奴隷を連れ戻そうと騎士達に命じたが、抵抗されて失敗に終わったという。

 ただの失敗だけなら息子達も諦めなかった。奴隷を匿っている孤児達を攫って奴隷を捕まえる作戦を行った。

 それも息子達が死んだことによって失敗に終わったようだ。

 おびき出すのは成功した。奴隷は武器らしい物を持っておらず、餌が付いた罠に引っ掛かりに来たように見えたようだ。

 息子達が攫った孤児達を殺して、騎士達が奴隷を囲んでいざ捕まえようとしたときに息子達が死んだ。何者かが潜んでいたらしくその者が息子達を暗殺されてしまったそうだ。

 孤児達が死んだことによって目的を無くした奴隷は飛んでどこかに行ってしまったそうだ。

 何が何やらいろいろ理解できない部分がありすぎるが、息子達を殺した者を探すにもその奴隷が何か知っていそうだ。それに不思議な力を持っているなら利用価値がある。

 部下達にその奴隷を連れてくるように命じた。もうこの街にはその奴隷がいないのを知らずに。


 街から離れて三日ほど経った。

 二日間ほどは飛んで移動していたが、空腹に耐えきれず食べ物を探すべく地上へ降りたものの食べる物がわからない。

 荷物は地獄の底から脱出したとき、そのまま街の外へ出ていったから何も持っていない。空腹は数日ほどは我慢できるけど何も食べなければ死んでしまう。

 森に食べる物があると思って森に入り、森の中を歩いている中で時折見かける木には木の実が実っていましたが、それが食べられる木の実かどうかはわからない。

 魔物とか出てくれればそれを狩ってお肉を焼いて食べられるのに自分が運が悪いからか魔物が出てこない。

 お水はイメージすれば無限に出てくるからお水でお腹を満たして空腹を紛らわせる。

 水ばかり飲んでいても仕方ないけど食べる物が見つからない。


「ご主人さま、お腹空きました」


 と呟くがご主人さまがいない。それどころか自分の回りには誰もいない。


『その声は誰?お腹が空いたのなら美味しそうなトンムがいたからこれから捕まえる』


 頭の中に声が響いた。

 びっくりして視界で周りを見回しても人の影がない。あっても木ぐらいしか見当たらない。でも動くものがあった。

 そう木が動いていた。

 噂に聞いたことがある動く木の魔物、トレントを。しかしその動く木は噂に聞くトレントとは違うみたいだ。

 通常のトレントは獲物が近づくまで木に擬態して、獲物が来たら捕獲して体液を吸う魔物だが動く木は根子が地面に埋まっていなくて根子の部分が器用にクネクネと動かして前へ進んでいる。一ヶ所だけ幹の上の方にはてかてかした緑色の丸い物体が見える。枝があるが普通の木の枝とは違い葉っぱぽい物が生えているが根子と同じようにクネクネと動いている。枝の付け根の部分に穴が開いている。

 どう見てもトレントには見えない。体液を吸うのではなく獲物を捕食する新種の魔物なのだろう。

 木の魔物だから食べることはできなさそうだけど、新種の魔物だから街で売ったらすごいお金になりそう。


『誰だかしらないけどこっちトンムがいるからおいで、半分分けてあげるから俺の話相手になってほしい』


 頭に語り掛ける声の主は見当たらない。いるのは木の魔物だけ。


「誰?こっちには魔物が来ているから危ないですよ」


 魔物が来ているから声の主へ警告する。


『マモノ?なんのことかはわからないけどそっちはどこにいるんだ?』

「うーん。わかりやすいように近づいてくる魔物を空にあげます。その下に自分がいますので来てください」

『わかった』


 相手も自分のことがどこいるかわからないようで何か目印になるようなようなものがないか周囲を探す。視界に映ったのはやはり木の魔物だ。木の魔物を空高く上げることで目印になるはずだ。

 相手もわかったようで木の魔物をご主人さまからもらった力で空に上げる。


『宙に飛んだ?うおおお!どうなっているんだ』

「え?」


 声の主は驚いた声を上げた。

 声の主は木の魔物だったようだ。

 確かご主人さまから聞いた話で、ご主人さまは木の友達がいるらしい。とても食欲旺盛で初めて会った時は獲物だと思われて近づいてきたらしい。でもこっちが話ができる相手とわかるとすぐに友達になったそうだ。


 声の主が木の魔物だと分かったから降ろして話をした。


『トンムが喋れるなんてびっくりした』

「こっちも木の魔物が話すことができるなんてびっくりした。話ができる木の魔物がいることはご主人さまからきいていたけど」

『俺みたいなマモノがいるのか?』

「うん。今はどこにいるかわからないけどご主人さまから聞いた姿とあなたの姿が似ているみたい。ご主人さまはあなたみたいな魔物を植物タイプの知的生命体って言っていた」

『俺に仲間がいるのか。どこにいるんだろう。そのご主人さまというトンムは他に何か言っていなかった?』

「えーと、山に行くように勧めたって言っていたと思う」

『ヤマ?それはどこにあるんだ?』

「うん。山っていうのはあれよ。あの遠くに見えるのが山なの」


 自分は木の魔物に遠くに見える山を指さした。


『あそこに仲間がいるんだ』

「他の山かもしれないけど山に行ったって言ってた」

『ありがとう。お腹が空いているならこれをあげる。この森に住んでいたトンムが食べていた物だよ』


 木の魔物が自身の木の枝を動かして木になっていた木の実取って渡してきた。トンムっていうのはよくわからなかったけど自分のこともトンムと言っていたから獣人のことだと思った。

 他の獣人が食べていた物だから自分も食べられる。食べられる物を探していたから丁度いい。ってあれ?さっき木の魔物はトンムを捕まえるとか食べるとか言っていなかった?細かいことは気にしないでおこう。


『俺は仲間のところに行く。そっちもご主人さまに会えるといいね』


 木の魔物は山に向けて進み始めた。

 木の魔物と別れた自分はもらった木の実と同じ物をかき集めて空腹だったお腹を満たした。

 木の実は少し苦みがあったが、空腹のおかげで美味しく食べられた。


 ☆


 とある不老族の国の人の話。


「こちらC地区担当。被験者は見つからなかったが、巡回中に植物型の知的生命体と思われる生物を保護した。帰還する」

「了解。直ちに帰還せよ」


 木の魔物、別の未来でリンと呼ばれた植物型の知的生命体は不老族の国に保護された。

 リンと呼ばれた植物型の知的生命体は不老族の国に保護された後、精密検査を受けて植物型の生命体が暮らす地区に送られた。

 それがこれから異質な存在になる彼にとって幸せになるかは本人次第である。

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