表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能者は異世界に来て何をする  作者: 七刀 しろ
第五章 ザ・バッドエンド
109/126

ミリムの練習

 次の日、俺達はギルドへ向けて足を運んだ。

 ギルドに向かう理由はミリムに治癒の能力を教えるためだ。

 それと少しの小遣い稼ぎだ。本当に金は多ければ多いほど困らない。


 ミリムがいきなりできるとは思ってないから最初は俺が見本としてギルドで傷がある人を探して声をかけて治療をしようと思っている。治療の見返りとして代金をもらおうと企んでいる。


 そんな矢先に俺達の目の前で子供がグシャリと派手に転んだ。


「痛いよー!」


 相手は子供だからか回りの大人達は見て見ぬふりをして転んだ子供の横を過ぎていく。

 貧民街の子供にしてもこの街はあまりにも子供に対して酷すぎませんか?

 児童虐待で問題になりますよ?


 転んで「えーん」と泣きわめく子供は両膝に擦り傷ができていた。これはいい練習相手だと思い、ミリムに話しかける。

 日夜、魔物と戦う冒険者の傷を治すよりかは簡単だろう。


「目の前の子供がいるな」

「はい」

「あの子の傷を治すぞ。手本として俺のを見ろ」


 俺は転んだままで泣いていた子供を念力で地べたに座れせて傷を見る。傷は地面との摩擦で擦りむいて血が出ていた。軽い擦り傷だ。両膝共に。


 俺はミリムに傷を見せながら手を傷に触れる。

 子供は傷に触れる痛みにさらに泣きわめくが、俺の知っちゃこったないので泣く子供を無視して傷が治るイメージをする。

 子供の膝から手を離すと傷が奇麗に消えている。痛みも消えているはずだ。


「ミリムもう片方はお前がやれ、傷を治すイメージ大切だ。イメージをすればうまくいく。泣きわめく声は無視していい、気にするな」

「はい」


 俺なりの精一杯のアドバイスにミリムは一言「はい」と返す。俺は人に何かを教えるのは苦手で、俺のイメージが大切だっと曖昧なアドバイスに対して、ミリムの目は真剣だった。

 ミリムは俺に応えようとしているのかは正直俺にはわからないけど俺を信じてそれを実行した。


 ミリムは振るえる手でもう片方の傷に触れて目を閉じて、集中しているようだ。

 ミリムの脳が活性化していくのがわかる。


 これが能力を使用している被験者の頭の状況か。俺も能力を使う時もこんな風になるのか。


 五分ぐらい経過したごろにミリムは目を開けて傷から手を離した。傷は消えていた。

 初めてにしては上出来だ。被験者でも何も持たない普通の子が能力を使ったのだ。初めてだからもう少し時間かかると思っていたが、ミリムは五分ぐらいでそれをできた。

 もっと練習をすれば俺並みの使い手になるかもしれない。


「子供。傷は治してやったぞ。泣くのをやめろ」

「ふえ?転んだのに傷が治ってる!」

「治ったのを確認したら行け!もう転ぶなよ」


 子供を念力で立させて見送った。


「それにしてもミリム、凄いじゃないか。初めてなのに傷を短時間で治せるなんて、他の能力も期待できるな」

「はい!」


 ミリムは「はい」としか答えなかったが表情は嬉しそうだった。

 他の能力を教えるにしてももう少し治癒の能力を伸ばそう。手足がなくなってもすぐに再生できるようにしたいけど、俺はもっとミリムとコミュニケーションを取りたい。今のミリムとやり取りしていると何故か人形に話しかけている気分になる。

 人並みの感情があるのであれば、投げられた言葉のボールを「はい」以外で投げ返してほしい。

 何かきっかけがあればいいのだがな。


「あんた達、治癒屋なのかい?」


 子供の治療を見ていた野次馬の一人のおばさんが話しかけてきた。


「ええ、そんなところです。弟子のこの子の練習がてらに傷を治し回るところです。欠損とかは難しいですけどナイフで指を軽く切ったとかの傷なら銅貨一枚でさっきの子供ぐらいの短時間で治せますよ?」


 治癒屋についてはよくわからないけど、医者みたいなもんだろう。俺達は傷とか治しているし、治癒をしているのだから似たようなもんか。

 ミリムに能力を与えてその極意をこれから教えるから弟子と言っても変わりないだろう。


「銅貨一枚で傷を治してくれるのか?ダンジョンに潜ったらよぉ。魔物に噛まれて薬を買う金もねえし、少し腕に力が入らねえから冒険者をやめるしかねえと考えて困っていたんだ」


 また野次馬の一人、片腕に包帯を巻いている冒険者が名乗りを上げた。

 その冒険者の包帯を取って傷を見てやると、鋭い牙で噛みついた歯型が深く残っている。止血処置はしているがそれしかしていない。傷が酷い状態だ。

 擦り傷からこれをやるのはミリムには難しいと思う。


「これは難しいな」

「治癒屋でも無理なのか。俺も物乞いの仲間入りか、闇ギルドにはいるしか」

「無理とは言っていない。ミリム、これも見本だ。しっかりと見とれよ。さっきも言ったが、イメージが大事なんだ」


 ミリムにはまだ早いということで俺が治すことにした。

 俺はまたミリムに治す様子をしっかり見るように言って傷が治るイメージを浮かべながら傷に触れる。

 すぐに手を離すと傷が治った。


「おおー!痛みが消えた!傷が無い!これで冒険者をやめないで済む。坊主達ありがとうな!」


 冒険者は投げらるように銅貨を渡してきた。念力で受け取りポッケの中に入れた。


「おい、今の見たか?触れただけですぐに傷が治ったぞ。これは何かの詐欺じゃないのか?」

「でもよ。銅貨一枚なんて安すぎじゃないか?」

「あのガキは王都あたりの高名な治癒魔法使いなのではないのか?あの獣人の子を弟子と言っていたぞ。弟子の修行の為とかで治癒魔法を低価格でやっているだけではないのか?」


 遠巻きで野次馬達が何やら話している。

 俺が触れてすぐに傷を治したから詐欺とかいろいろ言われている。怪しい子供が傷を治しているから詐欺かなんかと思われて練習相手が来ないと思ったが、物好きが少なからずいるようで何人か集まってきた。

 しかもミリムが治せそうな傷ばかりだ。転んで擦りむいたとか頭を切ったとか、そういった傷を治してほしい人達ばかりでミリムの練習がはかどりそうだ。

 たまにダンジョンから戻ってきたばかりの冒険者が噂を聞いてダンジョンで負った傷を治しに来たりした。冒険者の方は俺が担当した。

 冒険者の傷はミリムには荷が重い傷ばかりで魔物に食いちぎられたり、肉が抉れたりした傷ばかりだった。

 傷を治した冒険者の方は金払いがよかった。銅貨と言ったのに銀貨を払ってくれた。

 ミリムの方も冒険者じゃなくて主婦をメインに治して、銅貨とお菓子を貰っていた。そのお菓子を銅貨と一緒に渡してきたのでお菓子をミリムの口に差し込んでやって優しく頭を撫でた。


 ミリムが今日稼いだ金はミリムが将来独り立ちにするときに渡そうと思う。


 なんちゃって治癒屋(?)として活動を始めてから一週間が流れた。


 ミリムは練習の成果として擦り傷を触れるだけで治せるようになった。それどころかダンジョン帰りの冒険者の傷を治せるようになった。時間が10分ほどかかるけど。

 成長したのはミリムだけじゃない、俺は相手の体液を摂取しなくても欠損を治す方法を編み出した。視界で無くなった部分を観察してからイメージして新しく生えさせる。

 何回も手足を無くした子供達で実験して成功を収めた。今となっては傷を治すように欠けた部分に触れて念じるようにイメージするだけで欠損を治せる。

 内臓とか骨折とかの損傷も視界の物体をすり抜ける特徴を使い体内を見て治せられるようになった。これも貧民層の子供達を使った。

 人体実験に付き合ってくれた子供達には一人銀貨一枚を渡した。


 この街は貧民層の子供達にとって酷い街だ。一週間の間暮らしてきて分かった。

 体力のある子供は肉体労働を強いるわ、体力が無い子供や病気で弱った子供は手足を切り落とされて物乞いさせられる。

 肉体労働で生き残った子供は大人になり、自分の後輩にあたる貧民層の子供に同じことをやる。悪循環。

 その上大人は憂さ晴らしに子供達を殴るわ蹴るわで死んでも放置して胸糞この上ない。

 発育がいいよかったり、顔が綺麗な女の子は少しマシと言える。奴隷商に売られるか食事と寝床を与えられて、娼婦として働かされるか。娼婦として働かされて妊娠しようが肌を削るように体を売って、半分ほどが二十歳前後で死ぬけど。

 物乞いをさせられるよりはマシだから女の子は必死に娼婦として働く。

 それで生まれた赤ん坊はほとんど死ぬけど、貧民街の子供になる。

 貧民街の子供は娼婦が生んだ子供や両親が死んで孤児になるケースで死ぬ量より貧民街の子供になる子供が多いらしい。

 殺すほど貧民街の子供がいると人体実験に付き合ってくれた子供達が語ってくれた。


 この街はどうしようもない、腐った街だ。


「ミリム、今日のところはこれくらいにしといてご飯を食べにいこう!」

「はい」


 怪我人がいなくなったのを確認してミリムを夕食に誘う。ミリムは疲れたように短く返事をする。


 今日は俺達が泊まっている宿屋の食堂じゃなくて、別の店にしようと思いながら疲れて今にも倒れそうなミリムをおんぶする。


 ミリムにはこの一週間休みなく治癒の練習を強いてきた。そのおかげでミリムは治癒を自由に使えるようになってきた。

 ミリムは自分が怪我をしても治せるレベルまできたから、もうそろそろ念力辺りを教えてもいいと考えていたが、一週間ずっと治癒屋として働いてきたから近いうちにミリムが疲労で倒れてしまう可能性があるから明日あたり休みにしようと思う。


 人には休息が必要なのだ。休みを与えることなくミリムを働かせていた俺が言うのも変か。

 一日目は人が少なかった。この程度の人数ならいけるかなと甘く見ていた。

 二日目以降は人が倍に増えた。傷を触れるだけですぐに治す治癒屋がいると噂が広まり、そこから地獄が始まったが、その分金銭的に豊かになり(もともと金に余裕があった)、ミリムは能力のコツを掴んでくれた。

 さらに噂が広がり、俺達の前には人々が列を成して待っていた。それらを捌いたが、中には隙をついてミリムを攫おうとする輩が続出して半殺しにして今に至るわけだが、結構俺達の知名度が広がってきている。

 街の住民は俺のことを傷の聖者様、ミリムのことを獣の聖女様と呼ばれて、この街で俺は二個目の二つ名を獲得した。

 俺達は疲れているにも関わらず道端に転がっている(死んでいない)孤児が怪我をしていれば無償で治療して食べ物を恵んでやっている内にそう呼ばれるようになった。


 もめごととかいろいろあったが明日は一週間の間に蓄積した疲労は解消するためにゆっくり休もう。本当に。


 部屋から一歩も出ないと心の底から誓う。


 目についた定食屋に入り、定員におすすめの料理を注文する。

 料理を待っている間に、他の客に話しかけられる。


「これはこれは傷の聖者様と獣の聖女様こんにちは、先日の息子の怪我を治癒していただきありがとうございました」

「おお!治癒屋の坊主達じゃないか!お前達のおかげで仲間が冒険者を引退しなくて済んだ。それも格安の銅貨一枚で治してくれたんだ。本当に感謝しているよ」

「タカシ!申し訳ないけど私ダンジョンで足を挫いちゃった。治してもらえるかな?」


 面倒臭いことに話しかけられる。

 最後のはニーレだ。ニーレはこの街で数少ない知り合いだから骨折した足を治療したけど、街を歩けば話しかけられるのをどうにかしてほしいものだ。

 てか、脛を骨折しているのにニーレは足を引きずっているが歩いているぞ。なんてタフな女なんだ。その仲間は心配そうにニーレを見ていたが、俺を見つけたとたんに安心した表情をしたぞ。俺達を出張病院でも思っているのか?

 冒険者はこの街では足を怪我して治らなかったら冒険者を引退して物乞いに落ちるか街から出て行って民度の高い街か村に行くの二択だからな。


 俺達の下に来る人はいろいろだ。冒険者に商人に、街の人から貴族っぽい高そうな服を着た人。低額で怪我を治してくれるから大勢がくる。

 俺達が治療した人達から感謝されるが、中には憎む人もいる。例えば同業者の本職の治癒屋の人達だ。

 俺達は能力でなんちゃって治癒屋をやっているが、本職の治癒屋は治癒の魔法を使う。軽く触れてイメージを念じるように浮かべるだけで怪我が治るけど、魔法と能力は大きく違う概念だから怪我を治すのに時間がかかるし、魔力が切れたら魔力が回復するまで魔法が使えない。それで治療費は割高だ。

 俺達が安すぎるせいだろうけど、他の治癒屋は安くても金貨5枚以上はかかるらしい。それに対して俺達は銅貨一枚。確実に安い。

 怪我人達は安くて全員すぐに傷が癒える俺達を選ぶわけだ。そのおかげで稼げた。


 ニーレの骨折を治療したり、他の客の相手をしていたら、料理が運ばれてきた。

 話しかけてきた他の客を追い払って、ミリムと共に料理を味わう。


「ここに凄腕の治癒屋がいると聞いてきた!その治癒屋はいるか!」


 店内に怒号の叫びのようなものが響き渡った。

 めんどくさい出来事がまた転がりこんできた。めんどくさい事は無視でいいだろう。俺達には関係ないし、今は飯を食うことに専念しよう。

 他の客はなぜ俺達を見るんだ?視線でバレるだろうが。ミリムも心配そうに俺を見ないでくれ。


「ミリム、反応したら負けだ。今日はお互い疲れただろう今はうまい料理を食べて英気をやしなえばいい、あの人もこっちが飯を食っていることを察して待ってくれるだろうから」

「はい」


 はいとしか言わないミリムは珍しく何か言いたげな表情をしてくれたが、貴族と関わるのを避けたい俺はミリムに気にせず料理を食べろと言って貴族を無視する方向へ持っていこうとするが、他の客が俺達を見てザワザワして貴族に気づかれるのもう秒読み状態だ。

 面倒なことに巻き込まれるのは決定事項だから気づかれても無視を通すか。向こうはこっちが食事中で話しかけるような失礼なことはしてこないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ