閑話「欠けた子供達」
前半は獣人の少女と後半の肉串泥棒の二本立てになります。
ある日とても美しい金色の髪を持つ幼い獣人の少女の奴隷がいました。
少女は親の顔も分からないまま、飼われるその時を奴隷商の冷たくて寂しい檻の中で過ごしていました。
どのくらいの時が過ぎたのでしょうか。ある日少女は飼われました。
最初の主はまだ子供の貴族様でした。
少女はその貴族の誕生日の祝いとして飼われました。
少女にとって初めての外の世界に少女は心を驚かせました。冷たく寂しい檻の中からおさらばできると思いました。幼くて純粋な彼女は現実というものはとても酷い物だと思いませんでした。
貴族の屋敷についてそうそう子供の貴族の自室に連れられて殴られました。状況を掴めないまま抵抗も許されず、殴られ続けました。
歯が折れて、鼻から血が流れて、泣き叫んでも貴族はやめてくれませんでした。
殴られる日々が続く中で少女は言葉を覚えました。少女に言葉を教えてくれたのは同じ奴隷の先輩のお姉さんでした。
お姉さんはとてもやさしく、傷ついた体の手当をしてくれました。
他にも奴隷は何人もいましたが、お姉さん以外の奴隷は少女に対して興味がないどころか貴族と同じで少女に暴力を振るう奴隷もいました。
少女にとってお姉さんがいるだけで救いでした。
お姉さんは少女の前からいなくなりました。お姉さんのお腹には少女の主人の兄との間にできた子供を宿してしまったから殺されてしまいました。
少女はまた一人になってしまいました。
悲しみに明け暮れる少女はお姉さんが残してくれた言葉を大切にしていました。「いつも笑顔でいればいつか必ず幸せになれる」と。
少女はお姉さんがいなくなってからずっとニコニコと苦痛を耐えました。
殴りつけても笑顔をやめない少女を彼女の主人は面白く思っていませんでした。
彼女の主人は彼女を外に連れ出して「剣の練習だ」と言って一方的に彼女を切りつけました。
幼稚な斬撃で彼女は片目を失いました。
傷物はいらないと理不尽な理由で次の日に奴隷商へ売られました。
片目と肌を切りきざんでおいて売るなどとても酷い話でしたが、それでも少女は笑顔をやめませんでした。
時は過ぎていき、少女は何度も買われては売れらを繰り返していく内に両腕を失いました。
両腕を失っても少女は笑顔をやめませんでした。
十何人目の主人にダンジョン都市と呼ばれる街の奴隷商に売られました。
少女の次の新しい主人は神様でした。
残った片目はもうすでに視力が落ちてぼやけた目で見た神様は黒髪の男の子の姿をしていました。
神様は失った目や手を治してくれました。
☆☆☆
私は生まれた時から孤児だった。
このダンジョン街で生きていくために必死だった。食べ物を得るために盗みも働いた。
盗みをするのも慣れて冒険者クズレのゴロツキの懐から財布をすろうとして失敗した。その結果、ボコボコにされて利き腕を失った。
利き腕を失ったくらいどうってことは無かった。この街には腕が無い孤児なんてわんさかいる。
この街の地下にはダンジョンがある。ダンジョンにはこの世の物とは思えない宝があるという。ダンジョンしかいない魔物だっている。それを求めて旅人や冒険者がこの街に訪れる。
悪い大人が旅人や冒険者からお金を得るために孤児を使う。そして孤児が悲惨であればあるほど旅人の冒険者は孤児に同情してお金を渡す。渡されたお金はゴロツキ達が回収して孤児の手元にはほとんど残らない。全部奪う人も中にはいるが中には元孤児の人がいる。そんな人の場合は三分の一ほど残してくれるがそんな人は一握りだ。そういった子供は物乞いの子と呼ばれる。
毎日孤児が10人以上飢えて死ぬ。それでもこの街には孤児があふれているのは人攫いや奴隷商で街に連れて来られて商品価値がないと判断されて捨てられる子やダンジョンで親が死んで孤児になる子が飢えて死ぬ子よりも多いのだ。
そして腕が無い子が多いのは悪い大人が切り落とすからだ。その方が悲惨さが増して同情してくれる冒険者が多いからだ。
利き腕を失った私は物乞いの子の仲間入りになったってことだ。
今すぐに飢えて死ぬことはないだろうし、隠れ家に今まで盗んだ分の貯金が隠してある。数が月はうまく生きられるだろう。
ただお腹が空いた。三日も食べていない。
物乞いの子の仲間達に交じって何もしならないマヌケが投げてくれるお金を待っていると私の前にポケットをパンパンに膨らませた男の子と金髪の獣人の女の子が横切った。
男の子のポケットの中はきっとお金が入っているに違いない。そのことに気づいているのは私だけ。
ただすれ違う大人達はあの子達に目を背けるのは気になったが、あの子達は堂々とポケットにお金を入れているのは自分達がスリにあわないとでも思っているのだろう。
あれじゃあ、盗んでくださいと言っているようなものだ。
あの子達は貴族街へと向かっているみたいだ。あの子達は貴族の小間使いかもしれない。だからポケットいっぱいのお金を持っているのだろう。
貴族の下で働けるなんて羨ましいものだ。
あの子達は貴族街の肉串屋に立ち寄った。
うまそうな肉串を四本も買った。私が隠している貯金であれを買えるだろうか。無理だ。私が一本も買えないものをあの子達は四本も買ったのだ。
あの子達は貴族街の公園のベンチに座り二本ずつ分けて食べるようだ。
男の子が肉串を食べようとしているところを見て、私はあの肉串がどうしても食べたくなった。
獣人の女の子は隙だらけで、自分の分を食べずに男の子を見上げている。
チャンスだ。今なら盗める。
私は獣人の女の子から肉串を奪って、口に咥えたまま逃げた。
咥えた肉串のタレの味を堪能しながらどこで食べるか考えていた。物乞いの子の近くで食べれば取られてしまう。
一人で隠れて食べれる場所はないかと考えていたら急に身体が動かなくなった。毒でも入っていたかと思ったが、そうではなかった。
私の身体が宙に浮かびあの子達の下へ連れて来られた。黒髪男の子は魔法使いだったようだ。その魔法で私を連れ戻したのだろう。
私はまた失敗してしまった。今度は足を切り落とされるのかな。いや、相手も自分と同じ子供だ。蹴りを入れられるだけで済むだろう。
男の子は肉串を奪い返しただけで、それ以上は何もしてこない。自分が食べようとしていた肉串を獣人の女の子に渡して自分は私のよだれがついた肉串を食べた。
肉串を食べ終わって男の子は私に触れた。
思わず身体をこわばらせるけど痛みはなかった。それどころか、心地よい気分になった。
気がついたら、あの子達はいなくなっていた。
失ったはずの利き腕が生えていた。そして私の手には一枚の金貨と一本の肉串が握られていた。
あの子達は一体何者だったのだろう。
今度会ったら、お礼を言わなくちゃ。