被験者の刺客達
秋がきた。急に冷えて心地よいな。
最近、少し忙しかったから投稿が遅れちまったぞい。
「ここがエルフの里だ。まー今は人間に襲われてみんなピリピリしているけどゆっくりしていってくれ。お前が来たことを報告してくるから。それじゃな」
斥候の案内でエルフの里に到着した。そして斥候は到着してすぐに走って行ってしまった。何故か凄く足が震えていたけどトイレでも我慢していたのだろうか?
ここに来るまで木にぶつかりそうになったりしたけどスピードは出していなかったけど、車に乗っている間、顔が青く俯いた表情していたから急に腹痛にでも襲われたのだろう。
エルフの里は大きな木に家を建ててツリーハウス風の家だったり、さらに大きな木の中をくりぬいた家だったり、木と木の間に吊り橋のようなものがあったりとこれまでに訪れた街や村とは雰囲気が異なる部分が多く、大きな木の太い枝に果物が生えた木を植えている。木に木を植えるってどういうことだよと思うが、太い枝は畑として使っているだけなのだろう。そしていたるところに燃えた跡があったり、弓矢が刺さった家も見られる。血の匂いも。これらは襲われた跡だろう。
見える範囲はそんなところだ。
視線を感じるが俺はよそ者だ。警戒されるのも仕方ないだろう。
初のエルフの里だし、何かあるのかわからないからとりあえず探索として視界を飛ばしておこう。
まずはエルフの子を車から降ろして、スフィアを抱きかかえる。
しかし、どこに行けばわからない。目的地のエルフの里には着いたが、スフィアの故郷じゃなかった。ただエルフの子の故郷だったが、エルフの子の親はどこにいるのかさっぱりだ。
こんなことなら斥候にエルフの子の親がどこに住んでいるのか教えてもらえばよかった。
「ナラ!」
「ママ!」
俺がボー立ち尽くしているとそこにエルフの女性が走ってきた。その女性はエルフの子を深く抱きしめて涙を流した。
エルフの子はナラというらしく、ナラに抱き着いた女性はナラの母親のようだ。
エルフの子も初めて声を発した。喋れないものだと思っていたから大声で「お前しゃべれたのか?」と言いそうになった。見た目も幼いし、俺達と出会う前はエルフの里が襲われた上に、母親と離れて、訳も分からず森の中を彷徨うっていたから相当ストレスを感じていたに違いない。もともと無口な子で母親と再会して安心したのかもしれない。
しかし、ナラの母親は若すぎる。見た目が高校生前ぐらいに見える。背も俺より少し高いぐらいで年の離れた姉妹と思ってしまう。いや、見た目で人のあれこれを言うのは失礼か。今はナラと母親の再会を素直に喜ぼう。
「あなたが私のナラを連れてきてくれたのね。ありがとう」
「ああ」
「お礼と言っては何だけど私達の家に来ない?今食事の準備をしていたの」
ナラの母親にご飯に誘われた。ここははいと答えてエルフの里の話を聞きながらご飯をごちそうしてもらおうと思った。だけど今視界で見つけた人がそれを許してくれなさそうだ。いや、そいつらは俺が視界で見ているのに気付いて手招きをしている。
なんでそいつらがいるのかは知らないが、別れを言うだけの時間はくれるそうだ。エルフの里に付いたばかりだというのにゆっくりはさせてはくれなそうだ。
「いや、少し用事があって無理そうです。もしかしたら戻れなくなりそうなのでこの子のことをお願いしても大丈夫ですか」
「その子はエルフ?寝ているの?」
「いや、なんて言いますか?廃人にされたようなものです。一人で生きていけなくなって誰かが世話をしてくれないと食事もできない。この子が正気に戻るまで世話をしてほしい」
ナラの母親にスフィアのことをお願いしてみた。あの国で何をされて廃人になってしまったのかわからないが誰かが世話をしないとスフィアは生きていけなくなったからナラの母親にナラを送り届けたお礼として世話をしてもらいたいと考えている。
そもそも奴隷にされそうになっていたここのエルフを助けたんだ。ナラの母親に断られたら、そのエルフ達や斥候に頼むことにするか。
「わかったわ。娘の恩人の頼みは断ることはできないわね。それに子供を放っておくこともできないわ」
スフィアのことをナラの母親に任せることにした。車もエルフの里に置いて、ミリとアルムを抱えて里から出る。
車は今の俺には必要なくなった。鍵も車に刺さったままだからエルフ達が有効活用するだろう。
エルフの里は森の中にある。里から少し離れた広場にミリ達を入れる為の石の棺桶を二つ生成する。棺桶は木材だと思うのだが、木材だと腐敗臭で寄ってきた魔物に墓を掘りかえされて遺体を食べれてしまいそうだと思ったから石にした。
棺桶の中にミリ達を入れて、視界で摘んできた花をミリ達が埋もれるほど入れる。
「二人とも今までありがとう。救えなくてごめん。約束も守れなくてごめん。何もしてあげられなくてごめん。もう会えないかもしれない安らかに眠ってくれ」
ミリとアルムに別れを済ませ、念力で墓穴を深く掘っていたら、視界で見つけた人物が来た。
「この子達はあの時の子ね。亡くなったのね。死の別れはとても辛いわね。病気で亡くなったのかしら?」
サイボーグ少女含む、ヒロ達が所属する被験者の国の刺客が六人、林から現れた。全員それぞれ花束を持っている。
俺が一人でミリ達の葬式をやっているからそれで花を持ってきてくれたようだ。
俺一人に見送られるより大勢に見送れる方がミリ達も嬉しいだろ。しかし、見た目も雰囲気もただの人には見えない。
「殺された。鎧を着た人間達にな」
「それであの国で大量に虐殺をしたのか。関係の無い人達まで」
「貴族がほとんど死んだからあの国は無法地帯になったな。今後はどうなるかは生き残った貴族達の腕の見せ所だが、国として死んだも当然だろう」
サイボーグ少女に病気で死んだのかと問われたので否定して殺されたと伝えたら髪の毛がコケみたいなほっそりした男が皮肉交じりに言う。それと特徴のない地味な男があの国のその後について軽く語ってくれた。まだ、貴族が生き残っていたのか。いや、首都の偉そうな人を皆殺しにしたから田舎やほかの街にいる田舎地方の貴族のことだろうか?
どうやら俺があの国で大量に人を殺したから捕まえに来たようだ。もうすでにやることは無い。目的も理由もなくなったから俺を殺すなり、豚箱にぶち込むなり、また被験者として実験するなり好きにしてくれって感じだ。
ただミリ達を埋めるのを先にやらせてくれ。これを最後までやらないとミリ達に対して償いにならない。
ミリ達の棺桶に蓋をして埋めた。
「終わった?」
「ああ、ここにはもう用はなくなった。俺を連れて行くなら連れてけ」
「今回は素直ね。前は手が付けられないほど暴れたのに」
「まーな。約束も何もかも無くなったから俺だけが一人残されただけだ。あこがれた自由もあの子達が死んでしまったから生きていても意味がない。自分ひとり幸せになったところで自分を許せなくなる。ただそれだけのことだ」
「でもエルフの子は生きているんでしょ。あなたが本当に大人しく私達に付いてくれるならあの子を治してあげるわ」
この人達はなんでもお見通しのようだ。視界と同じ能力を持った被験者がいてもおかしくないし、あと人口衛星からの監視や今まで立ち寄った街や村に超小型の監視カメラがあって俺のことを常に監視していてもおかしくないか。この世界の住民は自分達が支配している街や村が他国に監視されていても気づけないだろうし、俺もまさかファンタジーな世界で四六時中監視されているなんて思わない。それに街に設置されてある監視カメラがどんなものなのか現物を見ないと分からない。この世界の住民も自分達が日常を過ごす街の中にそんな物があるなんて俺よりも思わないだろう。
もしかした宿代わり使っていた宿泊施設に監視カメラがあったかもしれないな。
もともと無抵抗で付いていくつもりだった。スフィアを治してくれるならそれでいい。
「本当にスフィアを治してくれるのか」
「可能だ。我が国は魔法に科学。異能力、他の惑星や他の次元の技術、再生の概念がある。この星には治せない物なんてない」
「治せない物は無いんだな。それじゃ」
「ああ、治せない物は無い。だが、死んだ者は生き返らない。それは宇宙の摂理でこの世界の概念だ。もし生き返らせるとしても我々の思想がそれを許されない。お前も遺体を修復できても無理だっただろ?せっかくお前が作った墓だ。掘りかえすのは無駄だ」
確かにジュンからもらった能力でミリ達の体を治せたが、生き返らなかった。いくら身体を修復しても死人は死人のままだった。できないのもはできないままで、俺がこいつらにいくら土下座をしてもミリ達は死んだままなのだ。
今までに何人も友達が死んでいった。そうだ。今回もそれだ。
「別れが済んだか?そういうことでお前を拘束させてもらう。ガーナ悪いがコイツが言うスフィアていう子を連れてきてくれ。残りはこいつを護送だ」
「「「了解!」」」
「どわあ!なんだ?このドロッとした液体は?なんでかける?」
リーダーっぽい男がサイボーグ少女にスフィアを連れてくるように指示を出して残った人達で俺にジェル状の物体をかけ始めた。一人が端末を操作するとジェル状の物体が俺の身体を覆うように纏わりついて固まりだした。固まったジェルで身動きが取れなくなった。
俺の身動きを封じる機械か。スライムみたいなのに金属みたいにカチコチになるのか。ちなみにベスはアルムを棺桶に入れたら、俺のズボンの裾から中へ入ってきた。薄くなって俺の胸から下半身に張り付いている。肌に擬態しているから見るだけなら気づかれないが触れると気づかれれると思う。ベスは魔物だからあっちの国に行ったら殺されるかもしれないからベスには自然に帰ってほしかった。
ジェルタイプの拘束具か。なんかぬるぬるした感触でエロいな。ファンタジーな世界感なのに急にSFチックになったな。
遺跡で交戦したときに隙をついてこれを掛ければ俺を掴まえられたのではないだろうか。宝石男ごとこのジェル状の物体をかければ身動きが取れなくなって捕まえられたと思う。あの時は自分の能力が念力しかない物と思っていたから簡単に捕まえられたと思う。
「これすごいでしょ?ドロドロなのに指一本の操作で鉄が纏わりついたみたいに動かなくなったでしょ?それなね。このジェル全部が分子レベルのナノマシンでできているからだよ。それを作ったのは小指サイズの種族なんだけどね。小指サイズなのに僕らよりも化学レベルが進んでいるんだよ。凄いよ」
「…お前が作ったじゃないんかい」
眼鏡をかけたいかにも科学者や研究者と言ったい感じの男がジェルについて自慢げに語り掛けてきたが、このジェルはこの男が作ったものではないそうだ。最初自分が作った風に語り掛けてきたからこいつが作ったのだなと思ったら、小指サイズの種族が作ったと言う。理解が追いつけなくて思考が固まった。そして思わずツッコミを入れてしまった。こいつは少しバカだと理解した。
「おい、無駄話をするな。そいつを早く運べ!」
「りょうかーい。誰か手伝ってくれ」
「ったくよ。しょうがねぇな。俺は頭を持つからお前は足を持ってくれ」
彼らは俺を荷物みたいに持ち運こび、エルフの里がある森を小時間ぐらいで抜け平原地帯に出た。少し北の方向に運ばれ続けたら、テントが見えてきた。テントには3人が忙しそうにテント内に設置されている機械を弄ったりして作業をしていた。機械以外にキャンプ用みたいな寝具があってここでキャンプをしていたみたいだ。
目的地に到着後、物のように草むらの上に雑に置かれた。
そのすぐ後にスフィアを優しく抱くサイボーグ少女が待っており、サイボーグ少女の肩甲骨部分(視界で見た)から透明な翼が出ていたからエルフの森から飛んできたようだ。
「この子でしょ?」
「そうだ。村の方はどうだった?」
「数人のエルフがなんか揉めていたわ。人間のおもちゃにされた娘を村で養う余裕はないっとか言っていたけど、ダメね。このあたりのエルフは訛りがひどくて翻訳機が正しく翻訳できないわ。ほとんど何を言っているのか。わからなったわ。この子は良く思われていなかったから話を聞かずに連れてきたけど問題ないよね?」
「ああ。向こうに迷惑が掛かりそうだったのか。スフィアを連れてきて正解だったかもな」
同じエルフだからって今のスフィアを快く受け入られるわけはないか。村の経済状況が悪ければ口減らしをするし、村の者じゃないエルフは真っ先にその対象に入るだろう。
ナラのお母さんが面倒を見てくれたとしてもスフィアの存在が村にバレたら、ナラとナラのお母さんが村八分を受けるかもしれない。
俺は村のエルフを助けてうやったのにこの仕打ちは何なんだ。ナラに免じて今回は何もしないけど、奴隷になりかけていたあの時のエルフは檻から助けたことはなんて思っているのだろうか?檻が勝手に開いて運よく目の前に武器が落ちているし、奴隷商人が魔物かなんかに襲われている間に逃げ出せた。ラッキーだ。なんて思われているのだろうか。
そんなにポンポンと幸運的で連鎖的に自分達が都合のいい出来事が起こるだろうか。立て続けに連鎖的に都合のいいことが起きたら何か裏があるかもしらないと疑う。
いや、あの時のエルフ達は慎重に行動して目の前の都合のいいことを疑っていた。あのまま商人達と戦うか逃げるかの二択の選択肢がある中でエルフ達は逃げ出す方を選んだ。ただそれだけのことだ。あの場のエルフ達がどんな風に思っていたのか俺は考えるのをやめた。考察しても無駄だと思った。今はスフィアが元気になってくれることを願うのみだ。
「ここら辺でいいだろう。おい!向こうと連絡しておくから亜空間ゲートを展開しろ!それと手集するから暇な者はテントを片づけて置け」
亜空間ゲートとは何ぞやと思い、少し考えてみた。俺を自分達の国に運ぶ為のテレポート装置かだろうと思い、作業風景をボーと眺めた。
リーダーは指示を出して部下達に作業を任せて、端末みたいな物を懐から取り出してそれを耳にあててどこかに連絡している。それは携帯のようなものだろう。リーダーの連絡が終わりると同時に、テキパキと作業をしていた部下達は亜空間ゲートというテレポート装置を起動させ終えたようだ。
亜空間ゲートは緑と紫の靄がこの場で空間そのものがゆらゆらと波打っているように見えて気色の悪い物だった。
撤収作業が終わり、また俺は亜空間ゲートへと運ばれた。亜空間ゲートの先は以外にも事務所的な部屋だった。
亜空間ゲートが閉じたことで逃げ場を封じたと同時にジェル状の拘束具を解いてくれた。
自由になり、立ち上がろうとしたら、視界が揺らいだ。
「これはなんだ!何が起こった?空間の亀裂だと!まさかカマイタチの仕業か!今になってなぜに?」
リーダーが大声をあげているがほとんど聞き取れなかった。俺は部屋の空間に何かが切ったような亀裂のような歪みに吸い込まれるように入った。
その先は見知らぬ場所で、そこにいた人物は。
「お前は空気のやろうじゃねえか!なんでお前が!それよりここはどこなんだ?」
「過去の悲しみはいつまでも体に付きまとい、いくら前へ進もうともいつか足を引っ張入り奈落へ突き落される。または同じそれ以上の悲しみを味わい崩れ落ちる。だけども人は悲しみの先に光を見つければ前に進まずにいられない。それが性であるがとても悲しき道であり運命だ」
亀裂の先には空気のやろうが、相変わらず悲し気な表情を浮かべながらブツブツと意味不明なことを呟いていた。