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メサイアの響き

舞台をスイスに移します。たぶん私は女子高生の戯れを書きたかっただけの様な気がします。スイスが舞台なのに出てくるものは小難しい単語ばかりで嫌になります。ここまで来たら皆様はわたしと一緒に地獄に行きましょう。

 さて、この後の話をしよう。結論から言うと、確かに世界は終わった。しかしそれはありふれた話。今まで何度も滅んでは構築(宗教を信じている京香や初穂にとってこの世界を構築したのは絶対神であるが、無宗教である順子にとっての創造主とは誰なのだろうか。この謎を解くことが順子にとって、世界終了仮説にとって永遠のテーマなのかもしれない。)されてきた世界にとってはほんの日常の一部。朝、目が覚めると目覚ましを止める、そんなことと何ら変わらない生活の一部。ただしこのことを知る人間は構築された世界でたった一人。京香である。さて、ここからの話は今までとは大きく変わる。三人がそれぞれ異なる主張を抱えていながらもそれらをすべて分かり合う、もっと言うならそれぞれの主張を補い合うために試行錯誤する話である。そしてここからは、舞台をスイスのジュネーブ州ヴェルソワに移らせてもらおう。彼女たちにとってはるか東の島国は小さすぎたのである。


 わたしは、今まで普通に生きてきた。それなりに勉強をし、それなりに部活をし、それなりに恋をし、そして初穂、順子という親友にも恵まれた。

だが、ふと思う。わたしは今スイスにいる。ジュネーブのヴェルソワにいる。何故だかここ数日の記憶がない。順子や初穂は三人で旅行に来たのだというが、わたしはいまいちピンとこない。二人を疑っているわけではないし、何かを隠しているようにも見えなかった。だが、わたしは何か大切なことを知っているような気がする。何処か暗く、狭く、汚い場所に閉じ込められていたような気がする。わたしはそこで確かに世界の終りを見たんだ。

だが、周りの人間は信じてくれない。当たり前だ、こんな話信じてくれというほうが馬鹿げてる。その話は今はいい。話すべき時が来た時にでも話そう。さて、今わたし達三人は小さな宿で過ごしている。学生なのであまり金はないが、それなりにみんな楽しんでいる。もちろんいくつか学んだこともある。日本の英語教育はゴミ以下であるということだ。スイスにおいて英語は公用語でこそないもののよく通じる。しかしわたし達はどうだ、さっぱり通じないではないか。やはり世の中教えられている立場、殻に閉じこもっている立場では分からないことが多いということだ。わたしは異文化に触れて初めて己の小ささを知った。それでも我々は地球という殻に閉じこもっているのかもしれない。広大な宇宙の果て、いや、それすらも誰かの観賞用のペットだとしたら……。何故だろう。ここに来てからやたらと難しいことを考えるようになってしまっている。わたしはうら若き女学生だ。小難しい話は苦手だ。そんな話は偉大な学者様にでも考えてもらえばいい。


「京香さん。行きましょー。」


初穂の呼ぶ声が聞こえる。今日はもっと都市部を観光する予定だ。身支度は済ませてあるので持ち物の最終確認を簡単に済ませるとわたしは二人に合流した。


スイスは同様に四季がある。今のスイスの季節は夏(初穂と順子によると、わたし達は夏休みを利用してスイスに旅行に来ているらしい。)である。スイスの夏は気温が三十度を超えることもあるらしいが、湿度はあまり高くなく過ごしやすいらしい。また夏場も服の重ね着が基本となっている。これはスイスの地形が関係している。スイスは起伏が非常に激しい地形となっていて、気温の高低差が激しい。八月でも場所によっては十度を下回るほどである。十月ともなると初雪を観測する地域もあり、冬場はヨーロッパ中からウィンタースポーツ目的の観光客も多い。


「スイスの観光名所って何処?」


わたしは二人に尋ねる。順子も詳しくないようで小首を傾げて照れ笑いをした。


「まったく二人とも、スイスに旅行に来るんだから少しくらい調べておいてくださいよ。」


初穂はそういって得意げに観光ガイドを取り出した。わたしたちはそれをのぞき込む。


「まずはやっぱりマッターホルンですよ。なんでも環境保全の関係でガソリン車での乗り入れができないみたいですね。だから相当の絶景ですよ。」

「……ねえ、今日都市部に行くんじゃないの?」

「そうだよね、山じゃん?」


わたしと順子が言うと初穂ははっとした顔をした。


「……えへへ、そうだしたー。」


初穂は気恥ずかしさからまた笑う。順子は“可愛くしたってだめー”などと言ってふざけて初穂をたたく。平和な日常の一部である。もしも今、わたしが疑問に思っていることを口に出せばこの日常は崩れ去ってしまうのだろうか。わたしは怖いのだ。わたし弱い人間なのだ。誰あの支えなしでは笑うことさえできない現代社会のその他大勢のひとりなのだ。さて、どうやら行き先が決まったようだ。なんでも観光名所を巡りながらチューリッヒに行くらしい。なかなかの長旅である。現在スイスでは自動車離れが進んでいるらしい。わたし達歩行者からすれば何とも安全な国である。


「ねえ、スイスに来たのっていつだっけ?」


わたしは尋ねる。前述したが、ここ数日の記憶が一切ないのだ。


「おかしなこと聞きますね?一昨日じゃないですかあ。」


順子が不思議そうな顔でわたしの顔をのぞき込む。決して彼女たちを疑っているわけではないが、なんとなく彼女たちなら知っていそうな気がするのだ。


「どのくらい滞在するんだっけ?」


わたしは更に質問を続ける。


「一応、一か月半ってことになってもすけど……。京香さん、さっきからどうしたんですか?」


初穂が怪訝に思うのも無理はない。わたしだっておかしなことを言っている自覚くらいある。


「あ、もしかして楽しくないですか?」

「……そうなんですか?」


不安な顔の順子と今にも泣きだしそうな初穂だ。せっかくの旅行なのにわたしのせいで台無しにしてしまったら申し訳ない。


「いやいや、そんなわけないよ!ごめんね、ただなんとなく気になっただけなんだ。だからさ、気にしないで。」


わたしは何を言っているのだろうか。これではまるで言い訳をしているように聞こえるのではないか。しかしそんな心配とは裏腹に初穂と順子は笑ってくれた。いい親友を持ったものだ。わたしは、この二人といるとそれで十分な気がしていた。何故記憶がないのかは確かに気になることであるが、それが何だという。大切なことを忘れているような気がするが、所詮忘れてしまう程度のことなのだ。どうということはないだろう。そんなことよりは、三人で旅行の思い出を残すことの方がよっぽど重要なことだろう。もうこれ以上は考えるだけ無駄だろう。


 真夏のスイスの穏やかな風があたしに真実を運ぶ。さて、今までは少し、ほんの少しだけ平和な日常を経験していたような気がする。しかしありがちな日常とは何かしらのことで壊れてしまうものである。ただでさえ世界には数々の問題がある。今でも飢餓で苦しんでいる者は確かにいる。今日のSNSでも偽善者どもが飢えで苦しむ子供の写真を張り付けては笑っている。かと思えば、今度は人口増加に伴う食糧問題、ごみ問題、環境問題である。死にゆくことを嘆く者と、生きてゆくことを嘆く者がいる。それはそれぞれの立場、それぞれの価値観の押しつけである。あたしからすれば、何も考えずに生きている人間のほうがよっぽど人間らしいと思う。そもそも人間というものは自分一人の人生を背負うことに精一杯のはずなのである。にもかかわらず人間は、やたらと人を見下そうとする(決してそれが悪いと言っているわけではない。現実的な話をすると、底辺の生活をしている人間は基本的には屑野郎であるからだ。もっと言うならば、私も善と偽善の線引きくらいはしている。単純に信念を持ち、筋を通しているかどうかである。前述したSNS云々の例はまっとうな人間なら偽善であるとはっきり言えるだろう。因みに、こんなことをするのは年頃の頭の弱い女に多い。)。ここまでの話は悲しいことに世界の話である。地球というちっぽけな星の話である。この話を宇宙まで持っていくとしたらどうだろう。この広大な宇宙において生命体が一切いないとは限らない(そんなことは悪魔が証明してくれている。)。サイエンスフィクションな話は苦手であるが、もしもその生命体が地球を攻め込もうとしていたらどうだろう。とにかく、あたしは日常とはあまりにももろく、儚いものであると主張したいのである。さて、雑談はここまでとしよう。あたしはスイスに来てから、正確にいうとスイスに来る途中の飛行機の中からずっと見ている夢がある。なんというか、あたし達三人が世界の終りについて語り合っている夢だ。だけど、夢にしてはやたらとリアルで、やたらと細部まで覚えている。まるで実際に体験してきたかのようにだ。しかし、なぜそんな話をしたのかなんて覚えていないし、何の意味があったのかも覚えていない。そうだ、これまでの話をしなければならないんだ。ジュネーブを出たあたし達はチューリッヒに向かった。様々な景色、人々、料理、とにかくスイスを味わい尽くしながら辿る旅路は楽しかった。そしてチューリヒに到着したのはジュネーブを出てから約三日だった。実際はICN特急列車に乗り二時間四十分で到着するものなのだが、あたし達は途中下車して観光を楽しんだので、かなり時間がかかってしまった。そして現在はチューリッヒで宿をとっている。チューリヒはスイス最大の都市でチューリッヒ州の州都である。また世界都市で世界規模の金融センターの一つでありヨーロッパでも有数の規模を誇っている。そのため街には多くの金融機関、銀行研究開発センターが立地されている。二千六年から二年間、世界で最も居住に適した都市との評価があり、ヨーロッパでは最も裕福な街とされた。そのため街は賑わい、交通量もかなり多い。異国民や旅行者は必ずいるはずだがあまりアジア圏の人は見かけない。あたしはこの異世界にいるような感覚がすごく好きだった。まるで魔法にかかったかのように日本の常識やしがらみから大きく逸脱、しかしここではまた違った秩序がなされ、また違ったしがらみや常識がある。それは至極当然のことながらもあたしにとっては新鮮だった。


「ねえ、もう寝ようよ。」


京香さんの声がする。気が付くともう午前三時だ。明日もおそらく観光だろう。流石に寝なければ体が持たないだろう。


「じゃあ、電気消しますね。」


初穂は言った。ボタン一つで電気が消える。初穂はもぞもぞとベッドに入った。あたしもベッドに入り真っ暗になった部屋の天井を見上げる。あれ、あたしは今まで何をしていたんだっけ。部屋からは一歩も出ていないからできることなど限られている。そもそも行動というのは本当に自分の意志で行動しているのだろうか。もしかするとあたしが考え、行動していることは全て大昔に運命付けられたものなのかもしれない。さらにあたしは無宗教であるが故なおさらタチが悪いキリスト信者やイスラム信者は唯一神が運命づけたとすれば楽なのだが、あたしの場合は誰が運命づけたのか、から考えなくてはならない。何とも難儀な話である。そもそも行動というものは目や鼻、耳さらには肌触りから数々のことを感じ、それが脳に伝達され行動となる。そのため、何も感じない生活を送っていなければ行動も生まれない(もっともこの世には水槽の脳という概念もあるが。)。単純にあたしが何も考えていなかったのだろうか。しかし、三人で旅行に来ているのに何も考えずに夜を過ごすなんてことがあるだろうか。親友と会話をすること以上に優先すべきことがあったのだろうか。……あたしは何故こんなにも悲観的になっているのだろう。あたしはあまり物事を深く考えない人間だったではないか。スイスに来てからというもの考え事が増えたような気がする。


 今朝はいやな夢を見た。わたしが順子を殺し、初穂に解体される夢だ。そう、あれは夢だ。夢でないとしたら今順子が生きているのはおかしい。もっとも自分が生きているのもおかしな話だ。つまりあれは夢なのだ。夢だとわかっていても目覚めは悪い。寝汗で体中が気持ち悪い。シャワーでも浴びよう。わたしはベッドを降りるとバスルームへ向かった。朝のシャワーは嫌いではなかった。目を覚ましてくれるし、何よりいい気分転換になる。特に今日は、こんなろくでもない夢を見てしまったせいでもうすでに軽くブルーだ。わたしはレバーを捻ってシャワーをだす。右手で取手を持ち流水が水からお湯に変わるのを左手で確認してから髪を濡らす。寒い季節ではないが体の芯から温まるのは好きだ。


「京香さーん。急いでくださーい。」


初穂の声が聞こえる。


「ごめん、今シャワー浴びてて。ちょっと待って、すぐ上がるから。」

「もう。朝食バイキングって朝の十時までなんですからね。」


これはまずい。朝ごはんを食べ損ねてしまう。わたしは急いでバスルームを後にした。


 場所は変わって朝食バイキングのホテルホール。何とか間に合ってわたし達は朝ごはんにありつけた。


「にしても流石は京香さんですよね。」


順子が意味ありげな笑みを浮かべて言う。


「何のこと?」

「朝ごはんよりお風呂優先ってことですよ。」

「綺麗好きの京香さんらしいよね。」


初穂も順子に乗っかる。


「別に綺麗好きなわけじゃないよ。ただ、今日は寝汗がひどかったからさ。」

「でも、今日も観光ですよ。どっちみち汗だくになるんだから関係ないんじゃないですか?」

「……いや、それは順子がガサツなんだと思う。」

「そうですかねえ。」


順子は悪戯に笑って見せる。最近考え事ばかりであまり三人と他愛のない会話をしていなかった気がする。少し申し訳なかったかな。わたしももう少し相手の立場で物事を考えられるようにならなきゃな。

「そういえばさ、今日って何処に行くの?」


わたしは二人の顔を見渡しながら言う。質問に答えたのは初穂だった。


「今日はチューリッヒ大学に行く予定ですよ。」


そのとんでもない答えにわたし達は凍り付く。


「……いや、無理でしょ。」


順子が呆れながら言う。初穂は不思議そうな顔で順子を見ている。いやいや、無理でしょ。だって大学だよ。


「何をどうしたら大学に観光に行こうって発想になるのよ?」


その言葉を聞いた後、初穂はフフンと鼻を鳴らし、鞄から旅行ガイドを取り出しわたし達に見せる。


「ほら、ここ見てください。」


そう言って初穂が指差していたのは、チューリッヒ観光名所ランキングという何の捻りもない小見出しのつけられた記事だ。その記事によるとチューリッヒ大学は第九位にランクインしている。可もなく不可もない順位だが、なんでもカフェテラスから見る景色は絶景らしい。


「でもなんで大学なんか行きたいの?もっといいとこあるでしょ。例えば、この一位のチューリッヒ湖とかさ」

「チューリッヒ大学のカフェテラスからは市内が一望できるんですよ。本格的な観光の前に街並みを見ながらほっと一息つきましょうよ。」


なるほどな。流石は合理主義の初穂だ。順子も、えらいでちゅねーなどと言ってからかっている。朝食をとってすぐにカフェをするというのもおかしな話だが、わたし達はチューリッヒ大学に行くためホテルを後にした。


 チューリッヒ大学。1525年に設立された神学校を基にしている総合大学である。かつてはベスタロッチ、レントゲン、アインシュタインが籍を置き学んだこともある。特にアインシュタインはこの大学で博士号を所得している。あたし達はそんな大学のカフェテラスにいた。日本人だということで話しかけてくる学生も多かった。やはり外国の人はフレンドリーな人が多い。あたし達も下手くそな英語で何とか会話を楽しんでいた。


「旅先で人と仲良くなるっていいよねー。」


京香さんが誰に言うでもなく言った。


「確かに旅の醍醐味の一つですよね。向こうが心開いてくれるんだから私達も応戦しなきゃ。」


初穂も頬杖を突いて空気に語りかける。まだ皆紅茶を一杯しか頼んでいない。にもかかわらずかなりの時間を使っていた。ここに来たのが午後二時だったのだが現在はもう午後六時を回っている。日が陰り始めたチューリッヒ市内は幻想的で退廃的な印象をうけた。


「ここで夕食食べるんですか?」


あたしは尋ねる。一応京香さんに尋ねたのだが、答えは初穂から返ってきた。


「夕食にはまだ早いですからね。少し大学見学しません?」

「大丈夫かな?」

「少しなら大丈夫ですよ。ちょっと歩くだけですから。」


有無を言わさずに初穂は歩き始める。あたし達は慌てて初穂についていく。何だろう。妙な胸騒ぎがする。初穂はまるで通いなれた通学路を行くように歩く。初めて訪れたはずなのにまるで何年も前から慣れ親しんだ場所にいるようだ。


「ねえ、ちょっと待ってよ。」


あたしは初穂を呼び止める。しかし初穂はあたしの声がまるで聞こえないかのように歩く。


「ちょっと!どうしたってのよ!」


京香さんが初穂の左手をつかむ。しかし初穂は無理やり手を振りほどいて先へと向かう。その様子に初穂らしさは一切なく、ただただ狂気じみていた。


 初穂が向かった先はチューリッヒ大学の地下であった。階段に次ぐ階段を降り、薄暗いフロアを抜け、重たそうな扉を開けるとそこはどうやら大学付属の精神病院のようだ。その病院の長い長い廊下を抜けると見覚えのある景色が目に飛び込む。独房である。あたしは思わず京香さんを見る。絶句していた。あたしも京香さんもすべてを思い出したのである。


「イヒヒ。二人ともやっと思い出してくれましたよね。」


そうだ、この不気味な笑い方も初穂の特徴だ。決して狂気じみてなどいなかったのだ。これこそが初穂自身なのである。


「そっか、ここだったんだ。」


京香さんが呟く。


「そうだ、ねえ京香さん。世界は、世界はどうなったんです?」


あたしは京香さんに尋ねる。そう、あたしの目的は元来この仮説、世界終了仮説を立証させることにあるのだ。


「その前に、来てほしいところがあります。」


初穂があたしの会話を遮り、くるっと後ろを向くとまた歩き出す。部屋はどんどん埃っぽくなり、そして薄暗くなっていく。しばらく歩くと初穂は立ち止まる。そこには人が入れるほどの大きなミキサーが置いてあった。


「さて、ここを私達の物語の終焉としましょう。」

「いいよ。神なんていないことを証明してあげる。」

あたしと初穂で睨みあう。京香さんはそんなあたし達を見下すように見ている。

「でもね、順子ちゃんには謝らなければいけないことがあるの。」


急に初穂が穏やかになるのであたしは首を傾げた。


「私はね知ってたんだ。」

「何を?」

「世界終了仮説は立証するんだよ。」

「どうして?そんなことが言い切れるの?」


世界終了仮説は京香さんが決めることだ。だからこそ世界終了仮説は仮説の領域を抜け出せないのだ。


「じゃあ、京香さん。世界は終わったのですか?あの独房で、今、私達のいるこの場所で、世界は終わったのですか?」



初穂はやたらと不気味な笑みを浮かべて京香さんに尋ねる。初穂はまるでこの空間、いやこの世界全てを支配しているかのような冒涜的な笑みだった。いや、もしかするとこの世界というものはそのくらいもろいものなのかもしれない。そんな悲しい世界の中で京香さんは言った。

「うん、確かに世界は終わった。見たんだ。この空間の中、わたしも順子も確かに消えた。空も風も何一つとして残らなかった。形あるものは全て、肉体的に精神的に消えたんだ。」

「言ったとおりでしょ?」


初穂がイヒヒと笑う。何とも癪に障るやつだ。


「順子ちゃん分かる?これが神はいるっていう証明なんだよ?」

「違うね。神はいないっていう証明なんだよ。」

「どうして?」

「だって、すべてが消えたっていうことは神さえ消えたってことなんだよ?神なんてのは所詮人類が生み出した偶像なんだよ。だったら神さえきえたはずだよ?それならこの世界を再生させたのは誰って話になるんだよ?」

「分かってないねえ。神は人類の思想であり夢なんだよ。あくまで神を作るのは万物だよ。」


初穂は黙る。下唇をかみながらうつむいた。あたしは更に続ける。


「神は今から京香さんを殺します。それはあたしたちにとって不幸なのかな?」


京香さんはじっとあたしを見る。虚しく時間が過ぎていく。不穏な空気の中、京香さんが言う。


「不幸なんかじゃない。幸せがありそれが崩れるから不幸になる。幸せも不幸にも人類がどれだけ頑張っても行き着く先は退廃。強いて言うならハルディンホテル。最初から不幸を知ってるわたしには不幸なんてものはない。」


あたしは馬鹿だから京香さんが不幸な意味が分からない。しかしそれ以上に人類は馬鹿で愚かでクズだ。






メサイアが聞こえる。


次で最後になります。こんなバカバカしいものが完結するかと思うと酒がいくらあっても足りませんね。

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