きたない雪だるま
あるところに、きたない雪だるまがおりました。泥や石でよごれた雪だるまです。雪だるまは、いつもいつも考えていました。
「どうしてぼくは、きたないんだろう……
ぼくも、みんなみたいに真っ白になりたいなぁ……」
雪だるまは自分の体がきらいでした。きたないからです。
それに、みんなに笑われるから。
他の雪だるまたちが笑うのです。
「見て見て、あの雪だるま。全然白くないのよ」
「あはははは、本当ね。きたならしい」
「きたないきたない雪だるま、それじゃ子供が泣いちゃうぞ! わははははっ」
笑われるたび、雪だるまはきたない体を呪いました。このきたない体をつくった人間を恨みました。
「ああ……はやく春にならないかなぁ…………」
――みんな溶ければいいんだ。ぼくも溶ければ、みんなと同じ。
いつしか雪だるまは、そんな事を考えるようになりました。
そんなある日の夜。シャンシャンシャンッ、と鈴の音がきこえてきました。サンタクロースを乗せたトナカイの足音でした。
「サンタさん、ぼくを真っ白な体にしてください」
雪だるまはサンタクロースにお願いしました。でもサンタクロースは困り顔。
「どうしてだい? きたないところは、ほんの少しだけなのに」
「少しでもイヤなんです。ぼくも、みんなと同じ真っ白な体になりたいんです」
雪だるまは一生懸命お願いしました。サンタクロースの「……後悔しないかね?」という言葉にも、「はい。絶対に後悔しません」と誓いました。
「よかろう。雪だるま、きみを真っ白な体にしてあげよう」
サンタクロースはそう言うと、子供たちへのプレゼントを入れていた白い袋を雪だるまにかぶせたではありませんか。雪だるまの目の前は真っ暗になりました。なにも見えません……
けれども、もうこれで真っ白な体になったのです。雪だるまはサンタクロースに感謝しました。
その日から、雪だるまは自分の体が好きになりました。どの雪だるまよりも真っ白な体。もう笑われることはありません。
――みんな、ぼくをうらやましく思ってるんだろうな。
真っ暗な視界のなか、雪だるまはニンジンの鼻を高くしました。
しかし、その雪だるまを見た子供が泣いてしまいました。どうしてでしょうか、こんなに真っ白な体なのに。
どうやらその子供は雪だるまをつくった子供だったようです。
「ボクがつくった雪だるま、だれかに布をかけられちゃった」と、泣きつづける子供。雪だるまは少しくらいなら元の姿を見せたいと思いましたが、自分で布を取ることはできません。
雪だるまは、子供の泣き声を聞きつづけるしかありませんでした。
「うわーんうわーん、こんなのっぺらぼうの雪だるまはイヤだよう」
「うわーんうわーん、こんな変な雪だるまはイヤだよう」
子供の言葉に、雪だるまも悲しくなりました。他の雪だるまに笑われるよりも苦しくなりました。
でも、雪だるまには何もできません……
その日から、子供は二度と雪だるまの前にあらわれることはありませんでした。
いつしか、雪だるまが望んでいた春がきました。
雪だるま達は残らず溶けて消えました。
ただひとつ、泥や石でよごれた布だけが地面に残りました。