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魔道士の主従契約  作者: 梵天
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プロローグ

 薄暗く冷たい鉄格子てつごうしの中、青年は古く所々に血痕けっこんの後がある床を眺めながら、己自身のことを考えていた。自分は何者で、何処から来て、何処へきたのか、そして、自分はなぜこの鉄格子ばしょで両手を壁のくさりつながっている手錠で身動きが取れなくなっているのか。

 青年は、何日もいや、もしかすると何年かもしれない程の月日、考え続けた。

 だが、青年の疑問に答えは出ず、無駄な時間を過ごしている気にさえなった。そして、青年は考えることを少しずつ諦める様になった。

 青年は眠りに就くことにし、目を閉じると青年の眠りを妨げるかのように遠くから、足音が近づいて来て、足音は、青年のろうの前で足音は止まった。

 青年は目を開け鉄格子の外に目を向けると鉄格子の外の廊下に一人の人影があった。

 薄暗いだけで何も見えないはずの鉄格子の外が見えることをこの時の青年は疑問に思わなかった。なぜなら、人が居ると分かるだけで姿までは、見えなかったからだ。

 人が来たと認識したが青年は再度目を閉じ下を向いた瞬間、廊下に居る人影が口を開き青年に問い掛けてきた。

 「貴方が私のマスター候補なのですか?」

 鉄格子の外から聞こえてきた声は、透き通るように綺麗きれいな少女の声で、決して大きな声ではないはずなのに青年の耳にはっきりと届くほどだった。

 しかし、青年には少女の声は嫌悪感けんあくかんを感じさせる感覚にだった。だが、廊下にいる少女は人の気も知らずに少女は再度話し掛けてきた。

 「もしかして、就寝されてますか?」

 そんな、少女の気の抜けた質問に青年は深く溜息を吐き、少女の問い掛けに答えた。

 「起きている。それで、お前は誰だ?」

 青年は嫌悪感を込めた声で少女の最初の質問を無視し逆に問い掛けた。悪意にも似た声で、問い掛けられ、少女が息を呑むのが分かった。少女から、恐怖の色が伺える程、戸惑っているのが分かったが、少女は落ち着くように深呼吸をし、青年の問い掛けに答えた。

 「私は貴方の従者サーヴァント候補です」

 少女は青年の問い掛けに簡潔かんけつに答えたが、青年には少女が言う言葉の意味が全く理解できなっかた。

 青年が少女の言っている事が理解できないのは青年が何も思い出せないのも一つの原因なんだろう。しかし、青年にも多少は常識があるが、先程、少女が言ったことは常識では、考えられない類の物だという事もまた、理解できた。

 だが、青年は少女の言っていたことよりも、もっと重大な疑問に行き合った。それは、少女が自分のことを知っていると言うこと。

 青年は尚も少し威圧いあつを込めた静かな口調で質問した。

 「お前は、なぜ、俺のことを知っている?」

 青年が質問すると少女は再度、息を呑んだ。

 「あ、あの…」

 少女は口を開きかけたが、それ以上の言葉は出てこなっかた。

 そして、お互いに何も話さなくなり、周囲に静寂せいじゃくが訪れた。





 どの位の時間が過ぎたか分からない程、静寂が続いた。

 青年は静寂にも飽き、タイミングのいい所で睡魔すいまが襲い始め目を閉じ眠りに就く態勢に入った瞬間、少女は何かを決意したように口を開き話し始めた。

 「私が貴方のことを知ったのは、ある女性から聞いたからなのです。そして、その女性に教えて頂き此処に訪れたのです」

 少女の言っていることは、あまりにも簡潔でそして、曖昧あいまいで説明と呼んで良いのか、分からない程に情報が少なすぎた。

 そして、青年は少女の言葉を聞き一つのことが頭を過ぎった。それは、少女が話していた『ある女性』の存在であった。その人はまるで、青年の存在を過去を知っていて、少女に話したようにも聞き取れた。何より、青年が何者で何処に居たのかも知っているように青年には、感じられた。

 (そのある女性という存在の女性は俺のことを知っているような気がするな。となれば、その女性に会って、俺の過去を知り、俺が何者で、なぜ、俺が此処に閉じ込められていたのかも、聞き出す必要があるな。たとえ、どんな手段を使っても…)

 青年は頭の中で今後の方針を決め、少女に話し掛けた。

 「なあ、一つ聞いて良いか?」

 「はい、なんでしょうか?」

 「そのある女性て人は俺のことを詳しく知っていそうな人だったのか?」

 青年が少女にそう聞くと少女は少し悩み、それでも、口を開いた。

 「はい。たぶんですが…」

 少女は自信が無いのか、少し弱気だった。しかし、少女は続けて口を開いた。

 「ですが、私に貴方のことを教え、この場所を教えたと言うことは、少なからず、貴方のことを知っているのでしょう」

 青年は少女のその言葉を聞き、少女の言うこともまた、一理あると思った。

 (やはり、会ってみる他無いか…。なら、これから、俺がすることはたった一つだな)

 少年は今度こそ決意が固まり、少女にこう告げた。

 「いいぜ、俺がお前のマスター)とやらになってやるよ」

 青年がそう告げると少女は慌てた口調で返答してきた。

 「私の言うことを信じてくださるのですか?」

 少女は少し悲しげに寂しげに青年に問い掛けた。

 青年はこの子のことを騙すことに罪悪感ざいあくかん感じなだらも返事をした。

 「全部が全部、信じれるわけでは無いけど、俺はお前の言っていることが全て嘘だとは思わない。それに俺は、そのある女性と言う人に会って話をしないといけない気がするからな。そのついでだよ」

 青年は嘘を吐いた。

 会って話をしないといけない気がする?そんなのは、建前で詭弁きべんに過ぎないと分かっていても、現状を打破するためには、必要だと思ったのだ。

 青年の言葉を少女が疑うことは無かった。むしろ気にしていたのは、もっと別のことだった。

 「何処の誰とも知らない私でよろしいのですか?」

 青年は少女のその言葉を聞いた瞬間、心の中で心底呆れはしたが、口調には、出さなかった。

 「それは、こっちも言えることなんだが?」

 青年のその言葉を聞き少女は少し笑いながら、答えた。

 「それも、そうですね。でも、私は、貴方となら、主従契約をしても構わないと思いました。私って、少し変ですよね」

 少女は無邪気な口調でそう言った。

 そして、青年の前にあった鉄格子の方から、古く錆びた扉を開けるような音と共に少女の人影が入って来た。少女はそのまま、青年の方まで、近寄ってくると青年の手首に付いた手錠に触れた。

 青年の顔の隣から、先程から、聞いていた少女の声がした。

 「きっとあの人は、私が貴方に惹かれるのを予期して居たのかも知れませんね」

 少女は独り言のように呟きながら、青年の手錠を外した。

 青年は手錠が外れ床に倒れこんだ。

 すると、青年に手を伸ばし少女は口を開いた。

 「私は貴方の従者サーヴァントになります。ですから、ここから出ましょう。我がマスター)

 青年は目の前に差し出された手を取り、立ち上がった。

 そして、少女は青年の手を掴んだまま、案内するかのように手を引いた。

 鉄格子の外に出て、少し歩くと階段のようなものを上がった。

 少女は目の前で立ち止まると扉を開けた。

 青年の目に映ったのは、目が眩みそうな程明るいこぼ、緑生い茂る木々とその木々と光と戯れるように少女は振り返った。

 振り返り際に靡く(なび)長く美しいプラチナゴールドの髪と作り物のように整った顔の美少女が微笑んだ。

 青年がその姿に見惚れて居ると少女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら、青年に口を開いた。

 「やっと、貴方の顔を見ることが出来ました」

 少女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 既に遅いにも関わらず青年は急いで、ポーカーフェイスを装った。

 そして、少女が何かを思い出したように口を開いた。

 「そう言えば、私まだ、自己紹介をしていなかったですね。私の名前はメリル・フォン・アリアンロットと申します。これから、よろしくお願いしますね。我がマスター

 きっと、出会って今までで、最高の笑顔でそう言った。

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