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転生を、しました。
「シーア、こちらにいらっしゃい。」
「はい、かあさま。」
飯島柚子改めましてシーディア・グノリアム、4歳になりました。
愛称はシーア、日本で生活していた頃には全く無縁だったフリフリのドレスを着用中。
西洋の中世のような世界です。
そして、ファンタジー好きには堪らない、精霊や妖精、魔法が存在する世界。
ああ、素敵!
なんて素敵!
ビバ、ファンタジー!
私の心を鷲掴んで掻き混ぜる勢いの、理想卿です。
ついでに、ほんの2ヶ月前に前世の記憶を取り戻したばかりです。
と言うのも。
「こーら、お転婆さん。
走っちゃだめだよ。
また、頭を打ったらどうするの。」
ひょいと抱き上げたのは、兄であるアレクシード・グノリアム。
今年で13歳の美少年。
「アレクにいさま。」
そう、何もかも忘れて幼児をしていた私は、お転婆を発揮し庭を走り回っていた末に、木の上に蝶を見つけ。
何を思ったか、いや、何も考える事なく木登りを決行しました。
怖いですね、幼児の決断力、思い切り。
前世でさえ、木登りなんてした事ないのに。
案の定ですよ、決行者は幼児です。
自分の体重支えられるような腕力も、体重移動をして登るなんていうスキルも、持ち合わせておらず。
当然のように、自由落下し。
受け身だって取れるはずもなく、後頭部から着地。
3日程魘され続け、かつての人格『飯島柚子』を無事思い出したと言うわけです。
因みにですが、シーディアの人格は形成途中であった事と、飯島柚子の人格にかなり似ていた事もありスムーズに統合したようです。
「シーア、いたいのもうやー。」
短い腕で、落下時に作った盛大なるタンコブがあった場所を庇います。
とはいえ、すでにタンコブのタの字も見つからない状態、つまりは完治したあとですが。
その有り様を見て、アレク兄さまが優しく微笑みます。
「私だって、可愛いシーアが怪我をするのは嫌だからね。」
「シーアは誰に似たのか、本当にお転婆さんですものね。」
抱っこしたまま、アレク兄さまが母上の隣に並びます。
母さまは金髪で色白な、美人さんです。
そっと佇む姿は、儚げで一見子持ちには見えません。
しかしながら、私は知っています。
私のお転婆っぷりは、どうやら母さま由来、らしいのです。
コレは長年我が家に仕える執事、セバスチャン(72歳)からこっそり聞いた話です。
もちろん、それはオフレコ。
母さまに纏わる武勇伝は、それこそバリエーションも豊富らしいので、またセバスチャンに聞いてみよう。
「元気なのはいいですが、公爵家の令嬢となればもうすぐ教育が始まります。
そうなれば、淑女になるべく頑張りましょうね、シーア。」
魅惑的な笑みを浮かべ、母さまが頬をつつきます。
そう、シーディア・グノリアム4歳は、公爵家次女として生を受けました。