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端的に言うのであれば、私、飯島柚子17歳は死んだのだ。
平和な日本の一般家庭に生まれた私は、ごく普通の女子高生だった、と思う。
ただ、ちょっと、他の子よりゲームに熱中していた気がする。
少しばかり『腐れた』趣味を持つ親友に勧められて始めた、俗に言う乙女ゲームにどハマりしたのだ。
小中と付き合いのある親友は、私のツボを心得ていて見事に、本当に見事に、ゲームにのめり込んだ。
もちろん、学生生活を蔑ろにはしない。
融通の利かない性格ねぇ、なんて親友にはよく言われた。
それが祟ったのだろう。
勉強をサボるわけにはいかない。
部活をサボるわけにはいかない。
では、何を削る?
答えなんて考える間も無く、食事と睡眠を削った。
今考えれば、バカだなー自分。
生命活動の根幹無視って。
で、だ。
先に述べた通り、私は死んだ。
死因ですか?
ありきたりと言ってはなんですが、交通事故です。
数日間に及ぶ睡眠と食事を削った結果、注意力散漫と休息不足による疲労により、信号を見間違え。
赤信号で車道に出て、よりにもよってダンプカーに遭遇。
走馬灯を見るでもなく、スローモーションの世界を体験するでもなく。
『あ、コレは死んだわ。』
なんて思った直後、クラクションに包まれ、多分すごい衝撃を受けたんだろう。
痛みを痛みと感じることもなく、ブラックアウト。
で、現在に至るわけだけど。
はっと気付けば、真っ白な部屋に突っ立ってました。
窓もドアもない、ただ無機質な白い椅子と白いテーブルだけがある六畳ほどの部屋。
お花畑でも三途の河でもなく、ただ白い部屋にぽつん。
不思議と不安感はなく。
ぐるっと見回して、自分の掌に視線を落としてみる。
痛みも無ければ、怪我をしてる風でもない。
制服も、破れも無ければ汚れもない。
白昼夢でも見てるのかな。
実はダンプカーに轢かれたのも夢だったり?
「いや、あんたは確かに死んだよ?」
「ぬわぁ⁈」
・・・いきなり背後から声をかけられ、女子にあるまじき悲鳴が口から零れた。
てか、居なかったよね⁈
「どもー、えっと、飯島柚子さん?」
くっくっくっと笑いながら、軽い口調で背後から現れたのは、小学生くらいの男の子。
艶やかな漆黒の髪にクリクリとした漆黒の瞳の、少年。
本来なら、愛らしいとか天使のようなとかの枕詞が付きそうな感じの子だが、いかんせん笑われたという事実がそれらを軽く取っ払う。
・・・笑わなくてもいいじゃない、びっくりしただけなんだから。
てか、誰よ。
私の現状把握能力は、レベル0になっているらしい。
全く意味がわからない。
そんな突っ立ったままの私に、少年は何度か頷き、にっこり笑う。
「柚子さん、そこに座りなよ。」
「・・・はぁ。」
言われるままに、着席。
聞きたい事が山ほど出てくるけど、取り敢えず黙って少年を伺う。
それを面白そうに眺めながら、少年は私の向かいに座ってこう切り出した。
「おめでとう飯島柚子さん。貴女はこの度、厳正なる選抜の結果、とある世界の神代行として選ばれました。」
・・・私には何がメデタイのか、全く意味が分からなかった。