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あいつと私の失恋物語

作者: 恵/.

 私は今、絶賛失恋中だ。屋上に通じる扉の前で、膝に顔を埋めて泣いている。

「やあ、失恋真っ只中の田中さん」

「……山田。何しに来たのよ? っていうか、失恋って何のこと?」

 そんな私に話し掛けてきたのは、級友の山田だった。けれど、彼とは挨拶を交わす程度で、個人的な付き合いはない。少なくとも、私に用事があるとは思えなかった。

「隠さなくてもいい。君が絶賛失恋中なのは分かりきっている。そして何をしに来たかと問われれば、失恋中の君を弄びに、かな」

「……物凄く癇に障る話だけど、どうして私が失恋してるって分かるの?」

「簡単さ。君が友達と会話していて、そこで「最近、佐藤に彼女が出来た」という話題になった途端、君が教室を出て行ったからだ。そして追いかけてみれば、案の定、こんなところで泣いている」

 佐藤君は、同じクラスで、私が片思いしていた相手。友達から、彼に彼女がいると聞いて、私の儚い恋物語は終わりを告げたのだ。

「まあ、安心するといい。もしもあいつの彼女がビッチで、あいつが処女厨なら、すぐに別れるだろう。そうすれば、万年処女の君にもチャンスが巡ってくるはずだ。尤も、あいつが本当に処女厨だったら、一発やっただけで捨てられるだろうが」

「……あんた、乙女の傷口抉って塩を擦り込んで、楽しい?」

「ああ、それが僕の趣味―――いや、生き甲斐だからね」

 なんとも難儀な趣味なことで。けれど、そんなのに巻き込まれたら堪らない。

「まあ、君は別に美少女でもないし、才能があるわけでも性格がいいわけでもないし、体格も普通だし、もっと言えば金持ちでもないから、君に佐藤が惚れる理由などないんだが」

「やーめーてー!」

 しかも、コンプレックスをこれでもかというくらいに突いてくる。こいつ、底意地が悪すぎる……。

「まあ、その勘違いで自惚れ過ぎてあまりに哀れな君でも、僕に弄ばれるくらいの価値はあったんだ。悦ぶといい」

「悦ぶかっ!」

 それから私は、山田に散々罵倒されたのだけど。それが終わる頃には、失恋のショックは完全に消えていた。



  ◇



 ……翌日。


「山田、私と付き合って」

 放課後。他に誰もいなくなった教室で、私は山田に告白していた。……自分でも意味不意な急展開だけど、彼のお陰で心が軽くなったのも事実。そんなことで宗旨替え(とはちょっと違うけど)してしまう自分のチョロさに辟易しながらも、人生初の告白をしてみたのだ。

「断る」

 けれど、山田はそれをあっさりと断った。

「何で? あんた、失恋してる女の子が好きなんでしょ?」

「それはあくまで玩具としてだからね。もっと言えば、君はもう失恋から立ち直ってる。そうじゃないと、他の男に告白などしないだろう」

「うっ……」

 それを言われると辛い。……新しい恋を見つけてしまった私は、こいつの玩具ですらいられなくなったのだ。昨日までならそれでも良かったのだけれど、今は真逆だ。

「まあ、君が沢山失恋して、僕好みの女性になれば、考えないでもないが」

「ほんとに!?」

「まあ、可能性の話だが」



  ◇



 ……半年後。


「山田、私と付き合って」

 あれから大分経って。私も随分と変わった。まず、彼女がいなくて女に飢えてる男子と適当に付き合い、処女を捨てた。更にそいつを振っては別の男と付き合い、またそいつを振って別の男と付き合い……男をとっかえひっかえして、経験人数がゼロから二桁になった。学校ではビッチと呼ばれるようになって、友達も私から離れてしまったけど、これで「失恋しまくりな女の子」の要件は満たしたはず。だからもう一度、私は山田に告白したのだ。

「断る」

 しかし、あいつの返答は前と同じだった。

「どうしてよ?」

「簡単だ。沢山失恋した女性とは、別にビッチのことじゃない。というか、君は本気で惚れた男から振られたのではなく、適当に付き合った男を適当に振ってビッチに昇格しただけだろ。それではただの阿呆だ」

「あ」

 しまった。「失恋=男と別れる」だと思って、なんか違う方向に頑張ってしまった。

「大体、君が僕に惚れている限り、君は僕好みの女性ではない。ああ、それから、失恋した女性なら手頃な相手を見つけたから、もう頑張らなくていい」

「……」

 その態度に、私は気持ちが冷めてしまった。なんでこんな奴のために、自分はこんなことをしてきたのか。自分でも驚くほどに、こいつのことが嫌いになってしまった。

「……ほぅ。たった今、とても僕好みな女性になったようだね。今なら君の気持ちに応えても―――」

「さよなら」

 そうなると、こいつの言葉もただ気持ち悪いだけだ。私はそのまま立ち去った。……でも、その言葉は、もう少しだけ前に聞きたかった。

「……ふむ。そうでなくては」


 因みに。私は結局、また山田に告白する。けれど、そのときの彼は私のことなど見ていなくて。きっと、私とこいつは一生こんな感じなのだろうと思った。

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