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第九話 バサいんぼ




これも運命か……(尺が伸びた)

―前回より・骨肉樹の侵食が進むフェリキタス島の一角―


「クソッタレ! クソッタレ! クソッタレクソッタレクソッタレクソッタレクソッタレえィ! あのクッッソ生意気な毛玉の化け物めぇ! 島民ノグソ在来生物ゴミクズかーなんかの分際でこの俺様のスーパーイケメン顔面フェイスをぶん殴りやがって!」


 前回、毛むくじゃらの巨漢に殴り飛ばされた揚句その視線に怖気付いて逃げ出したバサイは、あれやこれやと一人大声でウダウダ悪態をつきながら次なる八つ当たりの相手マトを探し回っていた。然し元々骨肉樹が島民えものを取り逃がすという事は滅多にない。前回登場した幼い姉弟は例外中の例外、いわば極めて希少で生きた個体の飼育例はおろか標本さえ少ないために絵描きが体色の把握に苦心する動物(具体例としてはスマトラウサギ)の突然変異個体のようなものである(或いはそれより珍しいかもしれない)。

 よって本来であればバサイ如きに見つけられるようなものではなく、前回の出来事は奴のほぼ一生分の運を使いきるほどの偶然だったと言ってよい。


「クソ……何でだ? 何でだ? 何でいねぇんだあ、島民ノグソがぁ!?」


 その証拠にバサイは未だあの幼い姉弟と巨漢以外の生き残りを見付けることができずにおり、元来低脳故に沸点が低い彼の怒りは瞬く間に限界点へ到達、ごく自然な流れでさらりと爆発する(そしてその結果が上記までの発言である)。やがて怒鳴り疲れたバサイは早くも蝿帝軍総本山へ戻ろうとする――のだが、そこでふと生存者らしい人影を発見。八つ当たりの相手マトにすべく狙いを定め、何故だか意味もなく呼び止めにかかる。

「おぁい! そぉこのてぇーめえっ!」

 だが生存者らしい人物は振り向くどころか立ち止まりもせず、まるでバサイの声など聞こえていないかのように寸分も乱れぬ歩調でその場を歩き去ろうとする。ともすれば未だ怒りの収まらないバサイが騒がない理由はなく、彼は自分に背を向けたまま歩き続ける無礼者へと駆け寄りながら凄まじい剣幕で怒鳴り付ける。


「てんっ、めえぇぇぇーっ! 話聞ーいてんのかグルァ!? 声掛けて貰ってんのにシカトかォうアぁっ!? この俺様が蝿帝軍最強の男ルジワン・バサイと知っての――うぉあひぃっ!?」

 突如、バサイの頭を緑色の何かが掠めた。突然の事に驚いたバサイは情けない悲鳴を上げながら大袈裟に飛び退き、腰を抜かしながら震える声で怒鳴り散らす。


「は、あ、な、ななな、っなぁ~にしやがんだこのクソボケチンカスがぁっ!? て、てめっ、俺様が声掛けてやってんのに物投げてきてんじゃねーよバカ! 常識的に考えりゃわかんだろ!? それとも何か!? てめぇには常識的に考える力ってもんがね~のかっ!?」

 思わず誰もが『お前が言うな』と突っ込みたくなるブーメランだらけの発言だが、気にしていては負けである。具体的には、本番前から売上や視聴率の事しか頭にない各種マスメディアから必要以上にチヤホヤされるという恐るべき負けフラグをしっかり立てさせられてしまった上で、それでも国家代表として他国と戦わされる我が国日本のスポーツ選手ぐらい負けである。

 ただ、それ以上に負けているのは勿論あの幼い姉弟を見付けたことに一生分の幸運を使い果たしたバサイである。それを証明するかのように彼の言葉が生存者らしき人物に聞き入れられることはなかった。

「なっ、ん、っか、言ぃ、えーよっコラ――「お前、蝿帝軍の関係者か?」

「――は?」

「いや、だからさ。お前が何か言えっつったから言ったんだろ『お前は蝿帝軍の関係者か?』ってよ。んで、実際どうなんだよ?」

「はっ、あ? あぁ……あぁ、そうだ! この俺様、ルジワン・バサイは蝿帝軍最強の男! この戦いのカギを握る蝿帝軍の切り札よぉ!」

「……ほぉーん。切り札、なぁ……」

 自信満々に言ってのけたバサイだったが、生存者らしき人物――何時までも伏せておくのも面倒なので明かしてしまうと、我等が主人公・辻原繁――は疑うかのような態度で挑発しにかかる。

「んだっ、てめぇ!? 信じてねぇなコラぁ!?」

「そりゃお前、いきなりそんな事言われたって信じられっかよ。パッと見そこまで最強っぽくもなきゃ切り札っぽくもねぇし」

「なぁぁあにいぃぃ~? 言ったな~? 言ってくれたな? 言~いやがったなあぁ~?」

「おう、言ったぞ。言ってやったぞ。言ったらどうすんだ? ええ?」

「そぉんなん決まってんだろおぉがあぁ~! てめえをぶっ殺して、俺様の強さを見せつけてやらぁ!」

 そんな事を叫ぶや否や、バサイは気でも狂ったかのような奇声を発しながら上着を脱ぎ捨てる。細い手足とは対照的に張り出した緑色の太鼓腹には、何やら図形がでかでかと描かれている。昆虫の側面と思しきその独特な図形を見た途端、繁の顔色が変わる。

「ほぅ、まさかそいつは……ヴァーミンの紋章か? 島に来る前から気配がしてたから居るだろうとは思ってたが、まさかお前だったとは……」

「そぉ~だ! 驚いたか!? 俺様はヴァーミンに選ばれた男! てめぇなんぞたぁ格が違――「まぁ、俺も保有者だからそんな驚かないんだけどね」

「はぁっ!?」

「ほれ、証拠」

 驚くバサイに、繁は最近自由に出し入れができるようになったアサシンバグの紋章を見せた。

「な、あ、てめ……そんな、馬鹿な……」

「いや、保有者なら普通気付くだろその辺。あと保有者同士は惹かれあうみてーなのも案外バカにできんし……然しスゲェなー、ノミが象徴のヴァーミンなんて聞いたことねぇ」

 繁の言うとおり、バサイの腹にあった紋章はノミの側面図であった。

「そ、そりゃあ~な! 何せ隠された0番目の最強ヴァーミン『ヴァーミンズ・ゼロ フリー』だからよお! 表に情報も出回っちゃいね~のさぁ!」

「隠された0番目の最強ヴァーミン、ねぇ……そりゃ確かに、一見雑魚臭くても切り札レベルの強さを発揮できるわけd――「それは違えな~!」

「あ?」

「俺様が蝿帝軍の切り札やってんのは、単にヴァーミン持ちだからってだけじゃねーって事だぁ!」

「……どういう事だ?」

「ああぁぁ~? どおぉゆうぅー事だってかぁぁああ~? そりゃなぁぁ、俺様がこの島に必要不可欠のっ、無敵で不死身の男だからだよぉぉお!」

みんななら大概察しつくよね?

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