第八話 トツニュー!
ツジラジ勢、遂にフェリキタス島へ!
―前回より・ノモシア某所の施設内にて―
「んじゃ、打ち合わせ通りに行くぞ。但し成功するかはわからん、危ねぇと思ったらとりあえず生き残る事だけ考えろ。生きてさえいりゃ突入は幾らでもやり直せるが、死んだらそれまでだ。分ったか?」
繁の言葉に深く頷いた一同は、突入に備え各々飛行・空中浮遊の可能な姿を取る。続いて香織が空間魔術で施設の床へフェリキタス島上空へと続く穴を人数分形成、繁はそこへバスケットボール大の溶解液球を一つずつ落としていく。
溶解液は繁に操られるまま骨肉樹の壁を凄まじい勢いで溶かしていく。負けじと骨肉樹は自らの再生能力によって溶解液に対抗しようとするが、繁の邪念を体現するが如き溶解液の勢いは衰える所を知らず、骨肉樹の防壁へ瞬く間に小型乗用車を投げ込める程の穴が穿たれる。
一同は次々と最寄りの穴へ飛び込んでいき、最後に繁と香織が飛び込むのと同時に穴は閉じられた。
―同時刻・フェリキタス島の一角にて―
「っ――はっ……はぁっ……」
「お姉ちゃん、しっかり……大丈夫、僕がついてるから……」
骨肉樹の侵食が所々に散見される薄暗い路地を何かから必死に逃げる、二つの小さな影。
その正体は、恐らく十歳にも満たないであろう幼いクマネズミ系禽獣種の姉弟――骨肉樹発生後、地下の倉庫へ隠れていたことと、彼らにそう指示した両親による捨て身の献身が功を奏し奇跡的に生き残った者達――であった(当然ながら両親は揃って骨肉樹に食い殺され死亡しているのだが、彼らはその事実にすら気付いておらず、それどころか離れ離れになる前に聞かされた『必ず戻ってくるからここに隠れていなさい』という言葉を必死で信じ続けている)。
その体格は年齢や種族を踏まえても尚平均よりはるかに華奢であり、所々に見受けられる傷創や外傷骨折は見るからに痛々しい。特により重症である姉の方は細長い尾の先端から凡そ四分の一程度が強い力でねじ切られたように失われており、絶えず血の流れ出ている傷口からは白い骨の先端部が顔を覗かせていた(またそれ故彼女は尾を動かすこともできないほど消耗しきっており、力を失った尾は荒れ果てた路面を引きずられるばかりであった)。
そんな二人が逃げている追っ手――もとい、二人へ暴行を加えた張本人――とは誰かと言えば
「ィいひひヒヒぃぃぃ~! そら逃げろ逃げろ死に損ないの島民どもぉ! 逃げね~とどぉーなっても知ぃーらねえーぜぇぇえ~!?」
この如何にも知能指数の低そうな、実に腹立たしい台詞回しを見れば察しはつこう。
蝿帝軍随一の嫌われ者たる醜悪な小男"ルジワン・バサイ"に他ならない。
前回中盤にて『パトロールへ向かう』などと吐かし堂々と会議を抜け出したこの忌まわしく下品で汚らしい有機物の塊は、パトロールと称した適当な散歩の途中偶然にも幼い姉弟が隠れていた倉庫を発見。恐怖感を増幅させるべく暴言を吐きながら倉庫の壁を殴打し乱暴に揺らし二人が自分の意志で倉庫から出て来るように仕向け、思惑通りに出て来た所で足をかけて転ばせ軽い暴行を加え、わざと手加減することで逃がしてはゆっくりと追い回し、また一定のタイミングで足止めし甚振るという事を繰り返していた。
「ひゃ~っはへへーぃ! 恐れろ逃げろ媚びろ崇めろぉ! 俺様は蝿帝軍最強の男でこの作品の新主人公、ウルトラスーパーデラックスアルティメットインフィニティエターナルフォースマキシマムゴッドイケメンのルジワン・バサイ様だぁ~!」
聞こえのいい横文字を適当に並べたような――今時小学生でも考えないようなセンス皆無の(上に、神の名共々名乗る度に含まれる単語やその並びがコロコロ変わる。つまり、自身の低脳ぶり故当人もまともに覚えられていない)肩書きを名乗りながら、バサイは力尽きそうになりながらも必死で逃げる鼠の姉弟をゆっくり嘲るように追い回す。やがて姉弟は狭いT字路に差し掛かり、その角を左へ曲がった。
「っきひひひぃ~! そぉーれで逃げたつンもりかぁ~? 甘えんだよ島民がっ! いつまでもゆーっくり歩ぃてっとと思ったら大ぉおー間違えだぜーっ!?」
バサイはただでさえ醜い顔を極限状態に陥り正気を自ら投げ捨てたタイワンザルのようにより醜く歪め、姉弟を一気に追い詰めんと全速力で走りだした。そして曲がり角に差し掛かった、その瞬間――
「ひゃははははは! さあ追い詰めたぜ島民どもっ! 大人しく俺に殺されやがれぶばっ!?」
バサイの目の前に突如として現れた漆黒の物体が彼の顔面にぶち当たった。バサイを気絶させる序でに吹き飛ばす程に凄まじいものであったが、然し彼はすぐさま起き上がり自分を殴り飛ばした者を睨み怒鳴りつけようとした。が、相対する者――全身を漆黒の長毛に覆われた、ヒグマかゴリラのような姿をした種族不明の巨漢の気迫と眼力に気圧されてしまい、月並みな捨て台詞を残し及び腰で逃げ去っていく。
「もう大丈夫だ。悪い奴は行ってしまったよ」
バサイの姿が見えなくなったのを確認した巨漢が、ゆっくりと口を開く。すると彼の背後に隠れていたらしい幼い姉弟が恐る恐る姿を現した。
「……あ、ありがとう、ございました……その……助けて、頂いて……」
「礼儀正しいなぁ。小さいのに偉いじゃないか」
恐る恐る頭を下げる弟を、毛むくじゃらの黒い巨漢は大きな手で優しく撫でてやる。
「っ、あ……はい……それじゃ僕たち、そろそろ行かなきゃ……お父さんやお母さんが待ってるし、おじさんにも迷惑かけちゃうから……」
そう言って姉を支えたまま立ち去ろうとする少年を、男は優しく呼び止めた。
「待ちなさい、君たち。酷い怪我をしているじゃないか……あいつにやられたんだろう? お姉さんの方は尻尾まで千切れてしまっているし、そのままではお父さんやお母さんに出会うより前に死んでしまうよ」
「……はい。でも、だからこそ行かなきゃ……今にも死にそうだからこそ、死ぬ前にお父さんやお母さんに会わないと……お姉ちゃんを、守らないと……」
弟の声はか細く弱弱しいものであったが、巨漢はその内に秘められた確かな覚悟と決意を目の当たりにし心打たれた。そして屈み込んで、弟と姉に優しく語りかける。
「……優しいね、君は……そしてそんな優しい君を弟に持てたお姉さんは、きっと世界一の幸せな子だ。勿論、君もね……」
両腕で姉弟を優しく、包み込むように抱きしめた巨漢は、続けて諭すように語りかける。
「でも、無理をしてはいけないよ……自分の命は一つしかないんだ、大切にしなくては……」
「……はい」
「……少し、時間をくれ……心優しく幸せな君たちを、元に戻してあげよう……」
「……え?」
その時、突如として抱きしめられた二人の身体が内側から黄金色にぼんやりと光り出す。
それは例えば、暖かな風が運ぶ春の陽気のような
「(何だろう……とっても温かくて、心地いい……)」
一言に纏めるならば"優しい光"であった。
謎の巨漢とは一体何者なのか!?
●次回予告
お願い、死なないでバサイ!
あんたが今ここで倒れたら、ウルトラスーパーデラックス(ryとの約束はどうなっちゃうの?
尺はまだ残ってる。ここを耐えれば、必ず主人公になれるんだから!
次回『バサイ死す』
蠱毒スタンバイ!