第七話 低脳BASAI
モデルからして嫌われる為だけに存在するキャラ。
―前回より・蝿帝軍総本山会議室―
「いやはや、流石は我等が蝿帝閣下! 何とも感動的なお言葉ですなぁ~! フォッフォーゥ!」
何とも不真面目極まりない態度で言葉を発したのは、緑色の醜い小鬼が如き姿のルジワン・バサイなる小男であった。その発言に、その場へ居合わせた者の殆どが苛立ち顔をしかめ、残る者は無表情のまま無視を決め込む。
「いやぁ、マジで感動的でしたぜぇ閣下ーっ! まさしくて帝王、将軍、元帥様って感じでさぁ~!」
「そうか。それはありがとう、バサイ。月並みな言葉のつもりだったのだが、君にそうやって褒めて貰えたのなら私としても――「ですが~っ! ですが~ねぇー閣下ーっ! 俺様ぁー幾らかっ、あんたに言っときてぇーんですよぉぉぉっ!」
蝿帝の言葉を大声で遮り、バサイは尚も品のない喋りでダラダラと無駄口を叩いていく。
「いぃぃぃいーですかいっ、閣下ぅ!? あんたはーついさっき『お前らが負けるわけはないと自分じゃ思ってるが、一応油断せず計画的にやれ』と、言ってましたよねぇー? そりゃーつまり、ウラを返しゃあ『万に一つでも俺らがカタル・ティゾルのゴミクズ共や、ツジラジだとかいう青二才のションベン臭ぇマセたクソガキのお遊び集団なんぞに劣る可能性がある』ってぇ~、そぉーゆぅー意味ですよんねぇーっ?」
「……確かにそうとも取れるかもしれないが、それはあくまで心構えの問題であり――「たぁぁしかにー、確かにこいつらは! 腕っ節以外は並でしょう! そりゃー俺様がゆぅんだから間違いねぇんでしょーともよぉ! それなら万に一つも負ける可能性だってあり得るのかもしれねぇー! だが、お忘れじゃあねーですよね? 蝿帝軍にゃー、そんなこいつらの"負ける可能性"を完璧ゼロにできちまう、サイッキョ~でサ~イッコォなキューキョクのアルティ~メットな切り札がいるって事をぅ! その切り札ってなぁー、要するにオ・レ・サ・マだぁ! 俺様が居る限り、蝿帝軍は誰にも負けねー無敵の軍隊でいられる! ……閣下ぅ、あんた言いましたよねぇー? そこは俺様に誓って信じさせて貰うってさぁ!?」
「確かに言ったような気も……ああ、確かに言った。そうだ、そうだとも。君が居る限り、我が蝿帝軍は無敵の軍隊だ。それは今も変わらず、信じさせて貰っているよ」
「そぉーでしょー? やっぱそぉーですよねぇー? やっぱ俺様ってば、ムテーキでサイッキョ~でサ~イッコォでキューキョクのアルティ~メット切り札ってわけなんですよね~? いやー、めーっちめーよなぁああ~♪ っはははあ~ん♪」
「バサイ、何所へ行くんだね?」
字面からして馬鹿丸出しの台詞と臭い息を散々吐き散らしたバサイは、そのまま会議室から立ち去ろうとする。それをサウスが呼び止めると、醜い小男は振り向きもせず
「見てワカんねぇーんすか~? パトロールっすよぉーん。ついでに島へ死に損ないの島民が転がってたらそいつらも抹殺してきまさぁ~」
等とのたまい、勢い余って便が飛び出そうな程の屁を放ちながら会議室を去っていってしまった。
―ルジワ・バサイが去った後の会議室―
「クソっ!」
苛立ちを爆発させた岩のような巨漢が卓へ拳を叩きつけると、ドゴンという音がして頑丈なテーブルへさながらクレーターが如し大きな窪みが生じる。続けて巨漢は低く恐ろしげな声で、腹立たしげに言葉を紡ぐ。
「何が切り札だあのボケガキが! まともな言葉も使えねぇ癖に偉そうな事吐かしゃあがってからに!」
「落ち着けトルク……蝿帝様の言い付けに背かず奴に直接暴力を振るわなかったその忍耐力は認めてやるが、だからといって器物に当たってはいかんぞ」
トルクと呼ばれた岩のような巨漢を宥めるのは、青灰色の肌をした比較的ヒトに近い容姿のソルド・ワールであった。然し彼もまた、内心はあの厚顔無恥にして無知蒙昧、低俗かつ下劣・愚劣極まりない醜悪な小男を心底忌み嫌っていたし、先程もできる事なら煮えたぎる怒りの全てを奴にぶつけてやりたいと考えていた。
「ソルドの言う通りだ。如何に腹が立ったとしても、身内に暴力を振るうのは良くないことだ。怒りに身を任せるな、思慮と寛容さを忘れてはならないと何時も言っているだろう? 彼は以前の苦しみを引き摺り迷走しているだけなのだから、どんなに腹立たしく思えても、哀れみを以て接してあげなさい。それが真にこの世界を支配すべき知性たる君らのあるべき姿なのだ」
ソルドに続き、今度は蝿帝がトルクを優しく諭す。(その名の通りハエをモチーフにしたものであろう)鎧を着込んでいる所為で顔は伺い知れなかったが、その声色や態度から醸し出される人柄は、決して人類を滅ぼさんとする大悪党のそれと思えぬ程に穏やかで愛に充ち溢れたものであった。
自身にとって絶対的な主君たる蝿帝に諭されたトルクはまるで人柄が変わったかのように落ち着き黙り込んだが、中身の抜け落ちた穴へ再びものを詰め込むように、今度は別の者がルジワン・バサイに対する不満を述べ始めた。
「確かにあいつには何かあったんでしょうし、僕らはそれを知りませんけど……それを踏まえたってあいつは酷過ぎやしませんか?」
そう語るのは、蔓植物が束になったような姿のレイズ・ワース。直情的で涙もろい性格の彼もまた、バサイを心底忌み嫌う一人であった。
「……」
「そうですぜ。しかも奴はバカで無能で性悪なだけじゃねぇ、頭までイカレてやがるんだ。幾ら蝿帝様のお申しつけたぁ言え、限度ってモンがありまさぁ」
レイズの向かいに座っていた霊体が如き女・黒潟は愛用の機関銃を抱えたまま黙り込むだけで、果たしてその態度が同意によるものなのか無関心によるものなのかは判らなかったが、一方レイズの隣に座る、ヨレヨレのローブを羽織った禿げ頭の老いた雄猿が如きシフ・ラ・ズマはレイズの発言を補足するように衝撃的な事実を口にする。
「蝿帝様も聞いておられるでしょうが、奴の酷え口癖を。確か『カタル・ティゾルを滅ぼせば俺は全宇宙の神ウルトラスーパーデラックスアルティメットインフィニティゴッドに認められ、この作品の主人公としてあのムシドクとかいうクソバカだって自由に操れる最強の存在になれるんだ。そして俺が主人公の小説を死ぬまで書かせてやるんだ』でしたっけ? 兎に角酷えもんだ。いや、もう酷えってレベルじゃねぇ。常軌を逸してやがりますぜ」
「だよねー。メタ発言で作者を貶すのはこの作品じゃごく普通のことだけど、これは流石にないでしょ……世界を滅ぼせば神に認められて主人公になれるとか意味不明だし、主人公だから作者も操れるとかそんなこと絶対にあり得ないし」
「……確かに、皆の意見も最もだと思う。私自身、彼には性格矯正が必要なのだと思っている。……だが、そのタイミングがどうにも掴めんのだ。教育とは適切であれば効果を発揮するが、匙半分の加減でも間違えば取り返しのつかないことになる……彼を救わねば、そう思う度に焦りが出てしまってな……」
「ですが蝿帝様、だからと言って放置していたらもっと取り返しのつかない事になりますよ? 多少の失敗は恐れず突き進む度量もなければ――「わかっている!」
「……」
「わかっては、いるんだ。放置していてもダメだと……ただ、どう動けばいいのかを考えるのに手間取っているんだよ。許してくれ、皆……バサイの件は、必ず私だけで決着を――『せぇ~のっ、ツジラジっ!』
蝿帝の言葉を遮るように、島の上空から大音量で男女数人の声が響き渡る。
「……遂に来たか。皆、すまないが今回の件は後回しだ。各自持ち場につき、島の防衛や総攻撃の準備を急いでくれ。では、解散!」
「「「「はいっ!」」」」
「……!」
蝿帝の号令に従い、蝿帝自信を含む会議室に残っていたほぼ全員は各々の方法で姿を消した。
次回、遂にフェリキタス島へツジラジ勢が降り立つ。