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第六話 蝿帝の奇妙な覚醒

―夢―


「私、やっぱり―――さんが好きなの……」

「ああ、僕も同じだよ……貴女を、愛してる……」


「―――さん、お帰りなさい」

「ああ、ただいま。何時も出迎えてくれて、ありがとう」


「もう、―――さん? あんまり無理をしては駄目よ?」

「いや、大丈夫だよこのくらい。クサい台詞かもしれないが……どんな傷をも、貴女を悲しませ、傷付け、苦しませ、失うことに比べたら、どうという事はないんだ……」

「……なら尚更、無理をするのはやめて。貴方の悲しみは私の悲しみ……傷も苦痛もそう。だから私を不幸にしたくないというのなら、貴方自身も幸せになって頂戴……」

「わかった、約束しよう……これからは君を幸せにすることにでなく、君と共に幸せになることに力を尽くすと……」


「ああ、何て事だ……こんな事になるなんて……」

「落ち込まないで―――さん、貴方の所為じゃないわ」

「止してくれ。これは完全に僕の責任だ……彼らを救えなかったばかりか、僕だけ生き残ってしまうなんて……僕は英雄なんかじゃない、大罪を犯した愚か者だよ……」

「いいえ、それは違うわ。貴方は愚かでもなければ、罪も犯してない……確かに彼らは死んでしまったけれど、あの恐ろしい怪物を仕留められたじゃない……」

「それは、そうだが……」

「なら、それでいいじゃない……誰かを救い、守ることができたのなら、それはとても素晴らしいことよ……」


「ああ、何て事だ……何故こんなことに……」

「……落ち込まないで、―――さん……そんな顔をしていたら……私まで、暗い気分になってしまうじゃない……」

「……っ……そう、だがっ……然し、耐えられないよ……貴女が貴女で、なくなっていくだなんて……そんなの、辛過ぎる……あんまりだっ……」

「……――は、――うわ……」

「え?」

「……それは、違うわ……確かに、私は……身も心も……私でない、別の何か、わけのわからないものに、なっているのかもしれない……いいえ……お医者様がそう言うのなら、きっとそうなのでしょう……」

「……そうだ……認めたくはないが、それは紛れも無い真実だ……貴女は貴女でない何かに――「だけどっ!」――!?」

「……だけど、私は……例え私自身が、私を私と思えなくなったとしても……それでも……例えば誰か一人でも……私が生きていたって事を、ほんのちょっと、砂漠の砂一粒ほどでも覚えてくれていたなら……そういう、私の"生きた証"があったのなら……私はいつまでも、消えたりしない……だから約束して、―――さん……私が私でなくなっても、私を忘れないで、ちゃんと幸せになる、って……でできる限りで、構わないから……」

「ああ、誓おう……何があろうと貴女を忘れはしない……夫として、また家族として、僕が貴女の"生きた証"となろう……」

―五月八日(災害発生より二日後)の早朝・フェリキタス島中枢部にある蝿帝軍総本部こと、蝿帝の寝室―


「――……また、あの夢か……」


 ああ、何時見ても嫌な夢だ。まぁ、吐き気がするほど不愉快な部分を見なくて済んだだけマシか。


 暗い寝室でひっそりと目を覚ました私は、そんな事を思いながらゆっくりと起き上がる。

 今何時だろう? 枕元にあった時計に目を遣ると、まだ朝の5時だ。個人差はあるだろうが、私の場合起きるには早すぎる時刻だ。二度寝をしようかとも思ったが、そうすると今度は寝坊しそうなので、仕方なく起きておく事にする。今日は大事な会合があるのだ。長として遅れるのは、どうにも気分が悪い。


「さて、コーヒーでもれるか……」


―五月十三日(蝿帝軍総攻撃二日前)・ノモシア某所にある某特殊部隊の保有する施設(前作最終シーズンに登場したもの)―


「此方へどうぞ。皆様がお待ちです」

「ご丁寧にどうもー」

「さて、行くか……」


 グラーフの手引きにより嘗てコリンナ・テリャードとの決戦前に利用した施設へと転送された二人は、五年ぶりに再会した特殊部隊指揮者・桐生時子に案内されるままある一室へと進む。相も変わらず全面白塗りの壁へ向かって立つと、壁の一部が突如浮き上がり自動ドアが出現。音もなく開いた扉の向こうへ足を踏み入れた二人を、これまた五年ぶりの再会となる実に懐かしい顔ぶれ(嘗て苦楽を共にした戦友達とも言う)が盛大に出迎える。


「二人とも久しぶり!」

「お二人とも、お元気でしたか?」

『まぁ貴方がたの事ですから大丈夫とは思いますが』

「それ言っちゃおしめぇだろ……何にせよ久しぶり」

「久しぶりぃ。虫垂炎だったらしいが大丈夫か?」

「久しぶりなのだー」

「お久しぶりです……辻原様、清水様」

「いやー、そんなお変わりないようで安心しましたよ」


 不老不死の為に姿の変わらないニコラがそこに居た。

 若干老けたことで黒スーツがより似合うようになった桃李と羽辰がそこに居た。

 一方小皺の一つも見当たらないリューラと、どこか肉食獣的な顔つきのバシロがそこに居た。

 未だ若干の幼さを残しながらも、五年という歳月でしっかりと成長した春樹がそこに居た。

 結婚を機に女らしさを解放したかのような、然し華美過ぎない服装の璃桜がそこに居た。

 異形の風貌や服装は変わらずとも、嘗ての弱々しさなど微塵も感じられないケラスがそこに居た。


 かつて戦線を共にした掛け替えのない仲間達が、そこに居た。


「おう、久しぶり。こっちの方は大丈夫だ、そんなに変なことにはなってねぇ」

「本当久しぶり。みんな色々変わってるかとおもったけど、そうでもなくて安心したわ」


 その場の誰もが再開の喜びを盛大に分かち合いたい、離れていた五年の事を語り合いと思っていた。

 だが今は状況が状況である、蝿帝軍の一件を片付けるのが先だという意見も全員に共通していた。故にその場が再開ムードに包まれた時間は一分にも満たず、彼らはすぐさま蝿帝軍との戦いに向けての話し合いを開始。程無くして各大陸に住まうあらゆる協力者達も(主にネット回線で)話し合いに参加。二日後に迫る蝿帝軍侵攻に際しての防衛・迎撃に関する作戦などを固めていった。


 そして同日の夕方、グラーフの指示を受けた各大陸政府によりツジラジの一時的な再結成と彼らが蝿帝軍へ戦いを挑む事が世界中のテレビやラジオ等を通じて放送された。これにより人々は蝿帝が犯行声明に際し提示しなかった『降伏も逃亡もせず、生き残る為抵抗し戦い続ける』という第四の選択肢を見出すに至るのである(また、この事は同時に蝿帝軍の耳にも入ることとなる)。


―五月十四日・午前八時三十分・蠅帝軍本部の会議室―


「諸君も知っての通り、この世界カタル・ティゾルの住民達は当初我々が提示した選択肢のどれにも応じず、あくまで地上に残りながらも抵抗する姿勢を貫く様子であるらしい。すなわち明日に控えた総攻撃に際しては各大陸の保有する戦力、並びにツジラジなる組織による抵抗が予想されるが、諸君らならばそれらを余裕綽々と乗り越え作戦を完遂してくれるだろうと、私はそう確信している。だが幾ら私が確信していようと、絶対にこうと断言できる事実などありはしない。くれぐれも油断や慢心のないよう、思慮深く計画的な行動を心掛けてくれ。『大国の軍も蝿一匹に滅ぶ』……この言葉を忘れないように。我等は蝿帝軍……大国の軍をも滅ぼす蝿の群れであると……」

 会議室の一席へと腰掛けた鎧姿の男――もとい、本件の黒幕こと蝿帝――は、同じように席へ腰掛ける(その何れもがヒトならざる異形の風貌をした)配下達へ語りかける。対する配下達は長からの信頼と愛とと敬意の篭った言葉を無言で噛み締めるように聴き入っている者が殆どだった。然しあくまで"殆ど"なので、当然例外たる者も存在する。

 例えば、そう――


「いやはや、流石は我等が蝿帝閣下! 何とも感動的なお言葉ですなぁ~! フォッフォーゥ!」


――こいつのような、例外が。

次回、この如何にもウザそうな配下の発言がやっぱり波乱を呼ぶ(らしい)!?

そして同時に始まるツジラジ勢による蝿帝軍への総攻撃!色々と本格的に動き出す(かもしれない)!

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