第五話 ちゅうすいっ!
J組担任「校長の話だァ!」
校長「今回は予告通り"幼き邪神達"こと主人公&ヒロインがやっとこさ登場、早速異世界へ旅立つ回――の、筈でしたがぁ!」
C組担任「ズワチャアッ!」
―グラーフの回想―
カタル・ティゾルを脅かす悪の存在を悟った私ことグラーフは、早速地球へ飛びかの二人――辻原繁と清水香織を探した。幸いにも二人の住所を突き止め本人の姿を確認するのにさほど時間はかからなかったので、その日の夜にも二人の夢へ入り込み交渉を開始することとした。
◇◆◇◆◇◆
そして夜。統合された夢の中へ入り込んだ私は、意識の主である二人の男女と言葉を交わす。
《久しぶりだな、辻原に清水よ。相変わらず元気そうで何よりだ》
いきなり眼前で姿を成した私に、二人は最初こそ戸惑っているようだった(五年ぶりな上に、当時とは似ても似つかないような姿で現れた為に仕方のないことだが)。然しそれでも私の事は覚えていてくれたらしく、まるで親しい友人であるかのように接してくれた。
その後、私は二人と世間話がてらにここ五年間での主立った出来事を語り合った。あれから後、親族公認の恋仲となった二人は無事に大学を卒業し真っ当な社会人として暮らしているらしかった(途中『大学院に行くつもりもない癖に単位所得と卒業研究へ没頭し過ぎていたため就職活動らしい事など一切しておらず、それぞれ卒業後も今のアルバイト先で食い渕を稼ぎながら正社員になるべく頑張る方向で話を進めており互いの両親もその方向で合意していたが、大学四年の秋頃突如としてシンバラという企業の若手中堅幹部により半ば無理矢理同社の正社員に仕立て上げられた。想定外の出来事だが待遇が悪い気とかそういうこともないのでそのまま会社に勤めている』という旨の発言を耳にした気がするが恐らく気の所為であろうと信じたい)。
その他にも、まだ結婚はしていないがそれを前提として実家を離れ同棲中であるとかというような他愛もない話を聞いたのであった。
そうして暫く立ち、そろそろ本題を切り出そうかと思っていた頃の事である。
「そんでグラーフよ……本題は何だ? お前が来たって事は、何かあったんだろ?」
「まさか貴方ともあろう男が、私達とただ世間話をする為だけに姿を現したなんて、そんな事はないわよね?」
まるで心中を見透かしているかのように、二人は口を開く。その言葉に、私は黙ってこくりと頷いた。
「物分かりが早くて助かるよ。いや、実は君らの言うとおり、近々カタル・ティゾルは何者かの陰謀によって引き起こされる大災害に見舞われるらしくてね……」
「その大災害を俺らにどうにかして欲しい、と」
「だからまたカタル・ティゾルに来て欲しい、と」
「そういう事だ。無論君らにも生活があるだろうし、無理にとは言わん。ただ、私は思うのだ……今のカタル・ティゾルは君らを必要としているのだと」
そんな私の言葉に対する二人の反応は『あっさり快諾』という予想外のものであった(正直かなり必死に説得せねばなるまいと思っていただけにかなり驚いた)。何故断らないのかと理由を聞けば、
「あっちに養って貰った恩があるし、何か面白そうだしなぁ。断る理由が見当たらねぇ。最近溜まってた分、この機会に暴れんのもいいだろ」
「あと、勤め先の上役が『有給休暇を余らせてないで早く使え。お前らの所為でブラック扱いされたらどうしてくれるんだ』って五月蝿いし」
との事であった。正直『恩がある』以外の理由が不純なようにも感じたが、この際贅沢は言っていられないし、何よりこいつらはそこらへよくいるような"正義の味方"とは似て非なる存在だ。此方側に引き込めただけ幸運と思うのが筋だろう。
その後も二人との交渉は円滑に進み、二日後にもカタル・ティゾルへ向かう運びとなったのだが、ここで予想だにしなかった出来事が起こってしまう。
辻原が病に倒れてしまったのである。
事の起こりは交渉完了から数時間と経たない翌朝午前4時頃。寝床の辻原が突如腹を押さえて苦しみだしたのを近くで寝ていた(曰く『普段は別々の床で寝ている』そうだ)清水が気付き、会話もままならない程の苦しみようから消防へ通報。駆け付けた救急車により辻原は清水に付き添われるまま勤め先であるシンバラ傘下の病院へ搬送された。医師による診断の結果は虫垂炎――かつては盲腸炎となどと呼ばれていた病――であり、緊急手術が執り行われることとなった。幸いにも合併症の類は見受けられず手術は無事成功。少しの間入院することにはなったが大事には至らず、私を含めた彼と関わりのある人物は皆総じて胸を撫で下ろした(ただ、これにより二人の連れ込みには大幅な遅れが生じてしまったのだが)。
―病室にて―
「いやー、危なかった。マジで危なかった。本当危なかった。冗談抜きに危なかった。虫垂炎だと知らされた時は一瞬ついでとばかりに腹膜炎併発して敗血症で死ぬんじゃねーかとか心配になったが……」
「病室で縁起悪い事言わないの。助かったんだからいいじゃない、先生だってあと数日もすれば退院できるって言ってたんだし」
珍しく弱気になって寝床で項垂れる繁を、香織は優しく気丈に元気付ける。この光景に限ればどこにでもいるような普通のカップルにも見えるのだろうが、こいつらの中身を知ってしまってはそうもいかないのが惜しいところである。
「そりゃそうだがなぁ……グラーフとの件にも支障来すしよぅ」
「んもぅ、気弱になるなんて繁らしくないわよ? 大丈夫、何かあったら私がどうにかするし」「そうか? ならいいが……」
「そうそう、だから安心して」
「おう、なら安心しとくわ……。んで、だ。唐突に話変わるが、解析の方はどんな感じだ?」
繁の言う"解析"とはシンバラの正社員となった香織が協力している研究事業の事で、その内容を一言で言い表すなら『(彼女がカタル・ティゾルより持ち帰った)魔術及び魔力について科学的に解析する』というものである(だからと言ってシンバラが香織を単なる魔術研究の為だけに正社員として採用したわけではない。繁もまた然り)。
「あぁ、解析? うん、順調らしいわよ。思ったより簡単なものだったらしくて、上手くやれば地球上の物質からも魔力を抽出したり、根っからの地球人を後天的な魔術師にすることも不可能じゃないとか何とか」
「そりゃ何よりだ」
「あと序でに"列王の輪"についても研究が進んでて、近々何か作れそうなんだって」
「ほぉ、アレを研究して発明ねぇ。駐車場要らずの車とか出来そうだな」
「ねー。勤めてる身で言うのもアレだけど、近頃は加速度的にインチキじみてきてるわよ、あそこの技術」
「竹釣竿も大昔の発明に思えて来る急成長っぷりだよな……」
その後繁は順調に回復していき、予定よりも早くに退院を済ませることとなる。その後迅速に準備を済ませた二人は、早速グラーフの手引きでカタル・ティゾルへと向かった。
校長「主人公が虫垂炎で入院したため、異世界入りは延期となりましたっ!」
(ズテーン)
生徒二人「「こんなのが伏線!?」」