第三十四話 これは最終決戦ですか? A6.いいえ、一方的な虐殺です
所謂「フルボッコタイム」というやつ
―前回より・フェリキタス島上空にて―
バサイがサウスの自爆によって砕け散っている(即ち彼の『陸上に居る者全ての動きを止める』という能力の効果が切れている)間に、繁は念の為にと自らの傍らへ香織を呼び寄せ、魔術で肉体の疲労を回復させていた。その『念の為』の判断と行動が功を奏したか、或いはその時序でだからと香織を辟邪神虫へ乗り込ませサポートを任せたのが良かったか、若しくはそのどちらもか――ともあれ様々な要因が重なった結果、繁(及び同乗者の香織)はバサイを圧倒的な優位性の元で一方的に叩きのめすことができていた。
『ぐぼぇおぅひぎぃっ! く、くく、くそ、がああっ!』
『おっと』
叩きのめされて尚しぶとく立ち上がったバサイは、貧相な体に対して明らかに不釣り合いな大きさの両腕を千切れんばかりの勢いで振り回し辟邪神虫に向かっていく。しかし大振りなそれらの攻撃は一切当たらず、逆に距離を取られた揚句ヘイシロウガンナーの弾雨をもろに受けてしまう。何とか防御しようとしたが、香織の魔術で障害物透過の効果を得た弾丸を前にしては生半可な防御など意味を成さないのは言うまでもない。
結果全ての弾丸をもろに受けたバサイは余計に怒り狂い、距離を取っている繁に対して遠距離攻撃で対抗しようと右腕を掲げ叫ぶ。
『くそが……! くそが! くそがくそがくそがくそがあああああ! てめえら他人に頼らなきゃ生きていけねー低脳ゴミ屑の癖に粋がってんじゃねーぞ! 塵んなっとけや、スーパーグレートストロングロケットミサイルロケットパァァァァンンチ! ――って、あり?』
叫び声と同時に、軽い破裂音を伴って右腕が射出される――が、それは"射出された"というより"少しばかり勢いよくすっぽ抜けた"という表現の方が適切とさえ思える程のものであり、結果として右腕はバサイのすぐ側に落下。そのまま大爆発を起こし、落下の衝撃で粉々に崩れてしまった。嘗て右腕があった個所に残されたのは、腕を内部から支えていた細長く簡素で脆弱そうな骨らしきパーツ――肘部分の関節こそあれ武装はおろか指さえない貧相な代物――だけであった。
『な、ば、馬あああ鹿なああああ!?』
予想が大いに外れたバサイは、哀れに慌てふためく事しかできなかった――ということもなく、すぐさま次の遠距離攻撃用武器である大砲を東部や上半身や下半身の色々とアレな部位から繰り出し辟邪神虫目掛けて乱射していく。
『うるぁぁぁぁあああ! 死ねやクソ虫があああああ!』
然し右腕が一気に軽くなり左右のバランスが崩れた状態で放つ感情任せの砲撃が当たる訳もなく、結果として酷使され過ぎた三つの大砲は根元から跡形もなく崩れ落ちてしまった。
『なぁあああ!? お、俺のアルティメットスーパーストロングマキシマムハイパートライアルフルバスターキャノンがぁぁぁあああ!?』
大砲を失ったバサイは、今度こそ哀れに慌てふためく以外の選択肢を失ってしまったようだった。ともすれば最早彼は辟邪神虫にとって只の標的でしか無くなる。待ち受けるのは、香織という強力なサポートを受けた繁による容赦のない攻撃のみである。
『さぁ、私刑執行と洒落込みましょうか……』
『ここまでしぶとく生き残った事、存分に後悔させてやる……』
辟邪神虫は手始めに二本の腕で空間を裂き、異空間より二振りの剣――ジョウゲンセイバーとオキクブレード――を素早く抜き身構える。
『先ずはこいつらだ……』
直立姿勢で浮遊したままバサイに急接近した辟邪神虫(を操縦する繁)は(香織の魔術により)物体を適度に透過する性質を付与された二振りの剣を掲げ、それらを巧みに、かつ素早く振り回しては動けず無抵抗なままの的を存分に切り刻んでいく。
『きひはははははっ! 斬れろ斬れろ斬れろぉ! ツイン・カース・バタフライ!』
『ふぎゃぎぃぃぃぃ!?』
装甲の内部のみを細切れになるまで切り刻まれたバサイは、口から血液や胃液、微細な肉片等が入り混じった吐瀉物を吐き散らしながら苦しみ悶えるも、より強大になった不老不死の力により破壊された体組織はすぐさま再生する。
『く、はがぁ……ま、まだ死んでねぇぞ、クソが――』
『そうか。なら次は……』
『少し距離を取ってみたら? 防げるとは言えあいつがゲロ吐くの至近距離で見るのとか実際キツいし』
『確かにそうだな。んじゃ――』
素早く後退しつつ再び空間を裂いた辟邪神虫はジョウゲンセイバーとオキクブレードを異空間に戻し、それらに代わる新たな武器を取り出した。
『――こいつらで行くか』
構えた武器はゼントクランチャーとヘイシロウガンナー。則ち、銃器による集中砲火の始まりである。
『穿たれろ、復讐遂げしスパイラル・レイジ!』
『ぃぎ!? あ!? ぅぎょぁぁぁぁああああ!』
ヘイシロウガンナーから放たれた無数の弾丸は香織の魔術によって高速回転するドリルのようなものになっており、それらはバサイの装甲へ無数の穴を穿ちながら肉体を破壊していく。
『次はこいつだ……砕けな、無念晴らすスティルメテオ・レイン!』
『ひあ、ごひっ! ぐぎぁぁぁあああ!』
続いて放たれたのは、これまた香織の魔術による強化を受けたゼントクランチャーの榴弾であった。バサイは迫り来るそれらを未だどうにか原形を留めていた左腕と、申し訳程度の突起物しか残されていない右腕で防ごうとする。だがそれらは榴弾の数発をも防げぬままに跡形もなく崩れ去り、装甲までも完全に破壊されてしまった。
『ふぎ、ぁがあ……し、死ぬうぅぅぅ……』
その苦痛は凄まじく、バサイは思わず自身の不死性も忘れ死を覚悟した程だった。然し実際、未だ彼の不死性はその身体を再び元通りに修復する。否、その力は最早修復ばかりに留まらず、彼の身体が無機物のパーツを失った事を察知し新たなる戦闘形態へと作り替えんとしているようであった。 それは則ち、かつて一度死んだ彼に図らずも齎された進化の一端或いは真髄とも言えるものであった。そしてその真価は、度重なる猛攻により消えかけていたバサイの戦意を再び呼び覚ました。
『……そうだ……俺様こそが、主人公――『なわけねーだろ』――だぐぼぉ!?』
だが、今回ばかりはどうにも相手が悪すぎた。新たなる戦闘形態を獲得せんと決意したバサイの顔面へと、辟邪神虫の武器が一つであるサイミョウバンカーが叩き込まれたのである。バサイは頭を丸ごと吹き飛ばされ、そのショックから折角呼び覚まされた戦意も半減してしまった。
『……あんた如き、辟邪神虫の前ではゴミクズ同然』
『生きてる事を後悔させてやらぁ……』
『ぎうっ!?』
早くも九割がた再生しているバサイを軽く放り投げた辟邪神虫は、サイミョウバンカーを持つ腕の一本に力を篭め――
『蜂毒点殺っ!』
胴体を二つに分断せんばかりの強烈な刺突として解き放つ。当然ながらバサイは腹に大穴を穿たれながら吹き飛ばされ、更にサイミョウバンカーに仕組まれた猛毒が彼を襲う。
『ぐがああああああ!』
バサイの戦意は完全に失われ、最早彼の心は『死にたい』『消えて無くなりたい』という思いに支配されかかっていた。
そして絶望の果てに、彼はある事を思い付く。
次回、バサイ起死回生の策とは?