第三十三話 不健全巨人バサイダラー
バックに美容室がついてなかったり二人乗りじゃなかったり粒子がなかったりするから性能はお察し。
―前回より・某所に避難していたある老人の証言―
かくしてツジラ・バグテイルにより蝿帝は倒され、またその直後に現れたルジワン・バサイとかいう気色悪い腐った毒饅頭のような奴も改心した蝿帝ことサウス・ケントによる捨て身の献身によって無事撃滅され――といった具合に、私達は一連の事件が無事閉幕を迎えたことに安堵していたのであります。
されど皆が一様に感じていたその安堵感は、所詮偽りのものに過ぎなかったのです。と言いますのも、かのルジワン・バサイとかいうカビの生えた農薬入り大福餅は、事も有ろうにサウス・ケント渾身の自爆を受けて尚、しぶとく生き延びていたのであります。
事の起こりは、我々がツジラ・バグテイルからの報告を受けて一分と経たない頃のことです。避難所の中で皆が喜びに沸く中、当時私と一緒に避難していた孫娘がフェリキタス島の上空を指差しながら『御祖父ちゃん、あれなあに?』と問いかけてきたのであります。まだ幼く集中力も長続きしない年頃な上、好奇心旺盛な性格ですから、どうせ鳥か有翼竜種、若しくは航空機でも見かけたのだろうと思っておりました。然し実際、私が目にしたのは鳥でも有翼竜種でも航空機でもなく、そもそもこの世に存在するものとは思えぬ奇々怪々なる怪しげな物体だったのでした。
そしてそれは目立つ外見をしていたこともありすぐさま多くの人々の目に留まり、世界中は再び大騒ぎとなったのでございます。
―前回より・フェリキタス島上空にて―
老人の言う『この世に存在するものとは思えぬ奇々怪々なる怪しげな物体』というのが、サウスの自爆をものともせずに生き伸び、無数の肉片から肉体を再構築していったルジワン・バサイであることは言うまでもない。『将帥』のデメリットにより以前のそれを遙かに超える強化を受けた赤い結晶は、サウスの自爆により粉砕され破片と化しても尚その性質を維持しており、上空にて集結し瞬時に自己を修復。そのままそれを中枢として肉体を再構築しにかかる。
肉体の再構築を完了させたバサイの姿は、サウスの自爆で吹き飛ばされる前の(上記の証言で老人が『気色悪い腐った毒饅頭』『カビの生えた農薬入り大福餅』と形容した程に醜悪で奇怪な)ものとはまるで異なるものであった。しかも今度は一応ヒトの形を成せている。
だが、だからと言ってその姿が主人公向きであるかと言えばそんな事はあまりなかった(それでも一応万が一の事を考え『決して主人公になれない』と断言はしないが)。
前回からの反省点を踏まえ、柔軟な有機物である自身の肉体をフェリキタス島の瓦礫から抽出した金属や樹脂、ゴムやコンクリート等の素材から作り出した(如何にも人肌のような色合いをした)褐色の装甲やそれに付随する機械的なパーツで隙間なく覆ったその姿は如何にも無機的な細身のヒト型で、例えるならば『本編開始時点に於けるルジワン・バサイの両腕だけがアンバランスなまでに巨大化し、腕以外の部位が余計萎んだようなような姿』をしていた(その他にも特徴的な部位は幾つかあるのだが、それらについては追って説明する)。
そんな奇妙な姿になったバサイは、更地となったフェリキタス島へ(本人としては全力で格好つけたつもりだが周囲から見れば滑稽以外の何物でもないポージングで)降り立ち、丁度乳首と臍の位置にある黒い円形のスピーカーから、相変わらずの鬱陶しい喋り声を響かせ、再び自らの能力で陸地の者達を拘束しにかかる。
『ぎゃわーっはははははははぁ! よう住民ども! 聞こえてるかぁ!? なんかよくわからん爆発で一旦は吹き飛ばされちまったが、然し俺はこの通り新たなボディを得て帰ってきたぜぇっ! さぁ祝え! 喜べ! 称えて騒げ! この作品の真なる主人公の再臨だげぶぅっ!?』
刹那、好き勝手に喚き散らすバサイの背へ砲弾らしきものが叩き込まれる。
『ぐ、が、なっんだおいぃ!?』
砲撃を受けて派手によろめいたバサイは激しく怒り狂い、辺りをキョロキョロ見回しながら滅茶苦茶に怒鳴り散らす。
『さっきのじゃ飽き足らず、またこの俺様を邪魔する気か!? どこのどいつだ、えぇ!? 出て来いよゴルあばびびびびびびっ!?』
そこへ再び、今度は顔面に機関銃の弾丸が幾つも降り注ぎ、よりバサイを激昂させる。
それからの暫くの間『発言を遮るように銃撃を撃ち込まれてはその度にバサイが怒り狂い怒鳴り散らす』という流れが続き、その滑稽な有様を目の当たりにしていた陸上の人々は動きを封じられながらも腹の底からバサイの醜態を嘲笑ったという。
―以下、当時についてある若者の証言―
あの時の出来事は今思い出しただけでも思わず笑い出しちゃうぐらい可笑しかったですよ。だって、あれってもうそのまんまコントじゃないですか。バサイの姿だってそのものがギャグなのに、その上コントなんて始まったらもう笑うしかありませんよ。
でも、そんなのは序の口に過ぎなかったんです。何せそうやってバサイに砲撃を繰り返していたのは、あのツジラが乗り回す昆虫型ロボットだったんですから。
ツジラの操縦する昆虫型ロボットの活躍は本当に凄かったですね。サウスと戦っていた時とはまた違う、あいつ本来の持ち味が出ていたように思います。
具体的に言うなら、容赦が無かったんです。
然し語呂悪いなぁ。