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第三十二話 燐光虫者ヨウテイン





サウスの秘策『殉道』とは一体……

―前回より・海上にて―


「ああ、大丈夫だとも。何せ私には『フライ』の擁する六大能力が最後の一つ『殉道』があるのだからな」

「殉道、だと?」

「そうだ。己の信念や矜持が故に、是が非でも退けぬ、戦わねばならぬという時、眼前に立ちはだかる敵を完膚なきまでに打ち滅ぼす為の力を掴み取ることのできる能力――それが『殉道』だ。その力はほぼ完全と言うに相応しい。ただ、それ故か保有者がこの能力を行使できるのは、生涯にたったの一度きりなのが難点だがな」

「生涯に、一度きり……だと? おいサウス、そりゃまさか……」

 サウスの言葉から何かを察したらしい繁の口ぶりは、彼らしくなく不安げなものであった。

「そう、そのまさかだ。『殉道』の語義は『道に殉ずる』ということ。即ちその原理とは、保有者自身に残された生命の全てを犠牲にし、ほんのひと時ばかり絶大な力を得ることに他ならない」

「……やっぱりか。まあ、流れからして予想はしていたが……どうしても、それでなきゃ駄目か?」

「何?」

「……あれの止めには、どうしても殉道それ使わなきゃ駄目なのかって聞いてんだよ」

「ああ。お前には悪いが、やはり子の犯した過ちの責任は親が、部下の犯した罪の責任は上司が取らねばならんからな。それが世の理というものだ」

「……勘当とは言わねぇし、解雇クビとも言わねぇが……独立させてやるべきじゃねぇのかよ。お前は隠居なり定年退職なりしてよ。あとはあれに任せときゃそれで済むんじゃねぇのかよ。」

「そうとはいかん。あれは独立させるにはまだ幼すぎるし、私には隠居も定年もない。あるとすればそれは、どちらか或いは両方が死ぬ時だ」

「……なら、せめて殉道それ使うって選択肢だけでも消せねぇのかよ。将帥とか、大義とか、仁愛とか、妖気とか……他にもあれを殺す術はあるだろ?」

「ないな。他のどれでも駄目だ。将帥はデメリットであれに塩を送りかねんし、そうでなくとも他の誰かに不幸や災難が及ぶかもしれない。大義は私がお前に敗れ、また私を敵視していた者達の憎悪があれに流れてしまった以上意味を成さず、仁愛もそうだがこの状況ではまるで役に立たん。妖気にしても出力不足でほぼ無意味に終わるだろう」

「……」

 サウスの言葉に、繁はどうすることもできず項垂れ黙り込むしかなかった。

「すまない。お前が私をどうにかして救おうとしてくれているという、その気持ちだけは痛いほど伝わったのだがな……どうにも私には、これ以上の策が思いつかなかったんだ。愚かに見えたなら罵って構わん。哀れに感じたなら嘲って構わん。許せとも言わん。だが、如何に罵声や嘲笑を受け許される事が無かろうと、私は向かわねばならんのだ」

「……」

「さらばだ、辻原繁。我が生涯最後の強敵よ。何れまた、地獄で会おう……」

 静かに言い残し、サウスは勢いよく飛び去っていった。


―飛翔―


『つまりは! このルジワン・バサイ様こそ――』


 バサイは『将帥』のデメリットによって強化される過程で身に付けた能力により、あらゆる陸地の上に存在する者達の動きを封じ、己の愚劣さを全世界へひけらかすかのように大声で喚き散らしていた(しかもその内容は基本的に同じようなものの繰り返しであったため、聞かされているバサイ以外の者達にとっては苦痛以外の何物でもなかった。繁とサウスがバサイによって拘束されなかったのは、ひとえに海上へ留まっていたからというのが大きい)。


「(幸いにも奴は自分語りに夢中な余り私の突進に気付いてなどいないらしい。ならばやる事は一つ……このまま奴の体内に突入し、私の体内に余った全エネルギーを注ぎ込んだ自爆で止めを刺すっ!)」


 嘗て巨大化する時に見せた『右手を宙空に突き上げ左手を顔の隣に置く』という構えのまま、サウスは背の翅を羽撃はばたかせ猛スピードでバサイ目掛けて突撃する。やがてその身体はどこからか溢れ出る光のエネルギーに覆われていき、遂にヒト型の蝿は光り輝く巨大な刃へと姿を変える。


『んぁ? 何だあ? 何か眩しいのが――』


 そして両者の距離が互いの目鼻の先程にまで縮まった頃、漸くバサイはサウスの接近に気付く。

 だが、時既に遅し。光の刃と化したサウスは緑色の岩石が如き質感をした(ようでいて、その実案外柔らかい)バサイの外皮をいともたやすく突き破り内部へ突入、中枢目掛けて突き進んでいく。


『んが? 何だ? 爪楊枝でも刺さったか? ――ま、いいや。ともかく俺は――』

「(……この辺りか。よし――)」


 すぐさま中枢に辿り着いたサウスは、そこに留まり自らに残されたエネルギーの全てを溜め込み、限界まで圧縮した後一気に解き放った――則ち、自爆である。


『んがっ』

「(――さらばだ)」

『ぐ、えぁ?』

「(――そして、すまない)」

『っぅぐ、あ、ぎ、な゛ん゛ら゛、こ゛れ゛っ――』


 自爆によって生じたエネルギーは、饅頭型をしたバサイの身体を凄まじい勢いで膨張させていく。そして、遂に――


『ぐゎれ、ぼがら、びゃっ!?』


 遂にその身体は破裂し、無数の肉片となり木っ端微塵に吹き飛んだ。



―同時刻・海上―


「……あぁ、サウス……サウス……何故、何故お前がっ……サウスぅぅぅぅぅ!」


 悲しみに暮れた繁の叫びとそれに続く嗚咽が響き渡ったのは、サウスの自爆によってバサイが吹き飛んだ直後のことであったという。

 繁はすぐに落ち着きを取り戻し、バサイの拘束から解放された人々へ(恋人・清水香織を始めとする仲間達を通じて)事の真相を報告。一連の事件はこれにて終結したものと思われ、世界中が安堵した。

 だが程なくして、人々はそれが単なる思い込みであると思い知らされることとなる。

サウスにゃ悪いがなぁ、そんな簡単に終わってたまるかっつうのよ!

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