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第三十話 救済蝿帝





繁の提案とは?

―前回より・海上にて―


「サウス・ケント、お前よ……もう少し長く生きてみねぇか?」


 余りにも繁らしからぬその発言に、全世界が唖然としたのは言うまでもない。


「……延命? どういうことだ?」

「だからさぁ、ここで俺に『敵』として化け物か何かみてぇにすぐ殺されるんじゃなく『犯罪者』として法の下に裁かれてみねぇかって、そういう事さ」

「……それに何の意味がある? 例えそうしたところでたかが数日か数週寿命が延びる程度のこと、結局死ぬのに変わりはあるまい」

「まぁ確かにそうなんだけどさ。お前にだって事情があったんだし、過去にはお前ら蝿帝軍がやった以上の数を殺しながらも事情やら能力やらで死罪を免れ、実質的な終身刑って事で社会に認められて生きることを許された奴だっているんだ。お前がそうなる可能性も皆無ゼロじゃねぇだろ」

「……目的を達成した暁には自決しようとしていた男が、そんな生を望むとでも思うのか?」

「ああ、望むだろうよ。――お前は兎も角、死んだお前の妻は多分確実にな……」

「っ!?」

 サウスは思わず息を呑んだ。それほど大した事を言われたわけではない筈なのに、何故だか言葉が出なかったのである。

「そもそもお前だって言ってたよな? 『自分は亡き妻がこの世に生きた証として在らねばならない』とか何とか。そんでもって、妻の記憶を失わないようにとデメリットで自分の記憶を消しかねない『将帥』の使用を控えてもいた筈だ。それと同時に『生きた証として死ぬ』とも言ってたが……本当は心のどっかじゃ『証として生きていたい。自決なんてしたくない』とも思ってたんじゃねぇのか?」

 サウスが言い返せないのをいいことに、繁は更に問い詰める。

「それが無いにしても、前の二つは的中だろ? そもそもセーヴェルとかいうお前の妻だってさ、自分の死を悟って夫にそんな事言ったわけだし、早死にしちまった自分の分まで出来る限り長生きして欲しいと思ってんじゃねぇの――なんて、我ながら塵にも劣るバカ丸出しの言い分だよなぁ。死者は死者、生者は生者と割り切って考えてる奴が普通なのにな」

 俯くサウスを見据えながら、繁は軽いノリで一方的に喋り倒す。

「けどなサウス。俺はお前と真正面からり合ってて、色々気付き始めた気がするんだよ。まだ完全に気付けたわけじゃねぇし、理解なんてまだまだずっと先なんだろうが、その他諸々の要因もあってかそこそこ理解しきれてるのもあってな。例えば、そう――お前みてぇなのは大概さっき言ったような『割り切った考え方』をしたがらず、『死者の意思』ってのを尊重したがるもんだ、とかな。どんだけ落魄おちぶれても生きた証として生きるっつー誓いを守り続けてるわけだし、それは確実だろと思うわけだ。だからよ、サウス。ここは一つ、死んだ妻の意思を尊重して『延命の可能性』を信じてみねぇか? とは言っても、ここまでの長ったらしい発言は全部俺の私的な意見なもんで、結果的にお前がその可能性を信じられるかどうかは世界次第だけどな」

 諭すような繁の発言に、サウスは俯いたまま黙り込んでしまった。その後暫く考え込んだ後、細身の老人はゆっくり面を上げながら言葉を紡ぐ。

「――それは……無理だ」

「……何故だ? 落魄れた事に対する妻への罪悪感か?」

「そうだ……私は余りにも多くの人々を傷付け、命を奪い、血を流し……罪を犯し過ぎてしまった……。そんな私に……そんな、悪魔のような重罪人の私に……ヒトとしての救いを求める権利などありはせんだろう……」

「そういう言葉を素で言えるんなら、その権利は十分にあると思うがな」

「……確かに、そう言われるとそうかもしれんが、理由はまだあってな……」

「何?」

「……あくまで予感なのだが……この戦い、まだ終わっていない気がするんだ。無論私に戦意や体力は残っていないが……」

「いないが、何だ?」

「……不確かながら、邪悪で汚らわしい未知の何かを感じる……」

「何だと? そいつは一体――」

『あああぁぁぁぁぁえぃいおおぉぉぉぉおおうっ!』

 刹那、繁の言葉を遮るように、酷く耳障りで不愉快な奇声が全世界へと響き渡る。

『ぎゃあへへへへへへへへぇっ! おっ・れぇ・さぁ・まぁぁぁーっ――あ、降ぉぉぉ~臨んん~っ!』


 それは発した者の"救い様がないまでの愚かさ"がありありと滲み出てくるような台詞であり、また繁とサウスはこの忌まわしい声に聞き覚えがあった。


「(こ、この声は……まさかっ!?)」

「(まさか、"奴"か!? だが奴は既に俺が始末した筈……)」

「(確かに彼は死んだ……いや、待てよ? もしや、そういう・・・・・か……?)」

「(ったく、何でよりによって生きてんだよ……)」

「(全くわけがわからんぞ……何故君がこの流れで生きているんだ……)」

「「((ルジワン・バサイ……))」」


『よおおぉぉ~! カタル・ティゾルクソダメ住民クソどもよ! この作品の真なる主人公になるべくして生まれた史上最強のイイ男、ルジワン・バサイ様がやって来てやったぜぇぇぇっ!』

どういうことだよ……

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