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第二十九話 シゲルが決す!






遂に決着!

―前回より・海上にて―


『ふおるああぁぁぁぁぁぁあああっ!』

『じぃえおおぉぉぉぉぉぉおおおっ!』


 戦いは尚も壮絶に続いていた。

 四角柱型の白く細長い槍と光の刃と化した手刀とがぶつかり合い、その反動を受けた二者――辟邪神虫を操縦する辻原繁と、幻想体と自身の能力の併用により巨大化したサウス――の体が大きくよろめく。然し揃って空中に浮遊した状態で戦っている二人にとって崩れた体勢を立て直す程度の事は呼吸をするにも等しい事であり、すぐさまそれぞれの武器をぶつけ合う。両者一歩たりとも譲らぬままに戦いは続いていき、気付けばどういう訳だか全世界が二人の戦いに熱狂している始末であった。


 その時の戦いの様子の様子について当時戦いを目の当たりにした者達は後に『余りにも見事な戦いだったので軽く見入ってしまった』『戦っている片方がツジラだという事を度々忘れかけてしまった』『寧ろ片方がツジラであるという事実を認めたくなかった』等と証言している。


 四角柱型の槍を構えた異形の虫(即ち辟邪神虫もとい繁)対光る双剣を振るう鎧姿の巨人(即ちサウス)による戦いはその後も激しさを増していきつつあったが、その戦況へある一時を境に幾つかの変化が生じ始める。


『んごあがっ!?』

『ぐぬおぅっ!?』


 数ある"変化"の中でも特に顕著であったのは"命中率の急激な上昇"であろう。というのも、それまで回避よけけられ防御ふせがれてばかりだった互いの攻撃が、あるタイミングから格段に命中あたり易くなったのである。こう書けばポジティブな変化であるように思えるかもしれないが、言い換えればそれは"互いの負傷率が上昇した"という事でもあった。

 その原因が"戦闘が長引き過ぎた事による疲労"であった事は言うまでもない。能力の一旦であるとは言え巨大化し生身で戦っていたサウスは勿論、辟邪神虫との親和性を高め実質的に一体化して戦っていた繁にしても心身共々かなり疲弊しきっていた。ともすれば、至極当たり前の事だが二人の動作にはそこそこの乱れが生じ、攻撃の命中率や回避率も当たり前のように下がる。命中率が(あくまでも回避率に比べれば、ではあるが)それ程下がっていないのは、両者にとって(自分の負傷率も上がってしまったとは言え、それでも)不幸中の幸いと言え(なくもなかっ)た。


『(クソっ……ロボの操縦ってなぁ、こんなに疲れんのかよ……完っ全に見誤ってたぜ……)』

『(ぬぅ……やはり「将帥」に基づく以上、維持するだけでも体力を持って行かれるか……)』


 疲労と負傷により、最早二人は満身創痍の一歩手前という所まで追い詰められていた。ここまで追い詰められてしまったのならば、普通は一旦引き下がって態勢を立て直そうと誰もが思うであろう。然し二人は尚も引き下がらず、自滅さえ覚悟の上で互いの命を奪わんとそれぞれの武器を振るう。どちらかと言えば直情的な武闘派であるサウスならばまだしも、基本的に策を弄し逃げ回る戦術を好む姑息な繁がこのような状況で逃げる素振りを見せないなどという事は極めて異例であり、その様子には彼の従姉妹兼幼馴染恋人である清水香織を始めとするツジラジ製作陣の面々ですら驚きを隠せないでいた。


『がぅらぁあああああ!』

『おぉぉぉぉおおうっ!』


 それは一見愚かしく、嘲りを受けても仕方のないような光景とも言えた。だが互いに鎬を削る二者を嘲る者はなく、まして口出しや手出しをしようとする者など当然居はしなかった。

 そして激闘の末、決着の時は遂に訪れる。


『うぉお、らぅあっ!』

『ごうはっ!?』


 よろめく辟邪神虫がどうにか放った槍での一突きが、巨大化したサウスの鎧を砕き腹を刺し貫く。その一撃はギリギリ致命傷にこそならなかったが、それでも瀕死の重傷を負わせ『将帥』の能力による巨大化さえも強制解除させるまでに追い詰めいた。


「……っく、ぁ……最早、これまで……か……」


 強制的に元の姿へ戻されたサウスは、悲しげな表情のまま海面へと落下していく。最早助かるまい。自分の野望もここまでか――等と全てを諦め位置エネルギーに身を任せようとしていた、その時である。

 それまで海面目掛けて急速に落下していたサウスの体が、柔らかく弾力のある何かによってふわりと受け止められた。


「……――?」


 いきなりの出来事にサウスは困惑し、ふと自分を受け止めた何かに触ってみる。


「(これは……障壁魔術? だが、一体何故――)」

『よう、サウス・ケント。何とか無事なようで安心したぜ』

「つっ、辻原? 何故ここに?」

 声のした方へサウスが顔を向けると、案の定そこにはとてつもなく巨大な虫の化け物――もとい、繁の操縦する辟邪神虫――の恐ろしげな顔があった。更にどうにか起き上がって見てみれば、先程から彼を受け止め支えているのは、辟邪神虫の装備が一つ・ジョロウバリアであるらしかった。

『何故ここにってお前、そりゃさっきまで闘ってたんだからすぐ近くに寄ってくるぐれぇ訳ねぇさ』

「それは、確かにそうだが……然し、何の真似だ? この私が――敵である私が今にも死にそうだという所で、殺さないばかりか助けるなど……」

『確かに妙な真似だが、少し気が変わってなぁ。あんたはここで死なすにゃ惜しいタマだと思ったのさ』

「殺すには、惜しい……だと?」

『そうだとも。戦ってる内にふと思ったんだよ。お前はこんな所で殺すにゃ惜しいってな。血迷った事を吐かしてるのは自覚の上だがな……』

 そう言って辟邪神虫の操縦室から出て来た繁は、巨大な虫の眉間へ腰掛け『そこでだ』と口を開いた。


「サウス・ケント、お前よ……もう少し長く生きてみねぇか?」

次回、サウスへの思わぬ提案とは何なのか!?

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