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第二十八話 昨日のベルゼブブ





何かイマイチだなぁ……

―前回より・海上―


『(パイルバンカー、か。レーザーでない癖に変な形の刀だのわけのわからん魔術障壁発生装置だの実弾ぐらいしか撃てん銃だの、微妙に機動兵器ロボットらしくない気がする武器ばかり揃えているのかと思っていたが、ああいう如何にも機動兵器ロボットらしい武器も持ち合わせていないわけではないのか……)』

 実際ロボットものというジャンルにそれほど詳しいわけでもないサウスの独白モノローグは、やはり専門家に言わせれば突っ込み所満載なものであった。

『(だが、あれが如何に強力な武器であろうと私の持つ「将帥」の能力の前では無意味……傷付いた肉体を修復する程度、「慈悲」の能力がなくともどうということはない。……流石にそれ以上のことをすると代償が高くつきそうだ――っがああああああああ!?』

 突如、独白モノローグを遮るようにサウスの全身へと凄まじい激痛が走る。例えるならば全身を無数の剣山で荒々しく無造作に引っ掻き回されるようなその痛みに、サウスは喉が涸れて血を吹きそうな程に苦しみ悶えつつも(当然その痛みを『将帥』で和らげながら)確かな戦意を維持し続ける。

『っく……ぬあ……ぁあ……』

『ほう、「将帥」ってのはマジで万能なようだな。よもやサイミョウバンカーの蜂毒地獄ほうどくじごくを無力化するたぁ……』

『蜂毒地獄……やはりこの激痛の原因はそれか』

『御名答。こいつは杭を通じて刺さった物体へ一種の毒液らしきものを流し込むっつー機能があってな。そいつを受けた生物は全身の痛覚が極限まで鋭敏になり過ぎちまう所為で、軽く何かに触れただけでも前進へとんでもねぇ激痛が走るようになっちまうんだよ』

『……それでか。だがこの程度の痛みなど「将帥」で軽減してしまえばどうということはない……』

『軽減? 軽減だと? 完全に消し去らねぇのか?』

『ああ。そんな真似をするつもりはない……理論上不可能のない「将帥」の能力とて完全無欠ではないからな。以前説明したように、強大な力である反面他の五つと違い行使にあたっては何らかのデメリットを伴うのだ。それをも能力によって踏み倒そうとするなら、更に大きなデメリットを背負う事になる。しかも何が起こるかは予測不可能……これまでは「将帥」に頼り過ぎていたが、そろそろ使用を控えるべきとも思っていた所だ。この姿を維持するだけでも相当のデメリットを伴っているだろうからな……』

『へぇ、そりゃまたおかしな話だな。世界を滅ぼし自殺する予定の奴が死を恐れ生に縋るたぁ』

『勘違いするな。私は生に縋ってなどいない。ただ彼女の「生きた証」で在れればそれでいい』

『生きた証、だと?』

『そうだ。生きた証であることとは、彼女の記憶を維持し続けるということ。だが将帥の予測できぬデメリットはもしかすれば私の脳を蝕み、彼女の記憶をも消し去るかもしれない。ならばいっそ、これ以上の能力行使は控えるべきかと思ってな』

『そういう事か。……なら、俺もその覚悟に応えさせて貰うぜ』

『何?』

 言うが早いか、繁は虚空を裂き手にした武器を次々と異空間へ仕舞い込んでいく。そして再び虚空を裂いては腕を突っ込み、異空間から細長く白い四角柱を取り出した。全体へ切れ込みにも見える無数の節を持つそれらは白い正六面体を無数に繋ぎ合せたようでもあり、太さこそ辟邪神虫の腕より若干細かったが反面長さは辟邪神虫の全長を少しばかり上回っていた。 細長く白い四角柱を持った繁は、それを槍のように持ち身構える。

『かかって来いよ、サウス・ケント。こっから先は小細工抜きだ。一対一サシで存分にり合おうじゃねぇか』

『ふん、正々堂々一騎打ちか。どういう風の吹き回しだ?』

『どうもこうも、さっき言った通りだよ。お前のどうしようもねぇ程にブレねぇ生き様が心に響いてなぁ。ちぃとばかし付き合ってみたくなったんだよ』

『そうか。ならばかかって来るがいい……』


 かくして繁とサウス、二人の戦いは真の最終局面へと突入する。


 よりキレを増し華麗になったサウスの手足による斬撃と、繁の手にした白く細長い四角柱――俄かには信じ難い事実であろうが、何とこれでも"オウセイスピアー"という槍の一種である――とが、軽く火花でも散らしそうな勢いで激しくぶつかり合う。二人の戦いは取り立てて派手でもなければましてそれ程華麗で美しくもなかったが、然し観衆はその有様にすっかり魅了されてしまっていた。


―同時刻―


「――……――……」


 戦いの余波を受けたこともあり完全な更地へとなり果てた、フェリキタス島の一角。

 瓦礫で埋め尽くされた中に死体が点在するばかりで、死体に群がるハエほどの生命体も存在しない筈のその場所に、少なくとも有機物の身体に生命を内包している事は確かであろう何者かが潜んでいた。その存在を他の何物にも知られることのなかったそれは、瓦礫の間を音も立てず静かに蠢いていた。


「(……もうすぐだ……もうすぐ時代が変わる……)」

こいつはもしや……

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