第二十七話 ムシキュンソード(そんな武器はない)
存在するはずがない(断言)。
―前回より・海上―
『(な、なんだあれは……? 銃器なのか? だとしたら、一体どういう……)』
辟邪神虫が新たに手にした火器類は、一見鈍器にしか見えないようなメカ二つ――それぞれ若干大振り(辟邪神虫の腕より一回り太めで肘まで届かないぐらいの長さ)なコオイムシ型とそれより小振り(辟邪神虫の腕とほぼ同じ太さで前腕の半分ほどの長さ)なマルツノゼミ型――の背部及び頭部が展開し、それらの内部から銃砲がせり出したような、何とも奇妙な代物であった。せり出す銃砲はそれぞれコオイムシ型のものが箱のような形の多連装ミサイル砲で、一方のマルツノゼミ型の方は小ぶりな回転式多砲身機関銃であった。
その異様な外見に暫し度肝を抜かれていたサウスであったが、すぐさま気を取り直す。
『……お前が幾ら変わった武装を展開してきた所で、私の優位が揺らぐことはない……』
『ほう、言ってくれるじゃねぇか。ならガタガタに揺るがしてやるよ、お前の勝利って奴を』
『ほざけ……』
サウスは再び手を光のエネルギーで包み刃へと変えて繁へ斬り掛かる。対する繁はそんなサウスを止めんとコオイムシ型の多連装ミサイル砲で対抗する。
然しハエの時間分解能力(動体視力に相当。我々ヒトの凡そ10倍)を持つサウスにとっては幾ら複雑であれその軌道を読み解くことなど容易く、迫り来るミサイルはいともたやすく切り裂かれ、更に将帥の能力で爆発までも封じられてしまった。
『ふん……この程度の攻撃で止まる私だと思うか』
ミサイルを切り裂いた上に将帥の能力でそれらの爆発すら封じたサウスはそのままの勢いで繁に斬りかかろうとする――が、ここで思わぬ出来事が彼を襲う。切り裂かれた筈のミサイルからおどろおどろしい赤紫色の煙が噴き出したかと思うと、彼の顔面を覆い尽くし視界を封じてしまったのである。
『ぬぉ!? な、何だこれは!? 一体どうなっている!?』
サウスは慌てて視界を封じた煙を振り払おうとするが、本来気中分散粒子系である筈の煙はどうやっても彼の顔から離れない。
『っぐ、くそ! は、離れん! 一体どういうことだ!?』
軽いパニックに陥ったサウスは、繁への攻撃などそっちのけで尚も煙を振り掃おうとする。
『残念だったなぁ、二段構えだよ。どんな攻撃をしようとお前がそれを腕一本で無力化すんのはわかりきってっからな、少し細工をさせて貰った』
『さ、細工だとぉ!?』
『そうだ。さっきお前にぶっ放したミサイル砲――「ゼントクランチャー」ってんだが、こいつの弾は少々特殊でな。命令一つでミサイルから発煙弾に早変わりするっつー優れものなんだよ。まぁまだ試験段階だが』
『なん、だとぉ!?』
『しかもミサイルを発煙弾に作り替えるカラクリには魔術が絡んでっからよ。さっきお前がやったように多少細切れにされようが何ら問題などねぇわけだ』
『ぐぬぅ……つまりあれか。この煙が纏わりついたまま離れないのも、私の能力が不安定なままでろくに起動できないのも……』
『そう。その煙がある種の魔術によるもんで、「お前の視界を封じ続けろ」っつー俺の命令を効果切れまで馬鹿正直に遂行し続けてくれてるお陰だ。まぁ後者の能力起動云々については知らんが、そういう作用もあったってことか? こりゃ新しい発見だ、研究の余地がありそうだなぁ』
『くっ、姑息な真似を……』
『何とでも言え。どのみちフライの能力を新しく起動できねぇお前がその煙を振り払うことなどできはしねぇ』
煙を掃わんと躍起になるサウスを嘲るように、繁はマルツノゼミ型の小ぶりな回転式多砲身機関銃――正式名称『ヘイシロウガンナー』――の弾丸を容赦なく撃ち込んでいく。
『ぐおあああああっ!?』
弾丸は無防備なサウスの胴体を容赦なく打ち抜いていくが、その範囲が思いのほか狭かったこともありどうにか両腕に展開された刃での防御に成功。その姿勢と動作を維持したまま凄まじい速度で繁に詰め寄っていく。それを気取った繁はヘイシロウガンナーでの攻撃を取り止め、防御の必要が無くなり接近の勢いを増したサウスをジョウゲンセイバーとオキクブレードで迎撃せんとする。然し二人の両手に構えられた刃は互いにぶつかり合う結果となり、鍔迫り合いに発展。
『くおっ!』
『ぬぁう!』
このままでは確実に押し負けると悟った繁はサウスの視界が封じられている隙にゼントクランチャーを至近距離から胴体へ撃ち彼を怯ませると、立て続けに後ろの右腕を素早く異空間へと突っ込み"何か"を掴み取るや否や、そのまま引き抜くのと同時によろめくサウスの腹へ全力の"蹴り"を叩き込む(脚のような位置にあるとは言え腕での攻撃なので蹴りと定義していいのかとかそういう野暮な突っ込みは控えていただきたい)。
『ぐ、ごおあっ……!』
『吹っ飛べ、ジジイ!』
蹴りはサウスの腹に鋭く突き刺さり、一拍遅れて爆発するように彼の巨体を大きく吹き飛ばした。
『ぐおあぁあああっ!?』
吹き飛ばされたサウスの腹は臍の上辺りで抉られており(勿論将帥の能力で再生させはしたがそれでも)かなりの深手になったのは言うまでもない。一方辟邪神虫の後ろ右腕には機械的な蜂の腹部を思わせる杭らしきものの生えた多角柱が握られていた。
『「サイミョウバンカー」……まぁ要するに、少し変わったスズメバチ風パイルバンカーだな』
次回、戦いは更に激化!
ところで素朴な疑問なんだけどさ、天女って食ったら美味いのかな?