第十九話 蝿帝異能
遂に明らかになる"フライ"の……一端!(ショボい)
―前回中盤より・蝿帝軍本部―
「断たれいッ!」
「うおぉっ!?」
腕はおろか脚さえ到底届かないであろう位置から放たれた蝿帝の手刀数発を、繁は何故か明らかに大袈裟な動作で回避する。直後、彼の背後数メートルの位置にあった柱(大理石製)の床上1.2メートル辺りが不可視の刃物によって数度切り付けられ、不規則な尖った塊となって崩れ落ちる。
「(ほう……今の一瞬で私の手刀を真空波による飛び道具と見抜いたばかりか、隙だらけの動作とは言え掠りもせず回避までしおったか。中々侮れんな……)」
「(あのジジイ……一気に距離詰めてきたかと思やぁ、こっちの動作を何から何まで見透かしたような動きを……)」
「(武力のみではいかんか。やはりヴァーミン保有者にはヴァーミン保有者、我がフライの能力を存分に活用し立ち向かうべきだろうな……ともすれば次は、"アレ"でいいか……)」
「(俺が弱いにしても武器持ちステゴロ相手に避けて弾くのがやっとってどういうことだよ? しかもそうかと思って距離取ろうもんなら手刀で真空波飛ばして来やがるし……ともかくどうにかしねぇと――ん?)」
その時、ふと何やら無数の気配を感じ取った繁は視線を床へと移す。だがそこにあったのは単にカタカタと揺れ動く建材の破片のみであった。
「(一瞬新手の化け物が顔出してんのかとも思っちまったが何もねぇ……気の所為か。『死期の近づいた病人は勘が冴える』なんて話はよく聞くが、危機的状況に立たされた悪党は普段にもましてビビりになるのかね……さて、そんじゃさっきからよくわからんポーズ取ったまま動かん蝿ジジイを――ぐぉあっ!?」
繁が蝿帝の方へ向き直った刹那、彼の横腹へ弾丸のような何かが飛び込んでは突き刺さる。齎された傷は中々洒落にならない深さであり、繁は思わずよろめき倒れ込み――
「(ん? この音は……)」
ふと虫の羽音らしきものを耳にする。唐突に聞こえだしたその音が気になった彼は、穴を穿たれ出血する横腹を押さえながらどうにか体を持ち上げ、ふと
「なっ……何だ、こりゃあ……!?」
必死に起き上がろうとした繁は、何とも奇妙でどこか不気味な光景を目の当たりにする。
「 何が……どうなってやがる!?」
穴を穿たれ出血する横腹を押さえながらどうにか身体を持ちあげた繁が目の当たりにした光景――それは、部屋中至る所に突如として現れては不気味な羽音を立てて滞空する、巨大なハエの群れであった。その大きさは体長だけでヒトの親指ほどもあり、太さはその二倍近くあるだろうか。ともかく異様に巨大なそれらは然し、何故だか無機的な雰囲気を醸し出していた。
「――古の時代……さる南海に十字の形をした大地があった……」
繁が異様な雰囲気に気押され押し黙ったまま動けないのをいいことに、蝿帝は何の脈絡もなく昔話のようなものを語り出す。
「その台地は五つの国に分かれており……それぞれの国に一人の王が居た……東に美しき王……西に温厚なる王……南に聡き王……北に一途なる王……大陸の中央に荒々しき力ある王……五国は五王により統治され……国が滅び王が死ぬ時……その魂は鮮やかに輝く蝿に継がれ、亡者をあるべき世へと導く……それこそ――「『それこそ即ち、我が異能。蝿帝の名の由来也』ってか?」
「……何故わかった?」
「流れから何となく察しただけだ。まさか図星か?」
「不本意ながらな……というか、何となくでそこまで言い当てるか普通?」
「生憎俺は普通じゃないんでな。んで、さっきの昔話みてーなのが確かなら……フライの能力は五つあるって事になるのか?」
「如何にも。十字大陸の東西南北中央を治めし五大王――その魂を継ぐ蠅だからな」
「そりゃスゲェ。今ここを飛び回ってるこのハエどもや、俺の腹に風穴開けた何かもその五つの内の一つかよ」
「そうだ。お前の腹へ突っ込んだのもそのハエの一匹だが、これぞ我がフライの擁する能力が一つ――『妖気』の能力。あらゆる無生物を私に忠実な活動体へと作り変えて使役できる」
「へぇ、活動体か……ドクガやダニ、カなんかは持ってるとは聞いてたが」
「ハエも持っていたのだよ……しかも、より高性能な代物をなぁ!」
蝿帝の大袈裟な動作を合図に、部屋中へ滞空していた活動体のハエ達が繁目掛けて一斉に襲い掛かる。
「ぬぉあ!? ま、マジかよっ!?」
逃げ道を失った(というより探すのを諦めた)繁は、濃いエアゾル状の溶解液を放ちながら右足を軸にクルクルと回転し、迫り来る活動体の群れを滅ぼしていく。然しながらこの場には活動体の素材となるものが無数に存在している。それは戦闘の余波によって崩れた建材の破片が主だが、蝿帝は未だ壁や柱としての形を保っているままの建材さえも素材として活動体を生み出し放ってくる。その余りの勢いに、繁はあることを思い付く。
「(こりゃあ、もしかしたら活動体の作り過ぎで建物が崩れて生き埋めになるんじゃねぇか?)」
昭和か平成初期のギャグアニメにすら採用されなさそうなくだらない発想である。その事に誰より早く気付いたのは他でもない繁自信であり『自分も巻き添え喰らいかねないしその程度で蝿帝が死ぬとも思えない』という結論に至り、そのまま戦闘を続けていく。
次回、苦戦を強いられる繁の前に"奴"が来る!