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第十八話 侵攻の蝿帝:後編





当初はハナから中編の予定だったけど後編でいいやって。

―前回より・フェリキタス島中枢にある蝿帝軍本部―


「すまんなぁ、青年。その世界同時一斉侵攻なんだが、実はもう開始命令を下してしまったんだよ。だから今になって取り消すことはできんのだ」


 蝿帝の驚くべき言葉に、一同は思わず絶句した。


「そっかぁ……そりゃ確かにダメだなぁ。いやー、残念だぜマジで。いや冗談抜きに」

 このように軽い調子ノリの繁でさえ、内心はどうしようかと焦っている始末であった。

「うむ。残念だが諦めてもらうほかないな。……とは言っても、正式な準備を経ぬまま突撃命令を出したのもあってか、本格的な侵攻開始までまだそこそこ時間がかかってしまっているのだがな。どの道侵攻が始まる事には変わりないのでな」

「そうなのかー。じゃあ仕方ねぇなー。……因みに聞くけど、そこそこってどんくらい?」

「そうさなぁ。凡そ、25分……早くても10分はかかると思うが――「ぃよぉうっし、総員解散! 俺以外各大陸に戻って政府と知り合いにこの事報告、以後は防衛部隊の支援に回ってくれぃ!」

 繁が大声で叫ぶのと同時に仲間達は香織の転移魔術で次々と島の外へ飛ばされていく。そして最後に残った香織が問い掛ける。

「それで、繁はどうするの?」

「ここに残って蝿帝を止めるさ」

「一人で大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ。それに何か、こいつとは一騎打ちしなきゃならん気がするんだ」

「そう。なら私は島外むこう行くけどさ……死なないでよ?」

「こんな所で誰が死ぬかよ。つうか、お前こそ死ぬなよ?」

「勿論そのつもりよ」

 そう言い残し、香織もまた転移魔術で姿を消した。

「……悪いな爺さん。待たせちまったろ?」

「いや、構わんさ。幾ら悪党とは言え、愛し合う者同士の対話を妨げるなどという無粋な真似はしたくないのでな」

「悪党だって自覚あんなら兵隊下げて投降してくれよ」

「それは無理な話だ。私はもう後に退けず、敵に媚びることも過去を省みることもできないのだからな。私を止めようと思うのなら、全力で殺しに来ることだ」

 身構える蝿帝の身体から、生命由来のものと思しきオーラのようなものが流れ出しては彼の背後へと何らかの図形を成していく。30秒ほどかけて成されたその図形は、我々にも馴染みの深いある昆虫を思わせた。

「へぇ……何となく予想はしてたが、"蝿帝"って名前とその"鎧"はそういう意味合いのもんだったのか」

「そうだ……"ヴァーミンズ・アジーン フライ"――ハエの象徴を持ち、独善の罪を司る第一のヴァーミンだ」

「保有者とだけ言やぁいいものを、そんな丁寧に名乗ってくれるとはおどれぇた。……ならこっちも名乗るとしようか」

 ゆったりと身構えた繁は然し、毅然とした口調で言い放つ。

「俺は辻原。辻原繁。"ヴァーミンズ・ヴォーセミ アサシンバグ"――サシガメの象徴を持ち、嗜虐の罪を司る第八のヴァーミンを保有する男だ」


 かくしてサシガメ蝿帝ハエ――錐鞭毛虫トリパノソーマを媒介せし二つの吸血害虫による戦いは幕を開ける。


―蝿帝の命令より15分後・世界各地の沿岸部―


 蝿帝の提示した最短時刻より五分が過ぎた頃、カタル・ティゾルの各大陸を取り囲む海から蝿帝軍に属する様々な化け物ども(兵士然とした姿とサイズをした量産型とでも言うべき個体数種の群れ)が姿を現した。蝿帝軍による一斉侵攻(或いは総攻撃)の開幕である。とどまる所を知らない蝿帝軍の兵達は、目に映る全てを破壊しながら進軍を続けていく。


 ともすれば地上は凄まじい混乱に陥ってしまうのではとも思われたが、事前にしっかりと対策を練っていた各地の軍や防衛隊により、民間人への被害も出ぬまま蝿帝兵ばかりを順調に駆逐していく。

 一方m戦う内に自分達が劣勢であることに危機感を覚えた蝿帝軍の兵を指揮する者(蝿帝及び名前持ちの蝿帝配下に非ず。あくまで侵攻を続ける化け物どもと同列の存在)は、更なる戦力の増強を目的として各地へ"兵士"より強力な"兵器"クラスの化け物を送り込む。

 この兵器クラスに属する化け物というのがまたどうにも曲者であった。何せそのほぼ全てが(勿論大小の差こそあれ)それまでの蝿帝兵より遥かに巨大であり、その大きさに見合った絶大な戦闘能力や、対処に困る様々な特殊能力を持ち合わせていたのである。更に指揮官クラスの化け物は事前に偵察兵を通じて非力な民間人たちが匿われている場所の幾つか(各大陸で最低一つか二つ)を突き止めており、兵器クラスにそこを重点的に攻めるよう指示を下していた。結果、防衛に当たっていた軍や防衛隊の戦力は苦戦を強いられる結果となり、各地は想定外の混乱に陥るものと思われた。

 然し、カタル・ティゾルを守ろうと立ち上がった軍や防衛隊に属する兵士・軍人といった者達だけではない。それまで(可能な限り軍以外に被害を出すまいという政府の判断により)避難を強いられていた戦闘能力の高い軍属でない者達もまた、侵攻を続ける蝿帝軍の化け物どもに立ち向かったのである。彼らは時に軍関係者を助け、また助けられ、或いは助け合い、迫り来る化け物を蹴散らしては、非力な者達を安全な場所へと避難させる事に力を注いでいく。

 その中には勿論、今回の序盤で繁の指示によりフェリキタス島を脱出してきたツジラジ製作陣の面々の姿もあった。


 愛する男(則ち繁)と再び生きて会う事を誓い合った香織は主に魔術での補助と人命救助に尽力していた。一方武器である『列王の輪』に宿る十四の精霊達はあるじに言われるままそれぞれに見合った高い素質を持つ者達へ"貸与"され、世界各地で化け物どもを相手に死闘を演じている。


 破殻化したニコラは蛾型弾幕で化け物どもを蹴散らし(或いはミノガの糸でその動きを封じ)その背に逃げ遅れた者や負傷者を乗せ、その脚に物資を掴みそれらをあるべき場所へ運び届ける。また時には敢えて破殻化を解除もし、手持ち武器である『藪医者リリー』に秘められた六神器の一つ(とは名ばかりな、形を整えただけの単なるエネルギー暴発)である『傍迷惑神ヲー』を解き放ち蝿帝軍の雑兵を尽く吹き飛ばすこともあった。


 陣営随一のスピードを誇る小樽兄妹は、その機敏な動作と双子ならではの息の合った戦略的な連携で故郷ラビーレマの大地を荒らす化け物を翻弄しつつ痛め付けていく。如何なる物体をも等しく切り裂きその再生や修復をある程度封じる赤い鎌・ソレイユと、ほぼ無限に伸びる鎖を意のままに操り対象のエネルギーを吸い取って持ち主に還元する青い分銅・リュヌ――連結し鎖鎌となるこれら二つの武器を小樽兄妹のそれぞれが使いこなした時、ただでさえ不利な化け物どもの勝機はほぼ完全に消え失せるのである。


 イスキュロンへと向かったリューラは、軍人時代かつての部下に無理を言って(とは言うもののその元部下本人は嫌味の一つも言わないどころか『喜んで。何があっても責任は自分が負います』などという具合に快諾してくれた)大型の軍用武装砂上船や航空機を借り受け乗り回して化け物を撹乱。その隙に実質リューラから分離したに等しい位置からバシロが様々な姿に変化し化け物を屠るという戦術で戦いを有利に進めていた。


 他の面々と同じく故郷アクサノへ戻った春樹は薄桃色の異形へ姿を変えた状態で『星海を這う砦』の隠された最終形態『ヨグソトホト』を発動し、それと融合。忽ち多数の機械的な触手から成る四肢を持つメタリックな青緑色にピンクのラインが入った身長15m程の女人型ロボへと姿を変え、巨大なイソギンチャクが如き化け物数匹を『触手は自分の専売特許だ』と言わんばかりの勢いで次々と引き裂いていく。


 麗紅リーホンへ舞い戻った璃桜は夫と幼い娘が安全に避難できていた事を確認、治癒・活性化・防御・物質強化等を専門とする魔術師である夫と共に人命救助や避難所の防衛に尽力する(無論、余裕があれば夫婦揃って化け物の討伐にも出向いたという)。


 エレモスのヴラスタリにあるクロコス・サイエンス敷地内に戻ったケラスは負傷しながらも命は無事であったハルツと合流。避難所にて調理師としての腕を存分に振るいつつ、電脳銀龍鍵の効果で生み出した動物型戦闘ロボ(操縦は丸藤が担当)を化け物どもへ仕向ける等して活躍中である。

次回、フライの能力とは!?

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