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第十七話 侵攻の蝿帝:前編





残念だったなぁ、ダイジェストだよ。

―前回までの主な出来事―


 清水香織対シフ・ラ・ズマという、両勢力を代表する魔術師同士の対決は『列王の輪』を用いる香織に軍配が上がった(そもそも魔術師の戦いに軍配などという神聖なものが用いられていいのかどうかなどと、そういう事を気にしてはいけない。多分用いようものなら角界や協会、某齢十万五十幾つだかの音楽家悪魔辺りが黙っていないだろうが)。

 とは言え一方的なままの戦いワンサイドゲームであったかと言うとそのようなことなど決してなく、シフは持ち前の経験と技術で確かに香織を苦戦させた事は(彼の名誉のためにも)しっかりと言及しておかねばなるまい。


 一方、嘗ての野球場にて繰り広げられた小樽桃李対レイズ・ヤース――即ち両勢力にてそれぞれ最速を誇る二人の対決はと言えば、コックローチの幻想体に備わる"あらゆる節足動物の持ちうる様々な形質を自身のものとする"という能力を巧みに扱った桃李が華麗に勝利を飾ることとなった。

 身体能力こそ桃李を圧倒しうるレベルに到達していたレイズだったのだが、それに依存しきるあまり思考や策略を疎かにするのもまた彼の常であった。ともすれば、桃李の勝利はある意味必然だったと言えなくもないだろう。


 物静かな腕利きの狙撃種・黒潟ヘイ・シィは、骨肉樹に捕獲させたフェリキタス島の島民達を改造し作り上げた眷属を小都市の至る所へ配置し、それら全てとあらゆる感覚を共有し広大な区画を実質的に掌握する作戦と、霊体をも有機生命体同然に負傷・出血させる特別仕様の銃弾"殺霊弾"によって小樽羽辰を大いに苦戦させた。

 然し羽辰はそれらの障害に一切屈せず、離れ離れになった妹と再び共に歩むべく生き残ろうとの覚悟と持ち前の狡猾さでそれらをどうにか?い潜り、黒潟の軍団を次々と撃破していった。そして遂に黒潟が(嘗て)ある地下駐車場(だった広大な地下空間)の宿直室(だった部屋)に潜伏していることを突き止めた羽辰は、そこで機関銃を担いだ黒潟と交戦。常時霊体である為に一切の攻撃を受け付けない彼女からの一方的な弾雨に苦しめられるも、壁に突き刺さった殺霊弾を抜き取り投げ返す事で逆に負傷させる事に成功。蜘蛛ともカニムシともつかない小型の節足動物然とした彼女の本体を、住処兼武器である機関銃諸共完膚無きまでに破壊し勝利を手にしたのであった。


 ニオ・セイに目を付けられたケラス・モノトニンは、戦闘経験の少なさもあってか身体をバラバラに切り分けた状態で自由自在に飛び回るこの狂った死にたがり(より厳密には"殺されたがり")にかなりの苦戦を強いられたが、臣下・丸藤の的確なアドバイスにより小振りな外見に反して強大無比な力を誇る電脳銀龍鍵を手足のように使いこなし、最強形態の一つである三つ首の翼竜へと姿を変え見事ニオ・セイを撃破してのけた。ただ、後にケラスは『生き残った側を勝者とするなら私が勝者かもしれない。然し私達の刺したトドメの一撃を彼は「理想としていたものの何奥何兆倍も美味い絶品」と評していた為、この戦いはあちらの勝ち逃げか、或いは引き分けと見るのが正しいようにも思える』と語っている。


 残る面々――辻原繁、ニコラ・フォックス、リューラ・フォスコドル、バシロ・ジゴール、芽浦春樹、建逆璃桜の六名は、その後も蝿帝軍の擁する台詞のない化け物共を幾らか蹴散らしつつ島を進み続けた。


 そして図らずも合流したそれぞれの面々は、これまた図らずも突き止めてしまった蝿帝軍の本拠地へ向かって走り出すのである。


―二十数分後・フェリキタス島中枢にある蝿帝軍本部―


「……来たか」


 行く手を阻む壁や扉を問答無用で破壊しながら自室まで勝手に上がり込んできた侵入者どもに対し、蝿帝は奥の椅子に腰かけたまま(蝿を模した半有機的なパワードスーツ風の鎧を着込んでいるため表情そのものはうかがい知れないが、口ぶりから察するに)どこか心待ちにしていたかのように口を開く。


「おう、来させて貰ったぜ」

「アポ無しで勝手に上がり込むのは常識的な一般人としてどうかと思ったんだけど」

「こっちも色々急がなきゃなんねぇんでな」

「その辺りは大目に見て欲しいなって」

 その時、仲間達の誰もが繁と香織の発言に声を荒げて突っ込みたいと思ったが、場面が場面なのもあり声に出す者は居なかった。

「いや、構わんさ。元々客を招き入れるような構造ではないからね。寧ろよくここまでたどり着いたものだ。……茶や菓子でも出そうか? そんな大したものはないが……」

「いや、大丈夫だ」

「そうか? 年寄りの好意には甘えておくものだぞ?」

「心遣いは有り難えが、どっちも間に合ってるんでな」

「そうか……然しそれは残念だなぁ。折角の来客だというのに、茶菓の一つも出せんとは」

 しかしこの会話、世界を滅ぼそうとしている軍隊の長とそれに刃向う集団のリーダーのものとは思えないほのぼのっぷりである。

「だがもしあんたが『年寄りの好意』に甘えさせてくれるってんなら、一つ要望を聞き入れて欲しくはあるんだよなぁ」

「何だね? 内容次第だが、よっぽど無茶なものでもなければ喜んで聞き入れるぞ?」

「そうかい? じゃあ頼むよ爺さん。死ねとかそんな事は言わねーからさ、明日の世界同時一斉侵攻、中止にしてさ、大人しく降伏してくんねぇかい? 手荒な真似はしねーからさ、頼むよ。な?」

 そんな繁の要望に対する蝿帝の答えは『それは無理だ』という予想通りのものであり、繁もまた『だよなぁー』と冗談めかした返答をする。然し――


「すまんなぁ、青年。その世界同時一斉侵攻なんだが、実はもう開始命令を下してしまったんだよ。だから今になって取り消すことはできんのだ」


 それに続く蝿帝の言葉は、予想の斜め45度上を行く恐ろしいものであった。

そんな馬鹿なあああああ!?

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