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第十六話 IYASHI-イヤシ-




鼠系禽獣種の幼い姉弟のその後と、二人を助けた毛むくじゃらの巨漢の正体とは……

―第八話より・フェリキタス島の一角―


「――……!」


 ルジワン・バサイにより重傷を負っていた所を謎の巨漢に助けられた鼠系禽獣種の幼い少年が目覚めたのは、ちょうど正反対の方角でトルク・スターズが自滅したのと同じタイミングでの事だった。「ここは、一体……」

 薄暗くも暖かい部屋で目覚めた少年は、これまでの出来事を思い出しながら徐々に現状を把握していく。

「……確か、お姉ちゃんと一緒にお父さんとお母さんを探してて……そしたら緑色をした変な奴に襲われて……そうだ、その時あの毛むくじゃらのおじさんに助けて貰ったんだ……」

 そこでふと、少年はある事に気付く。

「身体が、痛くない……?」

 そう。自身の記憶が確かなら、彼は姉共々バサイに痛め付けられた為に傷だらけの重体であった筈である。だが今の彼には傷どころか瘡蓋かさぶたや微かな傷痕の一つも見られない。それどころか、衣類の破損さえ最初からなかったかのように修復されている。

「一体何があったんだ……」

 少年は不可解な出来事に困惑し頭を抱え込み、ふと何より忘れてはならない重大な事柄について思い出す。

「――! そうだ、お姉ちゃん! お姉ちゃん、どこ!?」

 慌てて辺りを見回すと、少年の寝ていたすぐ近くに倒れ伏す姉の姿があった。やはり少年同様身体や衣類に傷の類はなく、ちぎれてしまった尻尾さえ何事も無かったかのように再生されている。

「お、お姉ちゃん!? お姉ちゃん!」

 少年は横たわる姉へ必死に呼び掛けるが、姉はピクリとも動かない。

「そんな、まさか……」

 姉はもう死んでいるのでは――そんな考えが少年の脳裏へ過ぎる。そんなの嫌だ。ただでさえ両親が生死不明なのに、その上目の前で気付かぬ内に姉が死んでいたなんて――そんなこと認めたくない。嘘であって欲しい。

 そう強く思いながらも、少年は絶望に負けそうになり動かぬ姉の傍らでふさぎ込んでしまう――と、その時である。


「ふさぎ込まなくていい。君のお姉さんは無事だ。ただ、今は眠っているだけでね」


 ふと少年が振り返ると、そこにはかの黒い毛むくじゃらの巨漢が佇んでいた。


「眠っ、てる……?」

「そうだ。だから何も悲しむことはないんだよ。ただ、君より傷が深かったから体力が中々回復しないんだよ」

「そうですか……何から何まで有り難うございます……」

 礼を言った少年は、続けて目覚めてから頭に浮かんだ疑問について巨漢へ語いかける。

「そうか。それはすまないことをしたね……じゃあ話してあげよう。君が疑問に感じていることの真相を……」


 例によって巨漢の発言内容を箇条書きでまとめてみる。

・巨漢は名を"ウィア・ウィリディス"という。

・今姉弟がいるのはウィリディスの隠れ家である。・蝿帝は彼にとって因縁の相手であり、対立関係にあるが力は此方が圧倒的に劣る。

・姉弟の全身にあった傷という傷が、衣類の破損に至るまで完全に消え失せていたのは、ウィリディスが自らの力を用い二人を癒した為である。


「そうだったんですか……本当、何から何まで有り難うございます……」

「構わないさ。寧ろお礼を言いたいのは私の方さ。生きていてくれて、本当に有り難う」

「……ぁ、はぃ……どう、致しまして……」

 ウィリディスのまさかの言葉にこっ恥ずかしくなった少年は思わず顔を伏せてしまう。

「……さて、それで君達のこれからだが」

「あ、はい。どうすればいいんでしょう?」

「正直私としてはご両親探しに精を出して貰いたいんだが、これがそうも行かないようなんだ」

「どういうことですか?」

「うん。実はこの島では、既に各所で蝿帝軍と外部からやって来た何者かによる激しい戦いが繰り広げられていてね。その規模と激しさが、近々島全体を巻き込む程の大きさになるようで……君達が島へ留まり続けるのは極めて危険なんだ。だから君達には、なるべく早い内に島を脱出して貰いたい」

「そうですか……。わかりました。でも、ウィリディスさんは大丈夫なんですか?」

「私の心配はしなくていい。私は見ての通りそれなりにはしぶといし、この事件を無事に解決へ導く義務があるからね。だから脱出するのは君達だけだ。いいね?」

「はい、わかりました。でも、脱出ってどうすれば……」

「大丈夫。私の言う通りにしていれば必ず脱出できる。目を閉じなさい。行くべき道を示してあげよう」

 言われるまま目を閉じた少年の頭へ自らの右手を乗せたウィリディスは、念じながら言い聞かせる。

「まず、あそこに出口が見えるね? あそこから出ると、一直線に続く長い道がある。途中で右や左に分かれていても真っ直ぐ進むんだ」

 少年の脳裏へ、ウィリディスの示す道筋がはっきりと映し出される。

「そうしたら突き当たりに逆さまに突き刺さった眼鏡屋さんの看板が見えるから、そこを左に曲がって道に沿うようになるべく真っ直ぐ進む。右に逸れる道を二つと左に逸れる道を一つ過ぎると、少し開けた場所に出る。少しすると、そこに若い霊長種の女の人が現れるだろう。赤く長い髪をした女の人だ」

「その人に話し掛けるんですね?」

「そうだ。その人は腕の立つ魔術師で、事情を話せばすぐにでも魔術で島の外へ出してくれるだろう。わかったね?」

「はい、わかりました」

「よし、いい子だ。では、お姉さんが起きたらすぐにでもここを出るんだよ?」

「はい。わかりました」

「では、私とはここでお別れだ。……ちゃんと、お姉さんと一緒に生き残るんだよ?」

「はい、勿論です。短い間でしたけど、有り難うございました。さようなら、ウィリディスさん」

「ああ、さようなら。元気でね」

「ウィリディスさんこそ、お元気で」


 少年に見送られ、ウィリディスは静かに隠れ家を後にした。その後姉が目覚めると少年は彼女に事情を説明。幼い姉弟はウィリディスの示した道を辿っていく。

 そして開けた場所に出た二人は、ウィリディスの言っていた"赤い長髪をした霊長種の女魔術師"こと清水香織と遭遇し事情を説明。話を聞いた香織は魔術での転送魔術を快諾し、姉弟へ『十日町晶という人を探しなさい。事情を話せばきっと助けてくれる人だから』と告げ、ヤムタの大国・型月シンユエが首都・奈木ノ子の三咲町へと転送。香織の指示通りに動いた姉弟は無事十日町邸にて保護されることとなる。

次回、遂に最終決戦開始なるか!?

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