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第十三話 相次ぐ激闘と衝撃の真実:後編




トルクの語る真実とは……

―前回より・嘗て街道だった荒地にて―


「夫婦奥義之三十九……」

「爆裂希望印ッ!」

「ハンコに変形させた両腕を通じてよくわからんエネルギーを流し込みッ!」

「ぶっ飛ばすついでに時間差で爆破したぁ……」


 最早原型を留めぬ程に破壊された嘗ての街道にて、リューラとバシロは本来地の文で行われるべき技の解説を気取ったポーズと言い回しでやってのける。


「因みに"希望"って字は作者が番号ネタだっつってノリ任せにつけただけであって大した意味はねぇ」

「本当は番号に因んで何かしら元ネタと絡めた要素を何かしら混ぜて描写する予定だったらしいがスッカリ忘れてたんだとよ」

「そこは突っ込まねーでやってくれ」

「蠱毒は存在がまず欠陥だらけだからな。しょうがねえしょうがねえ」


 多少オブラートなりラップなりに包めと言いたくなるようなメタ発言を残し、背に翼を成した二人は先ほどトルクを吹き飛ばした事で形成された(大雨でも降ればそのまま川になりそうな)深いわだちを辿るように飛び去って行った。


―轍の先―


「さて、この辺りの筈なんだが……」

「お、あの辺りじゃねぇか?」


 轍を辿ること凡そ6分、二人は奥まった土地に埋まる岩のような巨体――もとい、殴り飛ばされたトルク・スターズ――を発見する。どうやら仰向けになったまま肩から上辺りまでが埋もれている様子で、遠目から見ても原型を留めている事に二人は驚かされた。だが同時に二人はこの後原型を留めているか否かさえ些細な事だろうと思えてしまう程の衝撃的な光景を目の当たりにすることとなる。


「なっ、何だありゃあ?」

「どういうことだ?」


 吹き飛ばされたトルクに近付いた二人が目にしたもの――それは、爆裂希望印によって吹き飛ばされた胴体部分に横たわる全身が鮮やかなピンク色の華奢な女人であった。その皮膚は直に触れずとも明らかにホモ・サピエンスのものではないと言い切れるようなものであり、頭から腰まで伸びた頭髪らしきものも体毛とは考え難かった。


「なぁリューラ、こいつぁやっぱり……」

「十中八九、あの岩野郎の本体て所だろうな……上から73、57、79って所か。あの岩みてぇな体は鎧だったわけか」

「ああ、そうらしいな。しかも吹き飛ばされた断面を見るにこの鎧そのものも生きてるっぽいぜ――ってお前何さらっと相手のスリーサイズ言い当ててんだよ!?」

「言い当てたわけじゃねぇぞ。あくまで目測だ、確実な数値じゃねぇ」

「だとしてもスゲェよ……然しマジで驚いたな、外見はあんなゴツいっつーのに」

「皮剥いてみりゃこんな可愛いピンクの美少女だもんなぁ」

「本当、世の中わかんね――「おい、そこのお前!」――あ?」」

 そんな二人の会話は、(若干気の強そうなトーンでこそあれそれを踏まえても何とも可愛らしい声をした)少女の叫び声によって遮られる。叫び声の主というのは勿論、鎧を剥がされ華奢な真の姿を敵と読者の眼前へ曝すに至ってしまったトルク・スターズである。

「そこのお前……今俺の事見て何つった!?」

「何だよ? 別に大した事は――「いいから言えよ! 何つったんだよ!?」

「何つったって、可愛いピンクの――「グガァァァァァ!」――な、何だよいきなり?」

「やっぱお前、言ったな? 言いやがったな? 俺の事を、"可愛い"と! それも一度だけじゃなく、二も言ったな!?」

「言ったからなんなんだよ。別にいいじゃねぇかそんぐれ――「よくねー! よくねーんだよ! 俺にとって"可愛い"って言われる事はなぁ、どんな罵り言葉よりも腹立つんだよ!」

「はぁ? そりゃどういうことだ? 普通は喜ぶもんだろ」

「ああ、そりゃな! "普通"はな! "普通"は嬉しいんだろうよ! "普通の女子"はなぁ! だが俺は腹立つんだよ! 何せ"普通じゃねぇ"からなぁ!」「……どういうことだよ?」

「どういうことだってか!? ……いいだろう、話してやる」

 かくしてトルクは自らの過去を語り始める。

「まず事前に知らせとかなきゃなんねーことがあっから、寝ずに聞け」

「おう、ちゃんと聞くさ」

「つーか寝れねぇよここじゃ」

「それもそうか。……俺達の根本は骨肉樹と同じモンで、蝿帝様の配下として生み出された。身体の元になったのはどこだかクソ寒い雪山の洞窟ん中で干涸びてた、名前さえねぇ古代の化け物だそうでよ。何かよくわからん奴からのお告げでその化け物を復活させた蝿帝様は、雌だったそいつに自分の精子を吸わせて骨肉樹や俺達を卵で産ませたんだ」

「つまり蝿帝はお前らの親父で、その雪山で干涸びてたとかいう化け物は母親って事か」

「一応はそういう扱いになるんだろうが、蝿帝様にせよ化け物にせよ俺達にせよ、お互いをそう思うようなことはなかったぜ。主君と配下って意識のが強すぎたからかどうなんか、その辺はまるでわかんねぇしどうでもいいから飛ばすぜ」

「おう」

「重要なのはその次でな。骨肉樹は蝿帝様の精子を吸った化け物がそのまま産んだんだが、俺達には産まれる前に蝿帝様からちぃとばかしの隠し味を受け取ってあってな……俺達を"自分で頭使って行動する戦力"にしようと、金で雇った腕利きの屍術師に死人の魂を幾つか集めさせ、そいつを生み出される前の卵へ念入りに組み込んだのさ」

「魂、だと?」

「そうか、成る程な」「ん、知ってんのかバシロ?」

「おうよ。魂ってのは個体の心身を成すありとあらゆるデータの塊へ生命エネルギーの結合させたもんだ。となりゃそいつを未熟な卵細胞ん中へ組み込んで根本から組み替えちまえば、生まれてくるガキに魂の持つ個性を反映させることも、まぁできなくはねぇ」

「その通りだ黒いの。俺自身よくわからんが、俺達の成り立ちなんてもんは大体それでいい」

「……だが果たして、幾ら屍術や遺伝子工学なんてもんが進歩しようが、そんな無茶苦茶な真似が果たして現実のもんになるとは到底……」

「そう、普通に考えりゃそんなムチャクチャが現実になるわきゃねぇとは誰もが思うだろう。寧ろそんな発想に至りすらしねーのが普通だ。だがそのムチャクチャな発想を現実にしちまうのが件の化け物でよ。まぁそんなわけで、俺達にはヒトだった頃の物心ついてから死ぬまでを今もハッキリ覚えてんだ」

「つまりその"物心ついてから死ぬまで"が本題ってか」

「そうなるな。……嘗ての俺は、このカタル・ティゾルとはまた違う世界にあるデカい国に産まれた。家は金持ちでもなきゃ貧乏でもねえ普通の家でよ。上に兄貴や姉貴が三人、下に妹や弟が四人の大家族でよ……どいつもこいつもバカだったんで、毎日喧嘩ばっかしてた。そんで、そんな中で育ったからか俺は男勝りの腕白小娘でよ。親も含めた十人揃って、近所じゃ一目置かれる番長格だった。中でも俺は特にそれが顕著でよ、お陰で喋りもこんなんだったが、喋りを悔いた事は一度もなかった。……そんな俺に異変が起こったのは、中学に上がった頃のことだ」

「何があったんだ?」

「止まりやがったのさ、身体の成長がな。背も伸びねぇ、体重も増えねぇ、胸も膨らまねぇ……小六までは順調だったのに、突然上手く行かなくなった。まさに今みてぇな貧相なナリでよ、箔欲しさに筋トレやったが体格は変わらず変に筋肉ばっかつきやがるし、そんならと自棄食いゴロ寝で太ろうともしたが無駄だった……。周りの奴らは、成長止まって体格の変わんねー俺を事あるごとに"可愛い"と言った。不本意だったんで無視シカトしてたが、奴らはそれでも飽きずに俺を"可愛い"と言い、挙げ句可愛さを高めろだのと色々奨めて来やがった。やれ服装を変えろだ、やれ口調を正せだ、やれ茶道や華道や舞踊を習えだ、やれ女子力が低いだのと……。そんで俺がその奨めを断ったりなんかすると、そんなんでいいのかとか、そんなんじゃダメだとかと恩着せがましく説教かましやがるし、カッコよく強く激しくっつう俺個人の望む在り方を否定もしやがる……そんな風なんだからなぁ、ある時悟っちまったのよ。俺に向けられる"可愛い"って言葉は、俺の本質を理解する気もねぇゴミ共の戯言だと――「黙れボケガキ」

 トルクの台詞を遮ったのは、抑揚のないリューラの一言だった。

「なッ!? んだと、てめぇ!?」

「だからよー、黙れっつったんだよ。さっきからくだらねー事ダラダラとくっちゃべりゃあがってからに」

「何ぃ!? 俺の話の何がくだらねーってんだぁ!?」

「そりゃお前、くだらねーだろ。まぁ確かにお前の言い分にも一利あるし、その気持ちはわかるがよ。周りからの言葉を何でもかんでも知ったかの戯言と受け取って突っぱねてんじゃねーよ」

「じゃあ何か? 周りの言いなりんなって普通の可愛い女子を演じろ、自分の望みや本質なんて投げ捨てろと、そう言うのかよ!?」

「そうとも言ってねぇよ。ただ、外野からの言葉も聞き入れて生き方の参考にしろってだけだ。可愛いはカッコイイ強い激しいの反対じゃねぇから否定じゃねぇしよ、女っぽい服装やら茶道華道舞踊にも、手ぇ出せのめり込めとまでは言わねぇから、聞き齧る程度に調べるぐれぇしときゃ良かったんじゃねーのかよ。それで興味湧かなきゃそれまで、湧きゃ何かしらやんのも有り……と。物事ってなぁ、大概そういうもんだろ。周りのもんを何でもかんでも鵜呑みにすんのは愚の骨頂だが、お前みてぇに大して考えもせず何でもかんでも突っぱねんのも、それはそれで馬鹿丸出しってもんだろ。それにな――「黙れぇぇぇぇ!」

「……」

「いい気んなってんじゃねぇぞ阿婆擦れがぁ! 俺にとっての正義は俺自身のみだ! 俺が俺として在る為に他の誰かの指図なんざ受けてたまるかぁぁぁぁぁ!」

 横たわった姿勢のまま激昂したトルクは、自らを理想の姿たらしめていた鎧がその機能を失って尚、立ち上がり眼前の敵を黙らせんと右腕より刃物型の骨を飛び出させリューラへ切り掛からんとする。だが立ち上がろうとした瞬間、彼女に異変が起こる。


「がっ!?」


 パキッという微かな破裂音を伴い、トルクの右腕に凄まじいまでの激痛が走る。だがその痛みを強引に押し殺し、彼女は立ち上がろうとする。身体を動かす度に破裂音と激痛は酷くなる一方だったが、尚もトルクは諦めない。そして彼女が完全に立ち上がった、その瞬間。


 鮮やかなピンク色の可愛らしく華奢な身体は、文字にし難い程に悍ましい音を立て、全身至る所から血を流しながら瞬く間に崩壊。トルクがその一瞬で絶命したのは言うまでもない。

 凄惨な光景に二人は驚愕したが、すぐに事の真相を悟り落ち着きを取り戻す。


自重じじゅうか」

「あぁ、多分な。鎧に頼り過ぎたもんで自分自身の骨が極限まで弱っちまって、ギリギリ何とか持ちこたえてる状況だったんだろうな」

「そんでそのまま無理しちまって、脆くなった骨が自重に耐え切れなくなり肉諸共崩れて死んじまったわけだ」

「妥協と自愛を知らず、ただ理想に縋ってばかり居た奴が、結局自分自身の弱さに殺されるたぁ……」

「しかも奴自身はその弱さを自覚してなかったらしいってのがまた何とも言えねぇよなぁ」

「それな。つか、あんな奴を見た後だと自分を平然と愛せてる俺らが、何かスゲー運のいい恵まれた奴に見えてくるから不思議だよな」

「いや、実際の所かなり幸運なんだろ私らは。自覚できてねぇだけでさ」

「ははは、違ぇねーや」


 かくして二人は島の探索を再開すべく歩きだした。

次回、更なる敵戦力が続々登場!

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