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第十二話 相次ぐ激闘と衝撃の真実:前篇



どんどん行くぞー

―前々回以降・フェリキタス島の一角―


「せぁっ!」

「ほうィ!」


 元は野球場であったものと思しき広大なフィールドで、青白い影と焦げ茶色の影とが動き回ってはぶつかり合う。それら影の移動速度スピードは凄まじいの一言であり、凡そ並大抵の視力では"色違いの物体が二つばかり声を張り上げながら跳ね回りぶつかり合っている"ぐらいの出来事として理解するのがやっとな程であった。


「へァえぃっ!」

「ていァ!」


 色違いの物体二つは持ち前の機動力と移動速度スピードを存分に活かした複雑かつ変則的な動作で広大な野球場内を跳ね回りながら、相手の隙を突いて相手の身体を刔り手足を刈り取るかのような鋭い打撃を放つ。然し、全くの互角である双方の打撃はその殆どが相殺されてしまう。


「(……やっぱり安易な方法じゃダメか。何か対策を考えないと……)」

「(あの蔓人形、中々強いじゃないですか。兄さんも心配ですが、此方も油断してはいけないらしい……)」


 一旦戦いを中断した二つの物体――もとい"青白い方"ことレイズ・ワースと"焦げ茶色の方"こと小樽桃李の二人は、何とか互いを殺しきらんと策を巡らせる。互いに派閥随一の俊敏さを誇る二人の戦いは、これより更なる複雑化を見せていくこととなるのである。


―同時刻・フェリキタス島の街中にある入り組んだ路地の一角―


「(さてさて、どうしましょうかねぇ……)」


 桃李が一人野球場でレイズ・ワースと戦っている最中、本来ならば妹である彼女の体内に潜みそのサポートに徹すべき筈の兄・羽辰が何をしていたのかと言えば、彼もまた島を探索中に遭遇した蝿帝配下との交戦を強いられていた(そしてまた彼は、その攻撃から妹を守る過程で彼女と引き離されてしまってもいた)。


「(全く、こんな事になるとは予想外でしたよ……本当は今すぐにでもこの場から逃げおおせて桃李の元へ向かいたい所ですが、敵の位置やさえ把握できていない以上迂闊に動くと何をされるかわからない上、桃李に要らぬ危険が及ぶ可能性もないとは言い切れない……そして、何より――)」


 羽辰は苦い表情のまま微かに出血している・・・・・・・・・自分の右腕に目を遣った。


「(そして何より恐ろしいのは、現在交戦中である何者かの攻撃が私を出血させているという事実……有機物の肉体ならばまだしも、完全に霊体していた筈の私に血を流させるとは、一体……)」


―同時刻・路地に佇むある建造物の深奥―


『"イェク・ニス・ウスタクオト"ヨリ"ウォ・ヌズ"ヘ。ターゲット未ダ死角ヨリ動カズ。"ウユク・ナグ"デノ視認コソ可能ナガラ"アリ・ホネト"デノ攻撃ハ不可ナ模様。至急指示ヲ求ム』

「……"ウォ・ヌズ"より"イェク・ニス・ウスタクオト"へ。……ターゲットを死角外へ誘導する。……プランDへの移行準備を急げ」

『"イェクニス・ウスタクオト"ヨリ"ウォ・ヌズ"ヘ。了解。プランDヘ移行スル』


 光の一切届かない暗闇の中へ響き渡る抑揚のない声達による一連の会話は内容こそ(意味不明な横文字カタカナ単語が多いこともあり)意味不明なものであったが、然し鋭い読者ならば『ターゲット』という単語が羽辰を指すものであること(則ち会話をしている変な名前で呼び合う二人が彼を狙う敵であること)はお分かり頂けるかと思う。更に補足しておくと、この内ウォ・ヌズと呼ばれる方は蝿帝配下の無口な女・黒潟ヘイ・シィであったりする。口下手故自ら言葉を発する事など殆どない彼女だが、それでも当然蝿帝を崇めている事に変わりはないのである。


―同時刻・フェリキタス島のある街道にて―


「デルァァァアアア!」


 岩石巨人が如き姿をした蝿帝配下が一人"トルク・スターズ"の巨大な両腕がアスファルトの道路に巨大なクレーターを作り、周辺の建造物を(骨肉樹の侵食を受けていなければ完全に崩壊していたであろう事が容易に想像できるまでに)尽く破壊する。これであの妙ちきりんで厄介な二人組も潰せたろう、トルクはそんな事を思い安堵する。


「良しっ、これで潰――「せては、」「ねぇぞ?」――なッ!?」


 然しその攻撃を巧みに回避しいたらしい妙ちきりんで厄介な二人組――もとい、リューラとバシロ――は、華麗かつ無駄のない動きで振り下ろされたトルクの腕へ舞い降りる。


「な、い、生きてやがっただと!?」

「ったりめぇだ。そんな攻撃避けるぐれぇ訳ねぇんだよ」

「動作が大振り過ぎて欠伸出らぁ。しょうがねぇから私らが手本見せてやるよ。ほれバシロ、合わせっぞ」

「おうよ、任せな」

 バシロは自身の体組織をリューラの両腕(より厳密には肘から先)へ纏わせ、拳と手首を包み込むように直径14cm、長さ18cm程もある円筒形の構造物を形成する。それを見て何やら危険な雰囲気を悟ったトルクは咄嗟に二人を叩き潰そうとしたが、時既に遅く二人は必殺級の威力を誇る大技の構えを取っていた。

「「夫婦奥義之三十九めおとおうぎのさんじゅうきゅう爆裂希望印ばくれつきぼういん!」」

 軽く跳び上がったリューラは、自身と一体化しているバシロ共々空中よりトルクのだだっ広い胴体へと怒涛のラッシュを叩き込んでいき、とどめの一撃でトルクを遙か遠くへ吹き飛ばす。

「ぐぉおおおおおわああああぁぁぁぁあ!?」

 地面に深さ1m、幅3m程の轍を残し、道行くあらゆる建造物を破壊しながら吹き飛ぶ巨体は、距離にして凡そ十数km程にも渡って不本意かつ無差別な破壊を繰り広げ、約4分後に動きを停止した。

「(と、とまった……漸く、止まった……)」

 何にせよ状況に一段落ついたことに、トルクは安心する。傷や勝機の有無など関係なく、ただ止まってくれたことに安堵していた――だが、その安心も束の間であったことを数秒しない内に思い知ることとなる。


「(滅茶苦茶痛ぇ……けど、どうでもいい……)」


 トルクの安堵を尻目に、彼の胴体へ奇妙な文様が無数に現れる。それはよく見れば直径14cm程の赤い円に囲まれた漢字数種であり、微かに熱を帯びているかのようであった。


 そして、次の瞬間。


「(蝿帝様、すんません……俺、ここまでみたいで――)」


 モノローグを遮るように、岩石の様な巨体が盛大に爆発し粉々に砕け散った。

次回、トルクの思わぬ正体が明らかに!

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