第一話 とある少年の観察記録
こんなん書いてる間にゃあ他所様とのコラボでも書けよって話だけどね。
海上都市"フェリキタス"(またの名をフェリキタス島)は、温帯域にある学術大陸ラビーレマの近海に浮かぶ総面積1500平方キロメートル程度の人工島である。総人口は凡そ130万人と発表されており、要するに地球でいう沖縄本島を若干広くしたような規模だと思って頂ければそれで大丈夫かと思われる。つい最近(コリンナ・テリャード死亡の翌年)になって作られた島であり、住民達も世界各国から試験的に集められた志願者で構成されているためこれといった文化や伝統というもののない、ただその構造――樹脂で固められた産業廃棄物の上に土を敷き詰めあたかも陸地のように見せているというもの――ばかりが取り沙汰されがちな、そんな大地である。
新しいが故に未熟であったその大地は――それが例え一時的なものに過ぎず、何れ崩れ去ることが必然であったとしても――間違いなく"平和"であった。島民は皆穏やかで争うこともなく、自治体や事業の長達は真面目な義人ばかりで不正に手を染めたり民衆や部下に不当な苦しみを強いもせず、それ故に悪意や憎悪はなく、犯罪や戦乱も起こらない。そんな、この世に到底有り得る筈のない(言わば"絵に描くこともできないような")"不自然極まりない平和な世界"が、そこにはあった。
故に人々は――当事者であるフェリキタスの島民達でさえも――その平和が恒久のものではないこと、何時か終わるであろうことを悟っており、その為に何らかの行動を起こすべきとの考えから行動を起こしつつあった。全ては"自然な形での平和"を手にしたい、自分達の暮らす島を"真なる楽園"にしたいという、一途で純粋な願いの為に。
だがその"願い"は、ある日突然姿を現した"何か"によって悉く蹂躙されてしまうこととなる。
これより本作にて描かれるのは、人々の期待と希望を背負いながら一晩にして地獄へと豹変してしまった"楽園"での壮絶な戦い――後に"フェリキタス島事件"という名で語り継がれる事となる一つの"大災害"と、それに立ち向かった者達の記録である。
―本編終了から五年が過ぎた頃の春・ある昼下がり・海上都市フェリキタスにある一軒家の庭先―
「あれ?」 休日の昼下がり、家の庭で遊んでいた少年の視界に何やらキラキラと光るものが飛び込んできた。
近付いてよく見てみれば、透明で不定形な塊であった。さらに凝視すると直径6mm(即ち、遊戯銃の弾丸として有名なBB弾)程度の大きさをした黄色い粒が幾つか内包されているのが分かった。好奇心を刺激された少年が持っていた網の柄で軽くつついてみると、それは寒天のような弾力を示し微かに揺れている。
どうやら柔らかい物体であることは間違いないらしい。
「何だろ、これ? カエルの卵……じゃないよね。カエルは水の中とか水の近くに卵を産むんだもん。僕ん家の家の庭には川どころか池もないし、裏の用水路や田んぼからは遠すぎるもん。でも、だとしたら何だろう……」
物体に興味を持った少年は、その物体を観察しようと家へ持ち帰り暫く飼育することにした。
―翌日以降・少年の日記―
4/11 透明な物体を、庭の土ごと掬い取った透明の物体を水槽の中に入れて、中へ霧吹きをして湿らせてやるようにする。これからどうなっていくのかとても楽しみだ。
4/18 透明な物体の中に埋まっていた粒のようなものの形がどんどん変わり始めた。やっぱり何かの卵なんだろうか。でも何の卵だろう?オタマジャクシのようだけど、少し違っているような……。
4/20 学校でミュラー先生(作者注:少年の通う小学校で理科を教える教員)に卵っぽいものの事を話したら、是非見せて欲しいと頼まれたので明日家に来てもらう(より正確には、下校時刻に先生の車で家まで送ってもらう)ことになった。粒はどんどん変な形になっている。
4/21 約束通りミュラー先生の車に揺られ下校。部屋に案内し卵っぽいものを見せると、かなり興奮している様子だった。正直大げさだとも思ったけど、僕も同じようなものだなと思うと納得せざるを得ない気がした。すっかり卵っぽいものに魅了されたらしいミュラー先生がどこか物欲しそうな(失礼な例えだけれど、新しい玩具を欲しがる子供のような)目をしていたので、卵っぽいものと庭の土を幾らか分けてあげることにした。先生は大喜びで帰って行った。
4/28 卵っぽいものの成長は相変わらず凄いの一言だ。もう卵というより動物といっていいほどに成長している。相変わらず寒天状のものから出てこようとはしないし、形からだってどんな動物なのかはわからないけれど(黄色くてウネウネしたそれはタコかヒトデのように見える。ミュラー先生はクラゲのような動物じゃないかと言っている)、それでも面白くてたまらない。
5/4 ここ最近、卵っぽいものこと黄色いウネウネの成長は止まる所を知らず、日に日に大きくなっている。ミュラー先生の所も同じなようで、明日は学校が休みなのでホームセンターへ替えの水槽を買いに行くことになった。結果、僕も先生も手頃な値段でかなりの大きな水槽を買う事が出来た。これで黄色いウネウネをもっと観察しやすくなるに違いない。実際、黄色いウネウネは新しい水槽を気に入ったようだ。これからが楽しみでしょうがない。
次回、"フェリキタス島事件"の幕開け!