老夫婦の激しい夜
昼間は赤子のようにうるさいセミたちも寝静まった夜、とあるお家のとある老夫婦。
彼らは大画面のTVに映し出された映画を見入っていました。
その映画では、若い男女たちが身体をよじらせくねらせ、激しく動いていたのです。
「この映画を見ていると、なんだかワシらの若い時を思い出すな」
おじいさんの一言で、おばあさんは思わず頬を赤らめました。
「いやですよあなた。もうあれは昔の話じゃないですか」
「はは、照れることはないじゃないか。
ワシらもああやって激しくやったもんだろう?」
どこか自慢げなおじいさんとは対照的に、おばあさんは恥ずかしげにうつむくばかり。
「どうだ、今晩は久しぶりにやってみないか?」
おじいさんの提案に、おばあさんはびっくり仰天と言った様子。
驚きもつかの間、またすぐに恥ずかしげにもじもじと渋るおばあさん。
「だいたい、子供や孫が見たらどうする気ですか。
見られたら最後、まともに顔を合わせる気がしないですよ」
「その時はその時だよ、ほれ、早くせんかい。
ワシはもうその気になってるのだぞ」
この人がこうなったらもう付き合うしかない。おばあさんは何十年の経験で悟っていたのです。
「今晩限りですよ」
重い腰を上げると、おばあさんは古い押入れの奥の奥に押し込まれたピンクの扇子を手に取りました。
「ミュージックスタート!」
おじいさんの掛け声で、激しい夜が幕を開けたのです。
もはや誰も見ていないTV画面には、かつてのバブル時代のディスコが映し出されていました。
2040年の7月の夜のことでした。
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