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預言者に宣告された死を回避したいハイエルフ

作者: 元毛玉
掲載日:2026/11/04

「エルフの貴方、死相が出ているわ」


 立ち寄った占いの館で、突然そう告げられた。

 市井の占いとやらに寄ってみたのは興味本位。


 だが、これほど不愉快なものだったとは。


 私はかれこれ二千年近く生きている。

 それなのに死相と言われても、正直なところ実感がない。


「私はこれでもハイエルフでね。君みたいな占い師に何が分かるというのか」


 ハイエルフは半精霊のようなもので、多くの者に崇められている。

 神にもっとも近しい存在だ。


 この胡散臭い占い師は、そのような常識も知らないのだろう。

 私が席を立とうとしたら、占い師の女が口を開いた。


「娘が生まれるのですね」

「あぁ、イマーニと名付ける予定だ」

「それだと……その娘も死にますよ」


 妻のお腹の中には子供がいる。

 つい先日、娘だと判明して喜んだばかり。

 話の続きが気になり、再び腰を下ろす。


「娘が死ぬとは一体どういうことだ? 何が起こるというのだ?」


 フードを深く被った占い師の顔はよく見えない。


「何が起こるかは分かりません。ですが……貴方の名前が見えるのです」

「私の名前だと?」


 やはり怪しい女だ。

 名前で一体何が分かるというのか。


「女」


 脅しもかね、声を低くする。


「死相が出ていると言っていたが、私が死ぬことなどあり得ない」

「いえ、もう物語が始まっています。その命、いつまで持つか分かりません」

「物語? 何を言っている?」


 フードの奥にうっすらと見える赤い瞳。

 その瞳に浮かぶのは諦観めいた色だ。


「詳しく話せ」


 しかし占い師はゆるく首をふるだけ。


「貴方の名前は、もう手遅れなのです」

「妙なことを言うな!」


 思わず語気を強めてしまった。

 下賤な人間種と同じところに立つわけにはいかない。

 私は襟元を正す。


「私のジョバンニ・シノーネという名前が何か問題なのか?」

「はい、とても恐ろしい名前です……貴方の死は揺るぎない事実」


 女の声には怯えが感じられる。

 私というより、私の名前に恐れをなしているようにも感じた。


「女。物語が始まったとも言っていたな? 始まるとどうなる?」

「貴方が死にます」

「それには私のジョバンニ・シノーネという名前が関わっている?」


 占い師はしっかりと頷いた。

 しかし、死という現実は受け入れられない。

 もうすぐ娘も生まれる。

 どうにかして未来を変えられないものか。


「私が死ぬのは天災か? それとも誰かに害されるのか?」

「分かりません」

「だが、死ぬのは確定していると?」

「そうです」


 嘘だと突っぱねたい。

 なのに、淡々と語る彼女の声を否定することができない。


「私は今まで神に愛されていた。これほど愛される私がもうすぐ死ぬだと?」


 フードを取るつもりで手を伸ばす。

 すると占い師が身を引いた。


「その神に殺されるのです」

「なんだと?」


 私は神と対話をしたこともある。

 何度も神に命を救われてきた。

 そのときにも告げられたのだ。


 ──《ジョバンニ。君が死ぬことはないよ。主人公が現れるまではね》


 そうか。あれが予言だったのか。

 私は伸ばしていた手を止め、力強く拳を握りしめた。


「シュジンコウという存在が私を殺すのだな!」


 ならば、やることは単純だ。


「そのシュジンコウを先に殺せば、私が死ぬことはない! 違うか!?」

「違います。貴方を殺すのは神です。それから、貴方に主人公は殺せません」

「なぜだ!?」


 憐みの目を向けてくる占い師の女。


「神が許さないからです。主人公を殺すことも。貴方が生き長らえることも」

「信じられん! 何か! 何か救いは無いのか!?」


 占い師が視線を外し、しばらく考えるそぶりを見せた。


「……一つだけ、死を回避する方法がございます」

「聞こう!」


 彼女から耳打ちをされ、唯一の回避方法に驚愕する。


「そ、そんなバカな。私は妻を愛しているのだぞ」


 提案は、到底受け入れられるものではなかった。


「では、娘さんも諦めますか?」



 ◆◇◆



 数年後。

 私はまだ生きている。


 占い師の要求は……人間の家に婿入りすること。


 その屈辱的な提案を、私は受け入れた。

 娘と共に生きる未来を。

 ただそれだけを願って。


 婿入りした後、神からの御告げもあった。


 ──《そうきたか。ならジョバンニを殺すのは止めておくよ》


 ゾッとした。

 神が私を殺そうとしていたことに。

 その世間話でもするかのような口調にも。


 だが、娘と共に生き、時間を共有している。

 私は幸せだ。


「パパ~! 今度キャラバンに連れてって!」

「あぁ、いいとも。愛しいダーカラの望みは何でも叶えよう」


 占い師に言われるまま、娘の名前も変えた。

 念には念を。娘の命を守るため。

 そう言われ、受け入れた。


「お前の言うようにして良かったよ」


 その占い師は私の妻となっている。

 人間種との結婚なぞ吐き気がすると思っていたが、今では感謝しかない。


「ジョバンニ。商談をまとめてくるのが先ですよ」

「分かっている。シナネーノ家のためにしっかりと働いてくるとしよう」


 婿入りし、私はジョバンニ・シナネーノとなった。

 娘のダーカラ・シナネーノと過ごす時間を大切に思うただの父親だ。


「そうそう、シュジンコウが魔王に挑むそうだ。私にはもう関係ないがな」

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― 新着の感想 ―
ああ、なるほどそういうことだったのですね……。 これこそまさに運命の悪戯と言うべきでしょうか。 登場人物の名前は本当に悩みますよね。好きなテレビ番組の出演者の名前から付けたり、読んでいる本から付けたり…
ジョバンニだけだと、カッコいい名前なのに……。 名前をつける際には、フルネームで考えないとダメですね。面白かったです。
ナニコレ!?的な作品で好きです!!(*^▽^*) やっぱり苗字がね、ヤバかったですもんね。 シュジン・コウとかも、どこかにいるのでしょう。楽しいですよね、キャラクターと遊ぶの♩ʕ^ᴥ^ʔ 読ませて…
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