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魔王討伐に出た幼馴染の勇者が王女様と結婚するって聞いた時に「へーそうなんだ」と返す話 番外編

作者: 春日野 梛
掲載日:2026/08/01

番外編です。

前作を読んで頂いていないと分かりづらいかも。


2000文字程度で収まる予定が気が付けば3000文字、あれれ?


楽しんで頂けると嬉しいです。

勢いよく扉が開かれヴァルが飛び込んでくる。


「ティオナ、ただいま〜!」

「お帰り、ヴァル。お疲れ様でした」


帰って来たヴァルにハグされる。


「あ〜ティオナはいい匂い…ずっと嗅いでいたい…」

「ヴァル、変態発言は止めようね」

「だってさ〜。今、思い出してもムカつくんだけど、ビルギッタのやつマジ臭かったんだよ」


「あ〜あれは香水だよ。貴族のご令嬢はみんな付けてる」

「香水だか何だか知らないけど臭い物は臭い」

「ヴァル、そろそろ離して。食事の準備が出来ないよ」


ヴァルから離れようと藻掻くがびくともしない。


「食事はまだいい。今はティオナの匂いでお腹いっぱいにしたい…」

「ヴァルの変態…」

「ティオナ限定の変態だからいい」

「もう…」


こうなったヴァルは納得が行くまで離れない。諦めて彼の背中をポンポンしながらしばらくそのままでいた。




甘々の二人は放って置いて今日の主役は彼らではない。そう、やらかし王女ビルギッタ様が今回の主役である。



「ヴァル様、今日も迎えに来て下さらなかった…」


魔王討伐の後、わたくしは王家の者が罪を犯した時に入れられる塔に入れられた。


わたくしは何も悪い事はしていないわ。ヴァル様にまとわりつく虫を排除しようとしただけ。


だってヴァル様は困ってらっしゃったわよ。あの娘が側にいる時はいつも眉を下げられていたのですもの。


だから、ヴァル様の為にヴァル様が真に愛するわたくしが助けて差し上げなければと思ったのよ。


それなのに何故、わたくしがこんな所に入れられなければいけないの?


ヴァル様、わたくしは待ってますのよ。貴方が迎えに来て下さるのを。



「姫様」

「マリー!待ってたのよ!ねえ、ヴァル様はいつ迎えに来てくださるの?」


マリーはわたくしの侍女だ。塔に従者は連れて行けないと離されてしまったけれど、時折わたくしに会いに来てくれる。


「勇者様はいらっしゃいません」

「そんな筈ないわ。彼はわたくしが好きなのですもの」


格子越しのマリーは遠い。


「勇者様は幼馴染の娘とご結婚なさいました。お二人は幸せにお暮らしです」

「そんな筈ないわ!あの娘が無理矢理ヴァル様に結婚を迫ったのだわ!あの貧相な身体を使って!なんて卑怯なの!」


悔しくて近くにあったコップを投げつける。コップは格子に当たり砕けた。


「もう三年です、姫様」

「まだ三年よ」

「姫様、もうお止め下さい。私が流し続けている噂も誰も信じなくなってきました。それにこのままだと姫様は…」


「わたくしが何?」

「回復の見込みなしと判断されて毒杯を賜ることになります」

「どうしてよ!」


「姫様、お認めください。勇者様が真に愛しておられるのはあの娘だと。あの娘を手に掛けようとした事で世界を危険に晒したのだと」

「そんな筈無い!ヴァル様の真の愛はわたくしにあるはずよ!」

「姫様…」

「帰って。マリーなんて嫌い。帰って!」


静かに扉の開く音がして閉まった。


「ヴァル様が愛しているのはあの娘?そんな筈無い。そんな筈無い!」


『毒杯を賜ることになります』


マリーの言葉がこだまする。


「ヴァル様はわたくしの事を臭いとおっしゃった…。この豊かな胸も贅肉と…」


思い返してみてもヴァル様が、わたくしを褒めて下さった事など一度もなかったわ。


むしろ、苦虫を噛み潰した様なお顔をされていた…。わたくしはずっと照れ隠しだと思っていたけれど違った?


そんな筈無いわ。ヴァル様はわたくしを愛して………。


本当に?


わたくしは王女であり聖女よ。わたくしを嫌う人間などいるわけが無いわ。


そうよ…いるわけ無いわ…。




翌日、マリーが再び塔にやって来た。


「姫様、最後の機会です」

「マリー、最後の機会って…何をするの?」


「勇者様とティオナ様の様子を見て頂きます」

「何故?」

「ちゃんと見て下さい。真実を理解して下さい」


「マリーが何を言いたいのか分からないけど、ヴァル様に会えるのね!」


マリーが不安そうな顔をしているけれど気にしないわ。だってヴァル様に会えるのですもの!



塔から出て、庶民の服に着替えさせらせてから馬車に乗せられた。護衛としてレイヴンが付いて来た。


「マリー、ヴァル様の村までどのくらい掛かるの?」

「三日くらいでしょうか?」

「ふ〜ん、遠いのね」


「姫様、本当にこれが最後の機会なんです。お願いですから…姫様…」


マリーは何を悲しんでいるのかしら?ヴァル様が迎えに来て下さらないから、わたくしの方から行くのでしょう?


マリーの気持ちが分からず、わたくしはただヴァル様に会える喜びに浸っていた。



三日間の馬車の旅も終わり、ヴァル様の住む村に着いた。


「ここがヴァル様の住む村なのね。小さいわ。わたくしが住むなら、もっと大きな街にしなくては」


マリーはもう何も言わなかった。


「今日は何?わたくしが来るから歓迎の宴かしら?」


村は飾り立てられ、屋台が道沿いに並んでいて人の往来も多い。


「姫様、今日は村の収穫祭だそうですよ」

「わたくしの歓迎ではないのね」


マリーに案内されて小さな家の前に着く。その家に入るのかと思ったら物陰な隠れて、その家の様子を覗う。


しばらくそのままでいると扉が開いて、中からヴァル様とあの娘が腕を組んで出て来た。


「お前、ヴァル様からっ!」


ヴァル様から離れろと言おうとしたら後からレイヴンに口を塞がれた。後で無礼を咎めなければ!


あの二人が祭りの方に歩いていく。わたくしはマリーから喋らない様にと注意を受け、ゆっくりと二人の後を付いていった。


ヴァル様はあの娘の旋毛に口付けをしたり眦に口付けをしたり、終始あの娘に触れていた。


そしてあの娘には、なんて優しい笑顔を向けるのだろう。



ああ…魔王討伐の時、ヴァル様が遠くを見つめてあの笑顔をされていた事があった。わたくしは、その笑顔が欲しかったのよ。


ヴァル様の微笑みはあの娘に向けられたものだと知りもしないで。


「マリー、…わたくしは愚かだったのですね。手に入りもしない幻を追いかけていたのだわ…」

「姫様…」


「マリー、帰りましょう。わたくしは王都に戻り父上の裁きを受けます。ティオナ様を亡き者にしようとして世界の危機を招きかけた事。全てわたくしの罪」

「姫様…」


そして、わたくしが迷惑を掛けた一人レイヴンにも謝らなくては。


「レイヴンにも迷惑を掛けましたね。お前がティオナ様を殺さずにいてくれたお陰で世界は救われました。ありがとう」

「とんでもない。私こそ姫様をお止めできず申し訳ありません」

「ごめんなさいね、レイヴン」


本当はヴァル様とティオナ様にも謝りたかったけれど、わたくしが姿を見せる方が迷惑でしょうから、何も言わず帰る事にします。


「ヴァル様、ティオナ様、お二人の邪魔をしてごめんなさい。世界を救って下さってありがとうございました」


この場所で二人に頭を下げる。


「さあ、王都に戻りましょう」


わたくしが村の入り口に向かって歩き出すと、マリーもあの二人に向かって頭を下げていた。


マリーのお陰でわたくしはやっと過ちに気付く事が出来た。でも、もっと早くに自分自身で気付くべきだったわ。


馬車に乗り王都に戻る。


わたくしにどんな罰が下されるのか分からないけれど、償う機会を頂けるのだから甘んじて受けましょう。




ヴァルが後を見て立ち止まる。


「どうしたのヴァル?」

「いや何でもない。今日もティオナは可愛いなって」

「ありがと。ヴァルもいつだってカッコいいよ」


「さあ、祭りを楽しもう。ティオナの欲しいものは何でも買ってあげるよ」

「いいよ。いつも沢山買ってくれるから、私の宝物入れ溢れちゃうよ」

「だったら美味しいもの、沢山食べようか」

「うん。そうしよう」


祭りを思いっ切り満喫した二人なのでした。


食べ過ぎて翌日、お腹をこわした事は内緒。



fin

最後まで読んで頂きありがとうございます。


敢えて王女様の行く末は書きませんでした。

読んで頂いた皆様の想像にお任せします。





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― 新着の感想 ―
お馬鹿が王女だけで良かった。これに国王または従者の誰か一人でもお馬鹿が加われば結界が違ったかと思うと恐ろしい。
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