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第4話:裏庭の告白、灰色の共犯者

湿った土と、枯れ草の匂い。


放課後の裏庭で待ち受けていたのは、甘い放課後の時間ではなく、氷のように冷たい「王子」の指先だった。


彼が私を選んだ本当の理由。 暴かれていく「あの日」の記憶。


私たちは、この嘘の果てに何を見るのか。

放課後の校舎は、まるで脱皮した後の殻のように虚ろだった。 喧騒が去った後の廊下を、私は泥の中を歩くような足取りで進む。向かうのは、生徒たちの立ち入りが疎まれる旧校舎側の裏庭だ。


裏庭に足を踏み入れると、湿った土と枯れ草の匂いが一気に鼻をついた。 そこに、彼はいた。


「……来たね、小鳥遊さん」


阿久津 蓮は、錆びついた鉄柵に背を預けて待っていた。 夕闇が忍び寄るこの場所で、彼の制服の白さだけが浮き上がって見える。だが、私に見えているのはその光ではない。彼の足元から、影が、生き物のように地面を這い、私の方へと触手を伸ばしている。


「話って……なに?」


私の声は、自分でも驚くほど震えていた。 蓮はゆっくりと私に歩み寄り、至近距離で足を止めた。 逃げようとした私の肩を、彼の細い指が掴む。


「っ……!」


冷たい。 夏の終わりの生暖かい空気の中で、彼の指先だけが、まるで氷漬けにされた死体のように熱を失っていた。


「そんなに怖がらなくていい。……いや、怖いのは当たり前か。君には見えているんだろ? 僕の『これ』が」


蓮が、自分の背後に渦巻く巨大な黒い影を顎で示した。 私の心臓が、早鐘を打つ。


「どうして……」 「都会のネズミは、土の匂いを知らない。でも君は、あの火の粉の色と、灰の味を知っている。……僕と同じだ」


掴まれた肩から、冷気が服を透かして皮膚に染み込んでくる。 彼はポケットから、銀色の小さなライターを取り出した。 カチッ、と音がして、小さな炎が灯る。


「やめて……!」


反射的に目を背けた私に、蓮は無表情に炎を近づけた。 「この小さな火でも、君の目はあの地獄を映し出す。……確信したよ。君は、僕がずっと探していた『唯一の目撃者』だ」


彼は火を消し、私を解放した。 掴まれていた場所が、急に熱を持ったようにじりじりと熱くなる。


大樹だいきとの賭けなんて、どうでもいいんだ。僕は、君に近づくための口実が欲しかっただけ。……この『恋人ごっこ』の契約、断る権利は君にはないよ」


蓮は完璧な王子様の微笑みを浮かべた。けれど、その瞳の奥には、出口のない暗闇が広がっていた。


「明日から、みんなの前では仲良くしよう。……分かってるよね、栞?」


私の名前を呼ぶ彼の声は、もはや音楽ではなかった。 それは、私を二度と色彩のある世界へ帰さないための、冷酷な鎖の音だった。

ご参加いただき、物語を読んでいただきありがとうございます。


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