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第2話:灰色の教室、完璧な王子の黒い影

世界はいつだって、残酷なほどに色を隠している。


静寂と灰の中に沈んだ私の世界。 そこに現れた「完璧な王子様」の正体は、救世主か、それとも――。

教室の空気が、真空になったかのように静まり返った。 蓮が歩き出す。その一歩一歩が、私の心臓を不規則に叩く。カツ、カツ、と上履きの音がやけに響く。 クラスメイトたちの視線が、彼と私の間を行き来する。嘲笑、憐憫、そして残酷な期待。


私は逃げ出したかった。でも、足が床に縫い付けられたように動かない。 右隣の席で、弟の影が小さく震えているのが視界の端に見える。


やがて、私の机の前で足音が止まった。 顔を上げると、そこには完璧な造形の少年が立っていた。 窓からの逆光が彼を包んでいる。だが、私に見えているのは彼の光ではない。


――影だ。


彼の背中から、足元から、どろりとした漆黒しっこくが溢れ出している。 それは大樹だいきが持っていたような、単純な悪意のタールではない。もっと深く、冷たく、底のない沼のような闇。 あまりの濃密さに、私の周りにいた家族の影たちが、恐れをなして消え入りそうになっているほどだ。


(ああ、あなたも……)


私は直感した。 この人は、光の中にいるんじゃない。私と同じ、あるいは私以上に深い、色のない地獄に囚われている。


小鳥遊たかなしさん」


蓮が口を開いた。その声は優しく、しかし感情の一切が削ぎ落とされていた。


「好きです。僕と、付き合ってくれませんか」


教室中が息を飲む音がした。 完璧な王子様が、クラスで一番地味で不気味な女に頭を下げている。それはあまりにも滑稽で、出来の悪い劇を見ているようだった。


嘘だ。わかっている。 これは健二くんを救うための芝居だ。彼の瞳は、私を映してなどいない。そこにあるのは、自らを罰するような冷徹な意志だけ。


断れば、この場は終わる。でも、そうすれば健二くんの日常は壊れ、大樹の暴力は加速するだろう。 それに――。


私の視線は、蓮の足元にうごめく巨大な影に吸い寄せられていた。 その影が、まるで助けを求めるように、私の足元の影と混ざり合おうとしている。 私なら、この人の正体を隠してあげられるかもしれない。彼もまた、私の「幽霊」としての静寂を守ってくれるかもしれない。


これは共犯契約だ。


乾いた唇を、私はゆっくりと開いた。


「……いいよ」


私の答えが落ちた瞬間、大樹の表情が凍りつき、教室が爆発したような騒ぎに包まれた。 けれど、私と蓮の間だけは、死んだように静かだった。


「ありがとう」


彼はそう言って微笑んだ。 その笑顔は完璧だったけれど、私には、彼が泣いているようにしか見えなかった。

第2話を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


完璧な王子の背後に見えた、あの圧倒的な闇。 彼はなぜ、私を選んだのか。


次回、放課後の街。 二人の「嘘」が、静かに溶け始めます。


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