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プロローグ:灰に染まった契約

世界は爆発で終わったわけじゃない。ただ、焼け焦げた木材の軋む音と共に終わったんだ。


放課後の校庭。他の生徒たちにとっては、夕焼けのオレンジ、制服の青、スマホの金属的な輝き……色彩の氾濫だったろう。 でも私にとっては、灰色のノイズが舞う砂漠。コンクリートの墓場。そこで生きているのは「影」だけだった。


しおりさん……僕と、付き合ってほしい」


れんの声は完璧だった。あまりにも、完璧すぎた。


私の周りの空気がよどむ。 彼のすぐ背後には、私の両親のシルエット――目玉のない顔をした漆黒の煙のような二つの影――が立ち、じっとこちらを見下ろしている。 私の耳には、私にしか聞こえない死者の囁きと、周囲を取り囲む野次馬たちのスマホのシャッター音が混ざり合って響いていた。


三十人の生徒が息を呑む。 いじめっ子の大樹だいきは、サメのような笑みを浮かべてスマホを高く掲げている。「学園の王子様」が「死体のような女」に跪く瞬間を、永遠に記録するために。


「……はい」


私の声は、乾いた石が擦れるような音だった。 その後に訪れたのは、動画の保存完了を告げる電子音だけが響く、絶対的な静寂。


蓮が顔を上げる。 一瞬だけ、彼がまとっていた電気的な青いオーラが消え失せた。その瞳の奥に、東京の誰も知らないものが見えた。 私と同じくらい深い、虚無。


彼は私を見ていなかった。彼は私を通して、たった今結んでしまった「汚れた契約」を見つめていた。


私は愛なんて求めていない。彼も恋人なんて欲しくない。 私たちは、色を失った世界で巡り合った二つの「嘘」だった。 ただ憎しみだけを知る影たちに囲まれて。

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