第5話 君が死ぬ3月31日を繰り返している
朝、アラームと共に目を覚ます。
公園へ行き、買い物帰りの水花と出会う。そこで日記を見せてもらう。
新たに付け加えられた【16:00水花と喧嘩する】その一行に心を痛めながらも、それすらどこかほっとする。
そして12:00。僕に残された正真正銘、最後の2時間だった。
別れてすぐにも関わらず、再度水花の家のチャイムを鳴らす。
「どうしたの急に?」
「一緒にご飯を食べたいんだ」
「いきなりだね。ホントにどうしたの?」
「ずっと一緒にいたいんだ」
「えっと……それって」
顔を赤らめる水花。
「14時に水花を嫌いって言うかもしれない」
「何、唐突な宣言⁉」
「16時には電車で隣町まで行ったにも関わらず、何しないで帰るかもしれない」
「わかってるなら初めから電車に乗らなくていいのでは⁉」
「18時には公園で無言のままブランコに乗り続けるかもしれない」
「最悪だよ‼そのデートプラン‼」
「……それでも、水花には隣にいてほしいんだ」
それが僕の本心。
この最後の3月31日でやるべきだと思ったことだった。
「水花。俺は君のことが大好きだ。世界で誰よりも愛している。
別れたくない。別れたくなかった……」
それでもこの世界は水花のことを否定する。
僕の力では助け出すことができない。
きっとこの世界は猶予期間なのだと思う。
別れを告げる為の。納得するまでの。
抗うものではなく、受け入れる為の。
受け入れ、成長し、大人になる為の。
「大好きだったよ、水花」
「……はい」
時刻は14時を迎えた。
瞬間、身体の所有権が移る。
もう自分の身体を動かすことはできなかった。
だがそれでもよかった。
ずっと隣には水花が居てくれたのだから。
目を覚ますと病院のベッドの上だった。
先ほどまでの出来事を思い出した。
最後の3月31日を終えた。
長い夢を見ていた。あの奇跡は夢だったのか、現実だったのか、今はもうわからない。
だけど受け入れられた気がした。
いや、現実を受け入れるしかない。
きっとそれは3月31日を繰り返すことができたから。
最後の3月31日を過ごしたからできたことだ。
「もう、大丈夫だよ……」
頬を涙が伝う。
やっと泣けることができた。
やっと水花の死を実感することができた。だけど―――
「水花……やっぱりつらいよ。君の居ない人生は……」
嗚咽を漏らす。泣かないと決めていたのに、もう頼らないと決めていたのに。
僕はどうやら子供のままだ。いくら強がっても、まだ。
もうすぐ3月31日が終わろうとするのに。4月1日には大人にならないといけないのに。
それでも僕は、君との暖かさを思い出したいと思っている。
「もう1回だけ。どうか許してくれ」
僕は日記を手に取り、栞を差し込んだ。
それは何の意味のない行為だった。
身体の自由はなく、ただ最後の3月31日を再現するだけの行為。
それでも水花は確かにそこに生きていた。
思い出は鮮明で、枯れることはない。
この世界にいれば、僕はずっと―――
戻ってくる。つらい現実に。
もう一度、もう一度だけ。君のぬくもりを感じていたい。
だけど―――
そこで僕は気づいた。自分の過ちに。
あれが最後のチャンスだったことに。
どうして僕は―――。
日記に書かれる文字が、水花が事故に遭うまでだと思い込んでいたのだろう。
唐突に身体の自由が失われる。何度も経験したあの感覚。
自由のない身体。
眩む視界。
日記帳にその一文が書き加えられた。
【3月31日。23:58
栞を差し込み3月31日の朝に戻る。】
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