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第3話 演じられたタイムリープ

「おはよう水花」

「おはよう月灯くん。こんなところで会うなんて偶然だね。

 何をしていたの?」

「偶然だね。ちょっとお散歩してただけ」


偶然ではない。

前の世界と同様、彼女は買い物帰りであり、公園の前の道を通っていた。


自分が関わらなければ、同じことを繰り返す。

何もしなければ水花が死んでしまうことを証明するようで、胸が苦しくなる。


「今から帰るところだよね?

 部屋に上がってもいい?」



「何もなくて面白くないけど、ホントにいいの?」


彼女の言う通り、何もない部屋だった。

厳密に言えば、段ボール箱がいくつも転がっている、引っ越し前の特有の部屋の雰囲気をしていた。


「うん、どうしても最後に見ておきたかったから。水花の部屋をさ。

 それにどうしても見せてほしい宿題があったんだ」

「もう、最後まで私がいないとダメなんだから」


本当に……水花が居ないと僕はダメになりそうだった。


「それで何を見せてほしいのかな?不真面目な月灯くんは。

 算数?国語?理科社会?」

「日記帳」

「ふぁあ⁉ヤダよ、恥ずかしいじゃん‼」

「お願い、どうしても確認したいことがあるんだ」

「うぅん……君がそこまで言うなら……」


推しに弱すぎて心配になるものの、どうにか許可をもらえた。

そして迷わず開く。それは既に見たことのあったページ。いや、それに加筆されていた。


「水花―――これってどういうことかな?」

「えっ、変なこと書いてた?って何それ?」


3月31日のページ。

病室で見た時と同様に、水花が事故死することが書かれていた日記帳。

そして―――


【08:00 月灯は9:50のアラームと共に目を覚ます】


その一文が書き加えられていた。

もちろん僕が書いた覚えはない。だが書かれていた事実に身に覚えがあった。


今朝、僕はこの日記に書かれているように目覚ましと共に目を覚ました。

だがもしそれこそがこの日記に書かれている行動だったのだとしたら……。


「知らないよ。私じゃないもん。月灯くんのいたずら?」

「僕じゃないよ。書く時間なんてなかったじゃないか」

「そうだけど……私じゃないし。やっぱ月灯くんが怪しい」


水花が嘘を付いている風ではなかった。

やはり水花が書いたものではないのだろうか。


ならば一体誰が……。


「この日記って学校の宿題のやつだよな?」

「そうだけど?」

「なら栞は?どうしたの?」


簡単な作りの押し花の入った栞。

日記が普通のものだとしたら、栞に3月31日の朝に戻る力があるのかもしれない。

なんか凄い魔術が込められた骨董品的なものを、たまたま怪しげな商人から購入したのだとしたら―――


「もしかして忘れたの!?」

「えっ、なに?」

「あぁ、もうばかばか‼人がせっかく大切に使ってあげてたのに‼」

「はぁ……あぁ」


そこでやっと思い出す。学校の授業で昔、そういうのをやったっけ。

どうせ使わないからって水花に渡したのだった。


「その反応‼どうせ私があげたの、無くしてるでしょ‼」

「そっ、そんなことはないと思うよ?」

「もう知らない‼」


拗ねる水花を宥めながら考える。

どうやって水花を救い出すかを。


「今日は公園に行くのは辞めよう。部屋にいようよ」

「どうして?」

「……宿題が全然終わってないんだ。教えてほしい」

「もう、ほんとに……。私が居ないとなんにもできないんだから」


本当に。水花が居ないと僕はダメだ。

だがこれで公園に行かないで済む。


そうすれば―――水花がトラックに轢かれることも―――。


だが―――


(嘘……どうして……)


時刻は17:50。まだ日記に書かれた時刻になっていないにも関わらず―――


(どうして身体が勝手に動くんだ……)


僕の身体は動きだした。

まるで運命に操られたように。


「どうしたの?」

「……」

「ねぇ、どうしたの!?」


水花の言葉に応えることはない。

僕の身体はそのまま部屋を飛び出し、まるでそこが定位置かのように公園のブランコに座る。


その瞬間、18時を告げるチャイムが、今回も失敗だったことを告げた。




アラームの音と共に飛び起きる。

やはり時刻は9:50。目覚めすらもこの世界に操られている。


そして―――すぐに身体の主導権が奪われる。

公園で感じている、あの感覚だ。

喉の奥がひりつき、嫌な汗が滲んだ。


どうして今?身体は自動的に公園前まで動き出す。

そして水花に出会うと日記を見せてもらう約束をし、部屋へ上がる。


それは前の朝で行った通りに。そして―――


【10:00 公園前で水花と出会う。彼女の部屋に行き、日記を見せてもらう】


水花の日記には新たなルールが書き加えられていた。

嫌な可能性が頭をよぎった。


そこから主導権が戻ったのは12:00だった。

僕は急いで部屋に戻り、日記帳の内容を思い出す。


【08:00 月灯は9:50のアラームと共に目を覚ます】

【10:00 公園前で水花と出会う。彼女の部屋に行き、日記を見せてもらう】

【18:00 公園からの帰り道、水花はトラックに轢かれ死んでしまう】


もし朝を迎える為に行動が制限されるなら―――僕はあと3回しか戻ることができない。


猶予は残されていなかった。

水花に連絡し、縋る思いで隣町へと続く電車へ乗り込んだ。


だが2時間ほど乗ったところで唐突に操作権を失い、公園へ戻ることになった。

逃げ場などどこにもなかった。


そこからはいつもの流れだった。

既に見飽きた水花の死。僕はどこかそれを受け入れ始めていた。


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