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第2話 君が死ぬ3月31日のロスタイム

どういうことだ?


目覚まし時計が表示するのは、エイプリルフールなんかではなく、その前の日。

そう、一度過ごしたはずの3月31日の10:00だった。


さっきのは夢。


「水花が……死ぬはずないよな……」


震える声色で、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

あまりに鮮明な夢で、まるで現実だったかのように錯覚させた。


それでも胸騒ぎが収まらない。

僕は寝間着に上着だけ羽織って駆け足で家を飛び出した。



(……やっぱり、違う。大丈夫だ)


水花が轢かれたはずの公園前の道路。

だがそこには夢で見た事故の形跡は何もなかった。


血痕も、残骸もブレーキ痕も、そして近所の人たちの会話すらも。

何事もない、日常がそこには広がっていた。


(やっぱり夢だったんだ……)

「どうしたの月灯くん。こんなに早くに?」

「⁉」


振り返るとそこには、水花の姿があった。

お母さんと買い物に出かけた帰りなのか、荷物を両手に持っていた。


「いや……お散歩」

「パジャマのままで?あわてんぼうだね」


君が死ぬ夢を見たから、とは流石に言えず、乾いた笑みで誤魔化した。


それと同時に安堵した。

水花が生きている。つまり今朝見たのは夢だ。

当たり前だ、何を本気にしていたんだ、馬鹿馬鹿しい。


きっと水花と今日別れるから、それが辛くてあんな悪夢を見たんだ。

そうに決まっている。


納得した僕は水花と改めてお昼から遊ぶ約束をして別れた。


その後はありふれた日常だった。

公園で合流して、たわいのない話をして。ずっと告げたかったことは……夢と同じで伝えられないままで。


それでもまたいつかが僕らにはある。

だって水花は生きているのだから―――

いや……


僕は夢に押されるように決意した。

もうあんな思いはしたくない。言わないまま終わりたくない。

だから今。


「あっ、あのさぁ……」


―――その瞬間だった。


18時の、帰宅を促すメロディーが流れた。

それはあの夢と同じように。


また邪魔された。だけど今回はこの音色が終わった後でも―――だが次はなかった。


「……どうしたの?」


声が……でなかった。

いや、それだけではない。


まるであの夢の内容を再現するかのように、僕の身体はブランコに腰かけたまま揺られている。

いや違う――――。


僕はブランコから立ち上がり、口を開いた。


「そろそろ……帰らないと」

「……もう少しだけ一緒にいたい」

「……うん」


沈黙が流れる。

しばらくしてから、彼女のスマホが鳴る。


「お母さんが……そろそろ戻っておいでって」

「そう……だよね……」


僕たちは立ち上がる。


「この時間がずっと続けばよかったのに」

「……うん」


まるで演者のように決められた動きを決められた通りに……夢という台本をなぞる。

そして―――


「それじゃあね」

「水花‼」


また水花は僕の目の前でトラックに轢かれてしまった。



目を覚ます。

見覚えのある病院の天井。夢で見た光景。


お母さんが僕の手を握っていた。


「水花は……」


その言葉と共に気づく。

先ほどまで感じていた操り人形のような感覚がなくなっていることに。


「水花ちゃんは……」


お母さんが口にした言葉は、おおよそ予想通りのものだった。

その後の展開すらも。


やはり結果は何も変わらなかったのだ。

夢の世界と同じように。まるでそれが運命だといわんばかりに。


だけど……一つだけ可能性を感じていた。


「お母さん。水花の……日記帳を見せてほしい」


僕の言葉に、お母さんは水花のお母さんに目配せをした。

思うところがあったのか、特に疑問を口にされることなく、それを渡してくれた。


もしこれが魔法の日記帳なのだとしたら。

もしあの夢と同じように今日の朝に戻れるのだとしたら。

もし水花を助けることができるのなら―――。


僕はあの時のなぞるように、栞を3月31日の日付に差し込んだ。

薄れゆく視界の中、開かれたページに書かれた文字に気づく。


【18:00 公園からの帰り道、水花はトラックに轢かれ死んでしまう】




アラームと共に目を覚ます。


さっきまでの記憶は確かにあった。

先ほどまでの現実の記憶。夢だと思い込んでいた現実の記憶。


そのどちらも水花はトラックに轢かれ、死んでしまった記憶。

それは確かに心臓を締め付け、刻み込まれていた。


「大丈夫、水花。今度こそ僕が君を守るから」


こぶしを固く握りこむ。

爪の食い込む感触が、これが現実であることを証明させた。


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