第七話 深淵の火
佑真が仮想空間で仲間たちとフィールドを駆け回っているのと同じ頃、特殊祭祀法人の一室では……。
「先生……ちょっと、こちらに来ていただけますかな」
榊が重い口を開いた。
「システムが感知できないのは、当然のことなのですよ、島田先生」
「それは、いったい……?」
ヘリからの同時中継の映像では、無残に崩壊した神社が映り……榊の視線は、それに釘付けになったままだった。
「不帰山の社は、龍神を封印していたのではありませんからね……ですから、システムは反応しないはずです。つまり、今回は……他の神様の力ということになります」
「だから要石(龍脈制御)システムが反応しなかった!?でも……榊先生。その……他の神様と言っても……神様は、たくさんいらっしゃいますが……」
困惑したように島田が、榊に言葉を返した。
「ええ、その通りです。日本各地には、多くの神様がいらっしゃる……その中でも、不帰山は……。不帰山で、その御身体を横たえ、大地の熱を鎮めるための寝所とされている神様……それが、火の神様なのです」
「火の神様……それは、もしかして、火之迦具土神ですか?」
島田の言葉に、榊は黙ったまま深く頷いた。
「今回の地割れは……大地が内側から弾け飛んだということですからね。それが、ただ単に、神が寝返りを打っただけのか……それとも、誰かの心の叫びに、カグツチが呼応して大地を引き裂いたのか……という可能性もあると、私は考えているのです」
背後で、重いため息を吐く音がした。
トレーニングウェア姿の零の瞳には、画面に映る天変地異の恐ろしさよりも……その先にある漠然とした嫌な予感と、恐怖が色濃く浮かんでいた。
「あの……神主さん。私、よく分からないのですが……その火之迦具土神って……そんなに、怖い神様なんですか?」
零の問いに、榊はゆっくりと振り返った。
「新堂さん。カグツチという神は、生まれた瞬間に最愛の母を焼き、死に至らしめた。そして、父に斬られたという悲劇の神なのです。己の意思に関わらず、望まぬ破壊を宿命づけられ……ただ、そこに存在したというだけで、周囲を焼いてしまった。今回、それは……何かが……カグツチの孤独や悲哀に共鳴してしまったのかもしれないのです」
榊は、モニターに映る真っ黒な海水温の上昇図を指差した。
「太陽(天照)が、その眩しい光で、白日の下へと、引き摺り出そうとするならば……火の神は、慈悲を以て大地を割り、彼を熱い泥の中へと隠そうとしたのかもしれない。そして何よりも、あの地には……あるこころざしを完遂しようとする男がいるのです」
「男……?」
「かつて、私たちと同じように神道や歴史を学び、やがて神主となりました。しかも彼は、誰よりも深く、深淵の火に魅せられていた……。それが、望月 剛志なのです」




