第四話 陽光
「……ラスト一周だぞ!最後まで、気を抜くな!」
荒くなった呼吸を規則正しく整えながらも走るスピードを維持できるようになってきた。額には汗が光っている……その表情は、なぜか晴れやかだった。
終了の合図とともに、一塊になっていた人たちが、解けるように散らばっていく。
その中でも、ひときわ小柄な人物……新堂零が、足を緩めることなく、ベンチに置かれている小さなバッグに駆け寄る。
バッグを手にした零の足が、ようやくその場に止まった……が、その手は忙しそうにバッグの中からスマホを取り出そうとしている。
「ふぅー、佑真……起きてる……かな?」
弾む息を整える前に、もうスマホの画面で連絡先を開いて……ようやく零の動きが止まった。
数秒間、零のはやい呼吸音だけが聞こえる。零が耳に当てていた画面を一旦離して、再び耳に当てた。
また、数秒間……動きが止まった。今度は、画面を叩いたりスライドする動きに変わり……直立不動からベンチにゆっくりと腰を下ろした。
「終わったようですね……」
ある特殊祭祀法人の建物の一室にある窓辺から、トレーニングの様子を眺めていた島田が榊に声をかけた。
「新堂さんの様子は、いかがですか」
「はい、本格的なカリキュラムをこなしていますよ……それも、速いペースで」
榊の問いに、法人のリーダー的存在の島田が責任者らしく無駄のない報告をした。
彼らは、佑真の力をサポートする為に自らの努力を惜しまない人たちだ。
「島田先生、すみませんが……新堂さんと少し話す時間を作っていただけますか」
「はい、もちろんです。ちょっと、お待ちください」
そう言って、島田は早足で部屋を出ると。靴音を響かせながら、階段を降りていった。
立ち上がった榊は、先ほどまで島田が立っていた窓辺にゆっくり歩き、グラウンドの隅に置かれたベンチに座っている零の姿を見つめた。
しばらくすると、細身のスーツ姿の島田が、軽快に零がいるベンチへと駆け寄っていった。
何やら言葉を交わし、島田がこちらに向かって指先を向けた。立ち上がった零と島田が、並んでこちらに向かって歩き出した。
「……先生、我々は……次に何をすれば……」
「……待て……今は、まだ眩しくて……よく見えない……」
暗い社の奥で、男とその傍らの影が低く、小さな声で言葉を交わしていた……。




