第二話 光の槍
翌朝、カーテンの隙間から差し込んだわずかな光の槍が、佑真の部屋の中を突き刺している。
普段なら気にも留めないはずだった朝日が、今の彼には耐え難い痛みのように感じられた。佑真は呻き声を漏らし、布団を頭から被った。そして、以前と同じように……その太陽光を遮断しようとしていた。
体は鉛のように重い。だがそれは、昨日のトレーニングによる筋肉の痛みとは違うものだった。
佑真の心の中には、まるで底の見えない深い闇が広がり始めているかのようだった。
『昨日も、あの夢をみた……もう、何度目だろうか。毎回、同じだ……』
島田たちと共に闘ったあの事件の残像……。心の闇に狂わされた人々の、あの血走った狂気の目。そして彼らが、自ら勧んで闇の向こう側へと引きずり込まれていった……。
それらが、質量を持った重りのように、佑真の心を深みへと沈めていく。
「……もう、いいだろ」
独り言が、冷たい部屋の中で、こぼれ落ちた。
『何を守るために、自分はこんな厳しい現実を背負わされているのか……』
責任感や義務感といった正しさが、今の佑真には、自分を痛めつけるだけのように思えてならなかった。
『いっその事……思考を止めれば、楽になれるのか?
昨夜の夢に見た、あの境界の曖昧な闇の中へ溶けてしまえば……この心の痛みも、責任という重力からも解放されるのではないのか……』
暗い部屋の中で、自問自答の時間だけが過ぎていった。
そんな佑真が、時間を確かめようと、スマホの電源を入れた……その途端、画面には不在着信とメッセージ受信の振動が続いた。
零からのメッセージだ。
『おはよう!』
『起きてる?』
『今日も天気がいいから、外の空気吸いなよ!また連絡するね』
『お昼だよ~!ご飯食べた?また後でね』
その文字から溢れる元気と明るさが、今の佑真にはあまりに眩しすぎた。
佑真は、またスマホをベッドの上に放り投げた。
一方、その頃。
ある特殊祭祀法人の一室で、榊泰然と島田が困惑した表情でタブレットをのぞき込んでいた。
「……榊先生。これを見てください。佑真くんの体力測定の結果ですが……。トレーニングの前と後での……数値の落差が大き過ぎると思われませんか」
「そうですね……単に、体力がないというレベルでは、なさそうですが……」
榊は、島田が差し出したモニターの波形や平均値との比較データを食い入るように見つめながら呟いた。
そこには、生命の躍動を塗りつぶすような波形と奇妙なリズムが刻まれていたからだ。
「一体、この波形は……」
「……もしかしたら……岩戸が、内側から閉まろうとしているのかもしれませんな」
榊の声は、かつてないほどに沈んでいた。




